成長と、持つもの
夜。
飯も食い終わり、何もない時間。
「ふぅ、お風呂出たよー! 二人はまだ入ってるけど」
風呂から出てきたイルーナが皆にそう声をかけ、そろそろ風呂に入ろうとしていたらしいネルとリューが返事をし、二人が部屋から出て行った。
「シィとエンはまた長風呂か?」
我が家の幼女組は三人一緒に入ることが多いのだが、出てくる時はまばらだ。
特に、幼女組だとシィが風呂好きだからな。
我が家の長風呂代表はネルとシィなのだが、この二人は、一時間くらいずーっと入ってることもままあるのだ。
エンもなかなか長風呂だが、まあ二人程ではないだろうな。
「うん、シィはいつもみたいにでろーんってなってて、エンちゃんはなんか、お風呂で試したい魔法があるとか。もー、あんなに入ってたら、わたし、ぽやぽやになっちゃうよ!」
「ハハ、そうだな。俺も多分のぼせるわ。――と、ほら、イルーナ。ちゃんと髪乾かさないと、傷んじゃうぞ」
「んー、おにいちゃん、髪やってー」
「……しょうがないな」
俺がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑い、真・玉座の間にある方の洗面所からドライヤーを持ってくる。
そして、俺にそれを渡すと、ボフンと前に座った。
俺はドライヤーを点け、彼女の綺麗な金髪に手を触れ、乾かし始める。
「……それにしてもイルーナ、お前、やっぱり大きくなったな」
「えー? なあに、急にー?」
機嫌良さそうな様子で、そう聞いてくるイルーナ。
「いや……頭の位置が、やっぱり昔と変わったなって思ってさ」
こうして改めて見ると、よくわかる。
背が伸びた。
まだまだ子供だが、昔より、確実に身体が大きくなっている。
あれだけ小さく、ただ幼女でしかなかったイルーナだが、少しずつ少女へと成長しているのが感じられるのだ。
こうやって甘えてくることはあっても、実は最近は、抱き着いてきたりすることが減っていたのだが……身体の成長に合わせて、精神的にもやはり、成長して来ているのだろう。
「えへへぇ、わたしも、おにいちゃん達に子供が出来て、しっかりお姉さんになる訳だからね! だから、甘えてばかりもいられないの!」
「今のこれはいいのか?」
「たまにならいーの!」
そんなことを言うイルーナに、俺は笑う。
「俺と嫁さんらの子供が生まれたら、みんなのお姉さんとして、頼むぜ、イルーナ」
「うん! あのね、読んであげたい絵本がいっぱいあってね、一緒にしてあげたい遊びもいっぱいあるの。シィとエンもね、張り切ってるんだよ! レイちゃん、ルイちゃん、ローちゃんも。楽しいことと、嬉しいことを、いっぱいいっぱい教えてあげるんだって」
ニコニコの笑顔で、やってあげたいこと、教えてあげたいことを語っていくイルーナ。
かくれんぼや鬼ごっこ、おままごとや探検。
文字やお絵描き、少し難しいお勉強。
バーベキューに、お花見にお月見。
それから、四季折々で出来る遊びや、四季折々の美味しいもの。
「だから、元気に生まれてきてくれるといいね、おにいちゃん!」
「……あぁ、そうだな」
ただ、それだけしか返すことが出来なかった俺は、ポンポンとイルーナの頭を撫でる。
「さ、終わったぞ」
「うん、ありがと、おにいちゃん!」
そう言って彼女は、とてとてと歩いてドライヤーをしまいに行く。
一人になった俺は、近くにあった玉座に、腰掛ける。
――ありがとう、と言うべきは、俺なのだ。
俺を、情けなくとも『親』にしてくれたのは、この子なのだ。
この子のおかげで、俺は、多少なりとも自分に自信を持てるようになった。
レフィ達と、一つ先に進むことが出来たのである。
「…………」
「――どうした、ユキ?」
すると、レフィが俺に声をかけてくる。
「いや……俺が持っているものを、改めて確認しただけだ」
「……ふむ」
よじよじと俺の身体に上り、膝上に座ってくるレフィ。
そして、背中を俺に預けてくる。
「ユキ」
「おう」
「お主の持つものは、ちゃんと儂らも持つからの」
何も言っていないのにもかかわらず。
俺の心の内を正確に理解し、そう言ってくるレフィ。
「――あぁ」
本当に、ここは。
今章終了。
次回は、久しぶりの魔境の森回。
12巻発売しました。よろしくね!