帝都にて《4》
遅れてすまん!
原稿の方がね、ガチ修羅場で超やべぇ、って感じだったもので……。
そっちはどうにか退治し終えたので、再びいっぱい書いていくぜ!
――飛行船にて。
ユキ達について帝都を回った魔界王フィナルは、流石に時間の余裕がなくなってしまったので、本来の公務――『遺跡調査』の仕事に取り掛かるために彼らと別れ、飛行船に乗って移動を開始していた。
本来、遺跡調査などというのは彼のやるべき仕事ではないのだが、しかし前皇帝シェンドラならぬシェンによってもたらされた情報により、今回のこれは自らの仕事であると判断し、魔界での仕事に一区切りを付けてローガルド帝国へと訪れていた。
というのも、シェン曰くその遺跡は、どうやら『記録庫』として使用されていた遺跡であるらしく、非常に貴重な、あるいは表には出せないような情報が眠っている可能性が高いのだそうだ。
国家が秘匿すべき情報が眠っている可能性がある、遺跡。
しかも、他にはない重い防衛機構が仕掛けられていた遺跡、である。
現在のローガルド帝国皇帝はユキであるが、実質的な執務の大半を取り仕切っているフィナルは、そういう情報の取り扱いをどうするかは、自分が決めなければならないだろうと判断したのだ。
まあ、魔王ユキ、いや魔帝ユキに加えて、精霊王イグ=ドラジールがいたこともあって、その重要な公務を後回しにして帝都観光を楽しんだ訳だが。
「フフ……なかなか、良い経験だったかな」
飛行船の窓の外を眺めながら、フィナルは一人笑う。
――魔界王は、王である。
魔界という広大な領土を治め、魔族という雑多な種で構成される者達の、トップたる者。
さらに、現在では大陸において最も影響力のある王と言っても過言ではなく、歴代の魔界王の中でも彼程に他国に対して発言力を有している王は存在していなかった。
力が全ての魔族において、知を以て治めんとする初の王であり、さらにはそれによって『魔界』という領域の更なる発展、魔族という種の強靭さを、今までよりも強く世に知らしめた者。
幾ら力を信奉する魔族であっても、彼のその手腕は認めざるを得ず、歴代でも突出して非力な王である魔界王は、力なくとも魔族の王なのだと、魔界の者達に認識させていた。
そう、フィナルは、もはや魔族の価値観を変えてしまう程の、圧倒的な能力を見せつけたのだ。
彼は、それだけの、傑物であった。
故に、外出時に自由に行動が出来ることは、少ない。
フィナルには身内がおらず、故に、家族と過ごす時間、といったような、何か特別に時間を捻出しなければならないこともなかったため、本人もまあ別に良いかと、特に窮屈さを覚えることもなく、公務で一日を過ごし、何かあれば必ず護衛付きで動く日々を送っていた。
元より、王とはそういうものである。
力ある者には、代償が伴う。
それは、物理的な意味の力であろうが、権力的な意味での力であろうが、変わらない。
魔界を治める者として、日々に自由がないのは当たり前と割り切り、実際それを苦には感じない精神をしているフィナルであるが――それでも今日のひと時は、立場というものを一切気にしなくて済んだ数時間は、本当に楽しかった。
ただ、ユキの友人フィナルとして、過ごす時間。
彼の家族も、特にフィナルを特別視することなく、ただ夫の友人、兄の友人、主の友人として見るだけで、そこに変に敬いが混じることもなかったのである。
それが、何ともまあ新鮮で、思っていた以上に心地が良く、楽しかったのだ。
――ユキという男は、良き友人であった。
友人という『枠』の中にも幾つかあるが、その中でも彼は、対等に過ごせる存在である。
今では権力的にも対等で、フィナルと同じだけの大きな影響力を持つ存在であるが、しかし本人がそういうのを「面倒だ」と言うだけあって、王ならば大なり小なり言動に混ざる迂遠なやり取りが存在しない。
面倒ならば面倒だと言い、やるのならばやると言い、いつも直接的なのだ。
そう言うと、彼は「俺は魔王だからな!」と言ってよく魔王全般がそういうものだという言い方をするが、まあ間違いなく彼がそういう性格なだけだろうと思っている。
そんな彼と、彼の家族を見て、自分もまた伴侶を持ち、家族ぐるみで付き合うことが出来たら楽しいだろうな、なんてことをふと思ったのだ。
「はは、帰ったら、本気でお見合いでもしてみようか」
以前一度エルフの里でも同じような話題になり、その時に家臣の方がその気になり、実は幾つか見合い話が来ていたのだが、何だかんだ忙しく、面倒だったため全て断っており……ただ、そろそろ、良い頃かもしれない。
すでに二百年は生きている身だ。命が長い魔族でも、とっくに伴侶を得ていても良いくらいの期間を独り身で過ごしている。
少し、本気で相手を探してみても、良い時期だろう。
――今日、得られた経験には、もう一つ非常に大きなものがある。
精霊王イグ=ドラジールと、顔見知りになれたことだ。
これは、自身にとって大いなる財産であると言えるであろう。
あの存在は、遥かなる過去から世界を見続け、その平定に力を貸してきたと伝わっている大賢者である。
比較的他種族より命の長い魔族であっても、数世代に一度、というスパンでしか目撃情報が出ることはなく、ましてや実際に出会い、言葉を交わしたとなると、果たして歴代の王の中にいただろうか。
まさか、こんなところで、こんな風に友好関係を築けるとは、思いもしなかった。
全く、ユキという男と出会う度に、毎回このような驚くべきイベントごとが起こっているような気がするのは、気のせいだろうか。
いや、確実に何かしらが起こっているように思う。
きっと彼は、そういう星の下に生まれたのだろう。
まあ、そうでもなければ、魔王でありながら、人間国家の皇帝になど、何があってもならないだろうが。
飛行船の窓の外を眺めながら、愉快に一人笑みを浮かべていると、付いて来ていた部下の一人が彼の下へ報告に訪れる。
「フィナル様。城塞都市『フルムンド』到着まで、残り三十分程です」
「はーい、了解」
――さ、仕事の時間だ。
切り替えてやっていくとしよう。
◇ ◇ ◇
帝都観光は、楽しかった。
突然だったので、やっぱりそう多くを見れた訳ではなかったし、夕方になるくらいには終わりにしたのだが、突然の観光としては十分以上に楽しめたと言えるだろう。
魔界王は、やはり結構無理に付いて来ていたのか、流石に時間がマズくなったらしく途中で仕事に戻り、精霊王もまた色々と見て回った後に、満足してくれたようで、フラリと歩いて帝都を後にした。
帝都を見たい、と言った精霊王だが、彼は建築などにも興味はあるようだが、それ以上に人の生活、営み、そういうものの方が特に興味があるようで、熱心に人々の暮らしぶりの様子を見て、案内に付いて来ていた例の執事に、色々と質問をしていた。
いわゆる……文化人類学、って学問の領域だろうか?
俺もそう詳しくはないが、確か、その文化圏における人々の暮らしぶりや生活習慣、そういうのを探っていく学問だったはずだ。
俺が知っているのだと……わかりやすいところだと、やっぱり美人の価値観、だな。
例えば、前世の平安時代で美人とされていた女性と、現代で美人とされる女性は当然ながら全然違う訳で、ということはつまり美人とは、その時代における文化によって定義が変化していくのだ。
現代であっても、日本における美人と外国における美人の定義は違うし、同じことが料理や建築、流行り廃りに表れる訳である。
そういうのを見ながら、精霊王はしばらくローガルド帝国周辺を放浪して、それからどこか別のところへ行くと言っていた。
その内……彼とは、また再会することが出来るだろう。
遺跡の蟲退治から始まり、色々とあった一日だったが、非常に充実した時間を過ごせたと言えるだろう。
今日のことを思い出しながら、すでに夢の中の幼女達の寝顔を見て、流石に疲れたのでそろそろ俺も寝るか、と思っていると、同じように起きていたレフィが声を掛けてくる。
「そう言えばユキ、勝負がまだ途中であったな」
「ん? あぁ……そう言えばやりかけだったか」
将棋をやってる最中で、呼ばれてやめたんだったか。
「よっしゃあ、やるか。今日はマジで楽しかったし、最後に勝負でも勝って、良い気分で一日を締めくくるとしよう!」
「もう日付は変わっておるがの。ま、残念じゃが、気持ち良く眠るのは儂の方にさせてもらおう! お主は悔しさに歯ぎしりしながら……歯ぎしりされたらちょっと嫌じゃな。すとれすがあるのかと、心配になる」
「急に真面目になるのやめてください。――えっと、この盤面は……あれ、今どっちの手番だ?」
「……わからぬから、最初からやるか」
「そうだな」
そうして俺達は、普通に一から勝負を開始する。
「そうだ、お前、体調は……どんな感じだ?」
「うむ、問題ないぞ。妊婦は体調が荒れがちになると聞くが、今のところは特に、何もないの。ただ……自身の中に、もう一つ命がある、というのは、日々感じられておる。安心せい、お主の子は、しかと成長しておるぞ」
「……そうか」
俺が、頬をポリポリと掻いていると、こちらの内心を見抜いたのか。
「油断したな、ユキ! ここじゃ!」
「!? ぬわぁっ、クッ……一瞬の動揺を見逃さず、突くその手腕。我がライバルとして、認めざるをえんな……!!」
「勝負の世界は甘くないぞ。集中出来ておらんのならば、このまま儂が食ろうてやろう!」
「抜かせ! この程度、良いハンデだ! お前と俺との格の違いを見せてやろう!」
「吠えよったな! いい度胸じゃ、お主の格、儂に見せてみぃ!」
いつものやり取りは、終わらず続き――。




