異変《3》
兵士達が全員引いた段階で、ウチのペット軍団も本気を出し始めたようで、聞こえてきていた戦闘音が一段階デカくなる。
俺もまた、すぐに城塞都市から飛び出すと、彼らとの合流に向かいながら体内魔力を巡らせ、高めていく。
俺が持っている攻撃手段の中で、対多数戦闘に適しているのは、いつもの水龍があるが……近くに川がないな。
水場が近くにあるのならば、もうデカいのを作りまくって一掃してしまえるが、無いのならば少々効率が悪い。
ならば使うのは――精霊魔法『レヴィアタン』だ。
あれも水場の方が効率が良いが、色んな精霊に力を借りる分、水龍よりはマシだからな。
しかも今の俺ならば、以前よりさらにパワーアップしたものを、三体くらいは同時に展開出来るはずだ。
「うし、派手にやるか!」
俺は、周囲を漂う――あの蟲どもの襲撃で山や森の住処を追われ、こっちの方に逃れてきた精霊達に魔力で以て語り掛けると、周囲に彼らを大量に集める。
もう、大量に、だ。
精霊が見えるヤツが近くにいたら、さぞ綺麗な光の乱舞が見えていることだろう。
空間を漂う精霊達は、自分達の家を取り戻すために、いつもより積極的に俺へと協力してくれ――現れるのは、三体のレヴィアタン。
以前は、一体出すので手一杯といった感じだったが、今は三体同時に出しても、まだまだ余裕があるのを感じる。
「行けッ、蟲どもを根絶やしにしろ! 特に足が長くて多い系のヤツと、カサカサ動くようなヤツを念入りにぶっ殺せッ!!」
別にあの蟲ゴーレムどもは、そんなに足が多い訳じゃないし、そこまでカサカサ動いてることもないが、俺の指示に従いレヴィアタン軍団は、蹂躙を開始。
コイツらの基本的な攻撃方法は、『あばれる』か、『龍の咆哮』を模したビームで、そっちは小威力ビーム、高威力ビーム、全力ぶっぱビームを使い分けて戦う。
ただ、後者は内包している魔力を使用しての攻撃なので、高威力ビーム、全力ぶっぱビームを使用すると、以前は下手すれば数秒で肉体の崩壊が始まってしまっていたのだが、今は魔力に余裕があるため、コイツらが使った傍から補給してやることが可能だ。
フフフ、いいな、覇王となったこの身体。
自分でも、驚く程魔力に余裕があるのがわかる。
今なら……さらに強力な精霊魔法も、開発出来るかもしれない。
俺より精霊に魔力を渡して魔法を発動した方が、効果が高くなることはすでにわかっているので、暇が出来たら新たな攻撃手段を考えたいものだ。
そして、他のペットどもは、レヴィアタンが正面で火力を発揮している間、ソイツらを中心に展開し、慣れた様子で戦っている。
魔境の森でも、何度もレヴィアタンを出したことがあるので、その際の効率の良い戦い方を理解しているのだ。
次々とぶっ壊れ、四散する蟲ゴーレムども。
俺達を標的に定め、反撃を開始しているが、為す術無し。
「フハハハ、死滅しやがれ、蟲どもめ!」
お前らが死んでいくサマを見るのは、気分が良いなァ!
――と、蟲ゴーレムどもがゴミのようにぶっ壊れていく光景を見て、俺が気分良くなっていると、その時ヤツらの動きに異変が起こる。
まず、少し後ろの方の蟲ゴーレムどもが、空に向かってギチギチと鳴き始め、それに共鳴するかのように、他の蟲どももまた鳴き始める。
連鎖していく鳴き声。
やがてその不快な合唱は、空間を震わせる程の大きなものとなっていた。
「う、うるせぇ! 何だコイツら!」
変化は、すぐに訪れた。
まず最初に起きたのは、蟲ゴーレムどもの身体の変化。
ヤツらの中で、羽根持ちは全体の半分程度のはずだったのだが、突然ブチリ、と背中の形状が変化したかと思うと、そこに羽根が生み出され、その変化が完了した個体から次々と飛行を開始する。
そして、何やら一か所に集まり始め――げっ!?
最終的に出来上がったのは、まるで一体の巨大生物と化したかのような、蟲ゴーレムの群体。
蛇のように空中でうねり、そのまま向かってくる。
俺へと。
恐らく、こちらの司令塔が誰なのかを、ヤツらも理解しているのだ。
「レ、レヴィアタンッ!! 全力で真ん中を撃ち抜けッ!!」
俺の指示に従い、三匹のレヴィアタンは大口を開き、カッと龍の咆哮モドキのビームを放つ。
戦慄く空間。
全力で放っているため、すぐに肉体が崩壊を始めるが、俺が本気で魔力供給を行うことで、その崩壊を防ぐ。
全力で放つビームに、蟲ゴーレムどもの正面は一瞬でぶっ壊れて吹き飛び、消滅するが――しかし、間髪入れずに後ろから前へと、まるで盛り上がるように出て来たヤツらによって穴が埋められ、修復される。
吹き飛び、即座に修復し、そして吹き飛び、また修復する。
そして、どうやらこちらの攻撃力よりも、ヤツらの数と穴を埋める速度の方が上なようで、徐々にこちらへと迫ってきている。マジでキモい。
「や、やめろ、こっち来んなッ!!」
我がペット達も、各々が持つ手段で蟲ゴーレムの群体を削っていくが……止まらない。
俺もまた、魔力供給を続けながらエンを振るって『魔刃』を放ち、そこでようやく、拮抗する。
俺達全員が全力で攻撃することで、俺達の攻撃能力とヤツらの修復能力が互角になる。
「いい度胸じゃねぇか、蟲どもッ!! 所詮テメェらは、殺虫剤を掛けられたら死ぬ存在だということをわからせて――うわッ!? き、きめぇッ!?」
蟲ゴーレムどもは、何か酸みたいなものを突如ブシュゥ、と噴射し始め、それが束になって、まるでビームが如く感じで撃ち返してくる。
色がキモく、ちょっと粘りけがあり、酷い臭気もあり……非常に気持ちが悪い。飛び散った液体が地に落ち、シュゥ、と溶けたのが見えた。
そのビームのせいで、拮抗は終わり、再びヤツらの方が徐々に押し始める。
「あああクソッ、何でそう、お前らは的確に、人のトラウマになりそうなことをしてくるかなぁ!? 勘弁してくれッ!! ホントにッ!! マジでッ!!」
蟻に始まり、蜂、蛆、ゴキ。そしてこの蟲ゴーレム。
何でコイツらは、こんなに気持ちが悪いのか。
俺が特別嫌いっつーのもあるかもしれないが……いや、俺じゃなくても、こんなサイズの虫、もしくは蟲に襲われたら、誰でも悲鳴をあげるはずだ。
俺は普通だ。強いてあげるなら、この世界がおかしい。
うん、この世界がおかしい。
徐々に狭まる距離。
だんだんと残り魔力量も危険な域に近付いていき、思っていた以上の苦戦に若干冷や汗を掻き始め――だが、今度は逆に、距離が開いていく。
弱まる圧力。
いつの間にか、群体は消滅していた。
同じ数だけの大量の残骸が、変形した大地に残されている。
「フー、フー……お、終わりか?」
当たりを見渡し、マップを確認するも、近くに敵性反応は存在していない。
どうにか、万以上は確実にいたであろうあの軍勢を、殺し切ることが出来たようだ。
恐らく、十分も戦っていなかったと思うが……俺の実感としては、もっともっと長い時間戦っていたような気がする。
もうホント、こういうヤツらとの戦いはこれっきりにしたい。
とりあえず目の前から蟲どもがいなくなったことに、安堵の息を漏らし――という時だった。
『――あの蟲どもは、女王が存在する。それを潰さねば、再び同数が造られるぞ』
聞こえてくる声。
「え? ……せ、精霊王!」
『少し前ぶりであるな、魔がたる王よ』
そこにいたのは、見覚えのある、浮かぶローブ。
――精霊王イグ=ドラジールだった。




