ペット達
ちょっと閑話的。
――ユキ配下の、リル以外の四匹。
大蛇のオロチ、大鴉のヤタ、白猫のビャク、水玉のセイミ。
ダンジョンの魔物である彼らは、生まれた瞬間から成体であり、ある程度の知識、力を持っている。
それは、即座に戦力として活用することを可能とさせるための措置であり、ただ真っ当な成長の仕方ではないため、その弊害も少なからず存在していた。
――つまるところ、彼らは若干常識というものが抜けていた。
野生生物は、厳しい自然環境の中で生き抜くことで、知恵をつけ、理を知る。
ヒトであれば、日々の生活で他者を交わり、一つ一つ教わり、間違え、学んでいくもの。
勿論、魔境の森は世界でも類を見ないような過酷な環境であり、ダンジョンの魔物としてある程度の知識を持った上で、仲間達と交流することでそういうものを知っていってはいる。
ただ、やはり生まれてからの期間がまだまだ短いせいで、肉体と精神年齢は成体であるのに対し、知らないことやわからないものが非常に多いのである。
良くも悪くも、純粋なのだ。
リルもダンジョン産の存在である訳だが、彼は非常に賢く、一から十を知ることが出来るような性質であるため、周囲への観察と思考によって自然と早期にそういうものを身に着け、上司として振る舞えるだけの知恵を身に着けていた。
リル以外のペット四匹の中で、まとめ役をしている白猫のビャクは比較的常識がある方だが……それでも、ちょっと抜けているところがあるのだ。
そのため振り回されるのは、四匹のさらに部下である魔境の森の魔物達と、そしてやはり、リルである。
「……クゥ」
ス、と顔を逸らすオロチとビャクに、リルはため息を吐く。
彼らの前に広がっているのは、ボコボコの大地。
新技の練習、研究を行っていた結果が、これである。
いや、別にそれだけならば構わないのだが、問題は草原エリアへと繋がる、始まりの扉がある洞窟から、程近い場所をボコボコにしてしまったことである。
もう、何だか焼け野原みたいな光景になってしまっていた。
技の研究に熱中していた二匹がふと我に返り、「あ、これはマズい」と思い、慌ててリルを呼んだというのが、現状である。
彼らもまた、ダンジョンをある程度操作する権限を有しているが、リルに比べると本当に簡易的なもので、出来ることが非常に限定的なのだ。
それ故、何か困ったことがあった場合の後始末は、大体リルにやってもらうことになるのである。
ちなみに、ヤタは今日は一緒におらず別の場所を飛んでおり、そして一緒にいるが全く気にしていないのが、セイミだ。
一匹、「? よくわかんない」といった様子で、気ままにふよふよと漂っている。
まあ、セイミに関してはいつも通りなので、そちらはスルーし、リルは二匹に「……お前達が周りを見ないでどうする。要だろう」と注意する。
オロチとビャク、特にビャクは、リルの次に、皆を見て纏める役である。
ダンジョンの魔物ではない、リル個人の配下軍団もビャクを頼りにしている面があり、なのでリルもまた、彼女に色々と任せることがあるのだ。
ちなみにリルの方は、若干恐れられている。
強さが全ての魔物にとって、リル程に力のある存在は、本人、いや本狼の性格がどうであれ、恐怖の対象なのである。
恐れられ、敬われ、だがそれでも魔物達が集ってくるカリスマ性が、リルには備わっていた。
なので、リル以上に物腰が柔らかで、よく周りを見ているビャクは、やはり恐れられてはいるものの、同じだけよく慕われており、配下魔物軍団の頼れる姉貴分としての立場を得ていた。
オロチも真面目な性格をしており、責任感も強いのだが、しかしビャクよりもうっかりしている面があり、あと単純に体躯が大きく顔が怖いので、ビャク程気軽には頼られていない。ヤタも同様だ。
そして、セイミはセイミとして全員に認識されている。「まあ、セイミさんはセイミさんか……」「セイミさんだもんな……」といった感じで配下魔物軍団からも認識されている。
「……クゥ、ガゥ」
「シュ~~」
「ニャア……」
戦闘では頼りになるペット達だが、普段は主と似てちょっとアレな部分があるということはリルもよく知っているので、「……とりあえずダンジョンの力で直すから、そのためのDPを集めるぞ」と指示を出し、面目ない、といった顔でオロチとビャクはそれに従う。
ペット達以外の配下軍団も巻き込み、行われるのは、鍛錬を兼ねての大規模な魔物狩りだ。
突然招集を掛けられ、魔物狩りに駆り出された野良配下軍団は良い迷惑だったが、縄張りの安全確保の目的で定期的に行われているので、あと彼らは基本的にリル達に絶対服従なので、「あぁ……またか」「まあ、いいか……」といった様子で集まり、敵対的な魔物達へのカチコミを開始。
難を逃れたのは、近くにいなかったヤタだけである。
そうして、数時間後。
必要分のDPが溜まったので、ようやくボコボコになった大地の修復が出来るようになり、ダンジョン産の木々や草を生やし、粗方元の風景に戻ってきた――というところで、遠くからリルを呼ぶ声が聞こえてくる。
「おーい、リル~!」
それは、彼らの主の声。
「お、何かやってたのか?」
「クゥ、クゥ?」
リルは、「いえ、もう終わるところなので。どうしました?」と問い掛ける。
「おう、なんか急に、デカい海鮮食いたくなったから、海行くぞ、海! 海でデカい魔物取るぞ!」
「……クゥ?」
「わからん! まあとりあえず幽霊船ダンジョンの方に行ってから考えよう!」
ワハハ、と笑い、言うだけ言って去って行った彼に、リルは苦笑交じりのため息を溢す。
彼の苦悩は、今日も続く――。