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奥地へ《1》


「――よし、リルはもう完璧じゃな。それならば、木々に紛れることも簡単じゃろう。ユキは……出来てはおるが、まだ少々不安定じゃな。気を抜いたらすぐに気付かれるぞ」


「ぐ、ぐぬぬ、同じだけ練習したはずなのに……」


「ク、クゥ」


「諦めい。リルは日々森で暮らしておるし、野生のことがわかっておる。そういう点で言えば、儂らより適性があるのは当たり前のことじゃの」


 ……まあ、そうだな。


 それに俺は、お世辞にも器用とは言えない。

 対してリルは、狼とは思えないくらい器用である。


 こういうところで、その差がわかりやすく出て来るな。


「じゃが、しかと気を張っておる時ならば、そう簡単に気付かれもせんじゃろう。――森に入るのならば、気を付けい。今のお主でも、同格や格上は、無数におるでの」


「あぁ、十分に気を付ける。んじゃ、行ってくるよ」


「……行ってきます」


「クゥ」


「うむ、無事の帰りを待っておるぞ。無理せずに、の」


 レフィに見送られ、俺とリルとエンは、出発する。


 ――目的地は、魔境の森の深部。


 今まで一度も入ったことのない、西エリアの奥地へ。



   ◇   ◇   ◇



 太陽。


 いつでも暑く、年中夏の、この森。


 もうこの気候にも慣れたものだが……ここから先は、俺達にとっても未知の領域だ。


 ――現在位置は、魔境の森の西エリアに、わずかに踏み入ったところ。


 この辺りの、境界付近の魔物ならば、今までも何度か戦ったことがあるが……ここから先は、まさしく人外魔境の地。


 言わば、魔境の森の心臓部。


 今日の目標は、とりあえず行けるところまで行く、だ。

 ダンジョン帰還装置があるため、帰りを考えなくて良いっつーのは、すげーありがたいな。


「行くぞ、エン、リル」


『……ん』


「クゥ」


 エンは気合の入った声音だったが、リルの方は、珍しく緊張を感じさせる様子で鳴く。


 日々魔境の森で過ごすコイツは、俺達よりもこの西エリアの危険性を理解しているんだろうな。


 ――そうして俺達は、内部へと足を踏み入れる。


 少しして、俺は違い(・・)に気付く。


 ……本当に、空気中にある魔素が濃いな。


 俺はそういうのが鈍い方だと散々レフィに言われてきたし、自分自身そう思うが、それでもここの魔素の濃さが違うのはわかる。


 濃過ぎて、少し、息苦しさすらあるかもしれない。


 ……強い魔物が好む環境か。


 ヒト種が、こういう場所から遠ざかった位置に国を作る訳がわかるな。


 魔物が強いから、という理由が第一なのは勿論だが、単純にここは、ヒト種が過ごしやすい環境ではないのだろう。


 今のところ、その魔物との接敵はない。


 イービルアイを全方位に放ち、半径四キロの範囲を常に確認し、適宜進む方向を変更しているのだ。


 例の冥王屍龍の残骸級並のヤツや、そこまで行かずとも、比較対象にアレが上がるような気配の魔物が、ゴロゴロいるのがこの領域である。

 勿論、それより強いだろうと思われるヤツもだ。


 である以上、戦闘は基本的にナシだ。

 逃げ隠れする、というのが一番の対処法である。


 全く、相変わらずこの森は設定がイカれてやがる。

 何がどうなったら、こんなことになるのか。


 狭い地域に――いや、そんな狭くもないが、特定の地域に強い魔物が何百年も密集し続けたせいで、蟲毒状態にでもなってやがんのか。


「……リル。北東、二キロ半先、四足歩行型の魔物にイービルアイが潰された。腹減ってんのか、かなり苛立ってる。喧嘩売られたくねぇ、逃げるぞ」


「クゥ」


 了解、と鳴くリル。


 余計な戦闘をする訳にはいかないので、ほとんどの相手はこうして避けていき――だが、全てが全て、そういう訳にはいかない。


「……クゥ」


「あぁ、わかってる。捕捉されたな。居場所まではまだバレてねぇって感じだが……」


『……やる?』


「やる。今なら、先制出来る」


 今追って来ている相手は、一度俺達の方で回避した魔物だったのだが、雑魚がいる、とでも思ったのか。


 痕跡に感付かれ、少しずつでも確実に近付いて来ている。


 ただ、恐らく以前までの俺達ならば、とっくにここまで追い付かれ、戦闘になっていただろう。

 気配を抑える、もとい気配を誤魔化す方法を学んだおかげで、まだこうして猶予を保てているのだ。


 と言っても、このままでは接敵するだろうが……今ならばここに、『陣地』を形成することが可能だ。


 魔境の森で学んだ、有利に戦闘を運ぶための戦闘術。


 ――トラップ。


 ここは俺のダンジョン領域内ではないため、ダンジョンによるトラップは設置不可能だが、しかし原初魔法によるトラップならば、関係ない。


 森の外に出た時は全然使わないが、この森だと俺と同格や、俺より強い生物がいっぱいいるので、その実力差を埋めるために、トラップ地帯に引き込んで、敵が引っ掛かったところで奇襲、という戦い方が基本になるのだ。


 西エリアで、この戦法がどこまで通用するかわからないが……良い機会である。


 ここで一度、試してみることにしよう。


 俺とリルは、神経を集中させ、極限まで自らの気配を空間に溶け込ませていく。


 エンもだ。


 実はエンも、途中から俺達と同じ訓練を受けていたのだが、彼女の方はあっさりとそれをマスターしていた。


 どうもこれは、彼女が普通の生物ではなく、本体が刀であるから、というのが理由であるようだ。


 何と言うか、魔力、気配、というものを俺達よりももっと客観的に捉えているようで、第三者視点で見ることが可能であるため、その操作の感覚を覚えるのも早かったのだ。


 ウチの子、優秀過ぎんか?


 と、そうしてトラップ地帯で待ち伏せを行っていた俺達のところに――やがて、ソイツが現れる。


 二足歩行。

 ティラノサウルスみたいな見た目をしており、顎がゴツく、大岩だろうが一噛みで砕いてしまいそうだ。


 木々をなぎ倒しながら現れたソイツは、クンクンと辺りを嗅ぎ回っており、熱心に俺達を探し回っている。


 高まる緊張を、俺達は抑えながら待ち――その時が来る。


 ティラノが、トラップ地帯に足を踏み入れる。


 瞬間、ドン、と地面が爆ぜた。


 弾丸並の速度の石礫が無数に辺りへ飛び散り、同時に、鎖で繋がれた、返しの付いた数十もの銛が放たれ、ティラノに突き刺さり、地面と固定される。


 空間を震わす、苦悶の咆哮。


 刹那俺達は、ジュラシックパーク野郎に向かって一気に突撃を開始。


 まず、俺より先に届いたのは、リル。


 神速スキルを使用し、その牙で奴の足の片方を噛み砕く。


 片足を奪われ、ティラノは体勢を崩し――そこに突っ込むのが、エンを構えた俺。


 首筋に向かって、一閃。


 固い。


 まるで鉄を思わせる硬度の皮膚だが……エンならば、鉄でも斬れる(・・・・・・)


 一瞬の抵抗があったものの、彼女の刃は弾かれることなく、その首を斬り落とした。


 俺達の勝ちである。


 ただ、ここで気を抜けないのが魔境の森だ。


 血の臭気で魔物どもが寄ってくる可能性が非常に高いため、すぐに死骸をDPへ変換した後、この場から去る。


 イービルアイでその後を確認していたところ、案の定魔物達が群がり始め、そこで互いの食い合いが発生していた。


「フゥ、怖ぇ。けど、やったな、リル。今の俺達なら、慎重に立ち回ることさえ出来れば、ここでも何とか戦えそうだ」


 先制さえ出来れば、このレベルの魔物を相手にしても殺しきることが可能であることが、こうしてわかった。


 先制さえ出来れば、だが。


 今の相手も、上手く罠に嵌めることが出来たからこそこんな簡単に殺すことが出来たが、仮に正面から戦った場合、どうなっていたことか。


「クゥ、ガゥ」


「あぁ、変わらず、慎重に、だな」


『……ん。蛇のおじさん気分で、先を進む』


「そうだな、蛇のおじさんはステルスのプロだからな。見習わなきゃ、だ」


 今なら俺も、もっと努力すればあの境地に辿り着けるだろうか。




 そうして、使える能力の最大限で警戒しながら、数時間西エリアを進んだ後のことだ。


 ――森の奥に、人工物らしきもの(・・・・・・・・)を、発見したのは。


 イメージはアンジャナフ。


 あ、新作、一章終わりました。

 単行本一冊分は書きましたんで、出来ればそちらもよろしく……(小声)。

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こちらもどうか、よろしくお願いいたします……! 『元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~』



書籍化してます。イラストがマジで素晴らし過ぎる……。 3rwj1gsn1yx0h0md2kerjmuxbkxz_17kt_eg_le_48te.jpg
― 新着の感想 ―
ヘビのおじさんが分かるということは、テレビゲームをDPでだしたのかな?
[一言] アンジャナフかぁ…イビルジョーよりはマシかなw
[一言] リ◯ッド・スネークなのか、ソ◯ッド・スネークなのかw
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