奥地へ《5》
トラップを起動すると同時、ドン、という、腹の底に重く響く音が駆け抜け、砂埃が高く舞い上がる。
木々が揺れ、俺達のところまで衝撃が訪れる。
並の生物ならば、骨すら残らないであろう規模の爆発だが、魔境の森の魔物――いや、魔物じゃないな。ゴーレムだし。人工物だし。
まあとにかく、魔境の森の住人だ。
かすり傷も負わない、なんて可能性も有り得なくはないのだ。アイツ、見るからに固そうだし。
だからコイツも、このまま埋めてしまおうと思う。
以前、気色の悪い寄生虫野郎を、地底世界に埋めたのと同じだ。
上から土を被せ、硬化で全て固めちまうのだ。
あの時との違いと言えば、奴が無機物で、窒息で動かなくなることはないだろう、という点だが――俺達の目的は、あの洞窟へと侵入することだ。
極論すれば、ヤツをスクラップにせずとも、良い訳である。
爆発が起きるや否や、俺は新たなトラップを穴の上に設定し、そして即座に起動させる。
これは、大量の土砂を生み出して、流し込むものだ。
地上部分は、ヤツに気付かれる可能性が――というか、一回試したところ、速攻でバレてぶっ壊されたので、事前に設置することは不可能だったのだ。
空中に生み出された土石流は、ものすごい勢いで穴に流れ込んでいき――危ねッ!?
危機察知スキルに従い、避けると同時、目の前の地面からビームが突き抜ける。
アイツ、見えてなくとも敵を捕捉する手段があるのかと一瞬焦ったが、その後やたらめったらに放たれるビームを見る限り、どうやらテキトーに連射しているだけのようだ。
これではっきりした。
危機感知能力はあるようだが、ヤツの周囲の認識方法は、目だけだ。
俺は、急いで地面を『硬化』で固めていき、だがそれも不完全なようで、硬化した地面がドン、ドン、と跳ねているのがわかる。
マズいな、今まで硬化を壊されたことはなかったが……コイツレベルになると、そうもいかないか。
「チッ……まだ先の確認が出来てねぇが、リル、突っ込むぞ!」
「クゥッ!」
倒し切れそうにない、と判断した俺は、リルと共に、どんどんヒビ割れが増えていく地面を駆け抜け、例の洞窟へと向かっていく。
あの洞窟の中がヤバくとも、逃げるだけなら、ダンジョン帰還装置があるため、まだどうにかなるはずだ。
一キロ半程は離れているが、俺達の身体能力なら、一瞬の距離。
全力ダッシュし、ヒヤヒヤしながら阿修羅ゴーレムがいた地点を越え、洞窟の中へと飛び込む。
そして、仮にヤツが這い出てきてもこちらを視認出来ないよう、エンを振り抜いて『魔刃』を放ち、天井の一部を斬る。
ガララと崩れ、落ちてきたガレキが入り口を塞ぎ、陽の光が遮られる。
「……何とかなった、か?」
外ではまだ、元気に暴れているようだが、ヤツはこちら側には攻撃しないように設定されているようだ。
乱射しまくっているビームが、一本も来ない。
残る問題は、この洞窟内部の危険性だが……ありがたいことに、この中からは敵性反応が感じられない。
索敵スキルに反応は一つもない。
ただ、暗いな。
明るいところから急に暗いところに来たせいで、よく見えない。
俺は、原初魔法で光球を生み出して明かりを確保し――先に気付いたのは、エン。
『主!』
「え? うおっ!?」
――内部の壁際に、ズラリと並んでいる、阿修羅ゴーレム。
どう見ても、外で暴れているヤツと同型。
この数を相手するは、無理である。
待っているのは、確実なる、死。
即座にダンジョン帰還装置を起動し掛け――そこで、やめる。
「……動いてないな、コイツら」
『……魔力、感じられないね』
表で作動していたヤツとは違い、壁際に並んでいるコイツらは、ただのオブジェクトなのか、それとも動力が切れているのか。
ジッとしたまま、動かない。
瞳の部分の宝玉に光がなく、俺達を見ていない。
と、リルは、警戒しながら阿修羅ゴーレムの近くまで行き、スンスンと臭いを嗅ぐような仕草を見せると、「クゥ」と鳴いて首を横に振る。
やはりコイツらは、現在スイッチが入っていない状態であるようだ。
……けど、何かトラップとか踏んだりしたら、一斉に動き出しそうで怖いな。
イン〇ィ・ジョーンズとか、トゥー〇レイダーとか、遺跡では定番の状況だ。
変なもの、触らんようにしておかないと。
「……先、進むぞ」
エンを掴む指に力を込めながら、緊張と共に、中央に一本通っている通路を進んでいく。
内部は、阿修羅ゴーレム基準なのか知らんが、非常に広く、天井も高い。
朽ちてほぼ自然と一体化していた表と違い、まだ大分形が残っているな。
古びて、色落ちしているのは間違いないが、細かな装飾等もしっかり残っており、レイラがここにいたら狂喜乱舞して辺りに突撃していきそうだ。
通路の端にはデカい柱が点々と並び、全体的に荘厳な――ちょっと待て。
この、柱の装飾。
「…………」
俺は、一つの予感を胸に、先へと進んでいき――やがて、その部屋に辿り着く。
そこは、玉座の間だった。
見たことのあるレイアウトに、見たことのある玉座。
そう、我が家の玉座の間と、非常に似通った造りである。
「ここ……ダンジョンか」
『……お家に、とっても似てる』
「あぁ」
……いや、けど、全く同じでもないな。
特に違うのが、玉座の作りだ。
置かれている位置は一緒だが、まるで作った職人が違うかのように、意匠が違っているのがわかる。
一種の個性なのだろうか。
まあ、我が家は玉座の間を完全なるリビングとして扱っているが、こっちは違うようで、装飾からしてしっかりと玉座の間っぽい雰囲気があるがな。
ただ、ここには、あるものが感じられない。
――ダンジョン空間ならば、満ちているはずのダンジョンの魔力、だ。
俺は感覚が鋭い方ではないが、ここにはそれがないことくらいは、俺にもわかるのだ。
周囲を多少捜索してみるが……やはり、ダンジョンコアも見つからない。
となると、考えられる可能性は、一つ。
ここは――恐らく、ダンジョンの跡地だ。
死んだダンジョン、と言うべきだろうか?
コミックス6巻発売しました!
どうぞよろしく!
あ、新作も一緒にお願いします(小声)。