精霊の使い方
浮いたローブの奥に見える、淡く煌めく光。
ヒト種ならば、手があろう位置に、ふよふよと独りでに漂う杖。
そして、頭に直接語り掛けてくるかのような、この威厳のある声。
間違いない、精霊王だ。
『なかなか、精霊の扱い方が達者となっておるようだ。この短期間で、大したものである』
「あぁ、イルーナに教えてもらって、そこから練習してさ。アンタに教えてもらった精霊術、本当に助かってるよ。……まさか、こんなところで会えるとはな」
前回会った時から、少し前ぶり、と言う程短い間隔じゃないはずだが……いや、精霊王の時間感覚からすれば、この再会は相当に早いのだろう。
レフィよりも、恐らくその他の種族よりも、長く生きているらしいじーさんだからな。
『……おじいちゃん、こんにちは』
『うむ、こんにちは。変わらず、良き魔を宿しておるな、剣の幼子よ』
「……色々、本当に色々アンタと話したいことはあるんだが、それは後にしよう。――女王だって?」
『うむ。この蟲どもは女王が存在し、その女王が他の子蟲を生み出すのだ。貴公が撃滅した子蟲ども、ゴーレムであるにもかかわらず、岩や森を食しておっただろう?』
「……なるほど、自分らを造るために必要な材料を食ってやがったのか。ソイツの居場所……あそこか」
『うむ、そうであろうな』
蟲どもが周囲を散々に食い散らかし、木々や緑がほぼ無くなっているため、よく見える。
――ここから先、恐らく四キロから五キロ程先にある山の斜面に形成されている、デカい穴。
まず間違いなく、あれだろう。
というか、現在進行形で、少しずつそこから蟲が這い出してきている。
……あんなにぶっ壊したのに、まだいんのか。
確かにこれは、さっさと親玉をぶっ殺さんと、キリが無さそうだな。
「お前ら、目標はあれだ。行くぞ」
ペットどもにそう声を掛け、次に精霊王に顔を向ける。
「精霊王、アンタは……」
『協力しよう。元よりそのつもりで、こちらに来たのでな』
「助かる、アンタがいるなら、百人力だ」
いや、マジで。
レフィ並の実力者だし。
……というか、今まで気配を気付けなかったんだが、こっちが戦闘中だから抑えてたんだろうか。抑えてたんだろうな。
うーん……早いところ、ローガルド帝国のマップの設定、しっかりやっておかないとか。
じゃないと、今回みたいになりかねん。
そうして、精霊王と共に、蟲どもの生き残りをぶっ殺しながら先へ進んでいく。
数が揃っていないのならば、俺らにとってはただの雑魚なので、特に苦戦することもない。
精霊王もまた、ス、と杖を掲げると、前方の蟲数匹が同時にブチュッと潰れ、死んでいく。
『ふむ……随分と力が伸びておるが、なるほど、種族進化をしたのであるか』
「あぁ、ちょっと前にな。信じられない話かもしれないが……神に会ったんだ」
そう言うと、ローブの顔の部分がこちらを向く。
『ほう……その言い方であると、貴公、「始まりの者達」と会ったのか』
……やっぱり、精霊王は何か、知っていることがあるんだな。
「始まりの者達……『ドミヌス』と、『ガイア』によって生まれた神々のことか?」
『やはり知っておるのだな。貴公が会ったのは?』
「ルィンって神様だ。――この槍の中にいた」
そう言って俺は、アイテムボックスから神槍ルィンを取り出し、精霊王に見せる。
すると彼は、顔などないのだが、どことなく懐かしむような、遠い過去を見るような、そんな様子で口を開く。
『懐かしい槍だ。未だ、形を残していたのであるか』
「……精霊王、アンタ、もしかして神代から生きてるのか?」
彼は、笑うように、ローブの奥の光を点滅させる。
『フ、あの頃はまだ、意識もほとんど存在せぬような、一介の精霊であったがな。――さて、着いたぞ』
◇ ◇ ◇
大穴の中に入ると、まず目に付いたのは、綺麗に残された遺跡。
恐らく発掘作業のために人間達が用意していたのだろう、木組みの足場の残骸や、何かしらの道具類は、食われたのか食べ残しのカスみたいなものだけが残っていたが、遺跡だけは一切触れられておらず、風化している以外は、非常に綺麗に残っていた。
……やっぱり蟲どもは、この遺跡の防衛機構なんだな。
ここを守るように、プログラムされているのだ。
人間達は長い期間発掘を続けていたようだし、いったい何を掘り当てて、突然動き出したんだろうかね。
中は外よりもまだ蟲が残っていたが、それでもこの程度ならば何も問題ないので、一切歩みを止めずに敵性反応がビンビンに感じられる奥へと進んでいき――やがて、ソイツが現れる。
――前世で有名な、恐らく誰もが知っているであろう『エイリ〇ン』シリーズ。
あの映画には、『ゼノ〇ーフ』という化け物が出て来た。
姿自体はきっと、誰もが知っていることだろう。
非常に気持ちが悪く、誰もが嫌悪感を覚えるような、不安感を覚えるような。
さらに、一目見て強いということがわかる、秀逸なフォルムをしたクリーチャーである。
そしてその中には、『クイーン』と呼ばれる個体が存在しており、見るからにデカくて超強そうで、初めて映画を見た時はなかなかに恐怖を煽られたものである。
つまり、何が言いたいのかと言うと――目の前で、俺達に向かって歯を剝き出しに唸っているヤツは、そんなクイーンを思い起こさせるような個体だった。
種族:インセクト・リビングゴーレム・クイーン
レベル:5??
「……強いな」
道中でぶっ殺してきた蟲どもに比べ、数倍はあろうかというデカい体躯。
基本は他のヤツらと似ているが、なんかこう、全体的にトゲトゲしく、鋭く、見るからに堅そうだ。
特に違う部分は……蟲ならば『腹』、と呼ぶべきだろうか。
蟲どもを生み出す器官があるからだろう、他のヤツらと違ってそこが非常に大きく、太く、腹だけで四トントラックばりのデカさがあるのだ。
今の俺より格上。
恐らく、魔境の森の西エリア級のヤツ。
倒せないことはないだろうが、しかし、死力を尽くす必要があるであろう敵。
事前に上級マナポーションを呑んでおいたおかげで、魔力はまだ余裕があるが……。
『ふむ、良い機会だ。貴公、見ておれ』
「……やってくれるのか?」
『うむ。貴公に力を渡した身として、精霊の何たるかを、見せておこう』
そう言って精霊王は、スー、と空中を移動するように、前へと出る。
ヤツは、ゴーレムでありながら彼の脅威がわかるようで、幾つもある無機質な瞳に警戒の様子を見せ、羽根を震わせて最大限に威嚇を行っている。
『精霊の強みは、ほぼ全ての者が見えぬ、という点にある。貴公の妻や、あの羊角の娘のように、魔を見る力が相当に優れた者でなければ、存在に気付くことも出来ぬ。――このように』
次の瞬間、何の予兆もなくドォン! という腹の底に響くような音が響き渡り、同時に蟲女王の羽根が全て爆ぜる。
『――――!!』
蟲女王は発声器官を有していないようだが、悲鳴と怒りが混ざったかのような音を、ギチギチと身体を動かして鳴らし、次にドドド、と地面を張って突進してくる。
だが――遅い。
何の脈絡もなく。
ストン、と、その首が落ちる。
蟲だからか、それともゴーレムだからかはわからないが、なおも動いていた蟲女王は、しかし次々に身体の部位を、まるで斬られたかのようにストン、ストン、と落としていき――出来上がるのは、バラバラの残骸。
蟲女王は、絶命していた。
「……今の攻撃は?」
『風の精霊によるものである。風の刃――いや、正しく言えば、空間の断裂、であるか? 時空と時空に隔たりを設け、空間の連続性を断つことで、対象を斬るのである。慣れれば、貴公も使えるようになろう』
「……そ、そうか」
平然とした様子でそう言う精霊王に、俺は若干苦笑い気味にそう答える。
うん、まあ……レフィと同じく、災厄級に分類される存在だもんな。
基準が、こんなおかしくても仕方がないか。
皆さん、あけましておめでとうございます!
いやぁ、年明けの挨拶も、何度目になりましたかね。
一つ言っておくと、読んでくれる方がいるから、こうやって長く続けることが出来ています。作家ってそういうもんです。いや、マジで。
いつもありがとう! 超感謝やで!
2021年も、書きまくった一年でしたが、2022年も、書きまくる一年にしたいと思います!
今年も、どうぞよろしく!




