耳かきと尻尾かき
「よしレフィ! 来い!」
「…………」
「さあレフィ! 来い!」
「お主は先程から何をやっておるんじゃ?」
怪訝そうな顔で、そう溢すレフィさん。
床に座っていた彼女の横には、綺麗に畳まれた幾つかの洗濯物。
もうレフィも、あれくらいの家事は余裕で出来るのだ。
「え、何って、ここんところ、代わりばんこでレイラ、リュー、ネルといたから。だから、次はお前なんだと思って」
「いや、別にとりわけ何かを決めておった訳じゃないんじゃが……」
「あ、そう。……それなら、今回は俺が甘えさせてもらおうかな!」
「わっ……全く、お主は」
俺は、正座で座っていたレフィの膝上に、ごろんと頭を乗っけて横になる。
柔らかい、太ももの感触。
レフィの良い香り。
すると我が嫁さんは、やれやれと言いたげな口調で、口を開く。
「ほんに、しょうのない奴じゃのう。……ついでじゃから、耳かきでもしてやろうか」
「お! じゃあ、是非頼む」
一旦立ち上がったレフィは、近くのテーブルの引き出しから一式を取り出し、近くにティッシュを一枚敷く。
そして正座で座り直し、ポンポンと自身の膝を叩く。
促されるままに再度レフィの膝の上に頭を乗せると、彼女は耳かきを開始した。
ジョリ、ジョリ、と耳の内側を掻かれる、こそばゆく、心地よい感触。
「ん……こういうの、本当に上手くなったよな、お前」
「時折、イルーナにもやっておるでな。お主の場合は鼓膜を突き破っても別に構わんが、間違ってもあの子に怪我はさせられん」
「おっと、旦那の耳も、もうちょっと大事に扱ってくれてもいいんだぜ」
「……ふむ。では、多少は慈しんでやろうかの?」
「へっ?」
そう言って、レフィは。
耳かきの棒を抜いたかと思うと――ペロリと。
俺の耳を、ひと舐めした。
「うひぃあっ!?」
「おっと、耳かきの途中じゃ。危ないから動くでないわ」
ニヤリと笑みを浮かべ、思わず身体を浮かせかけた俺を、無理やり再度寝かせる。
力では、俺はレフィには逆立ちしても敵わないので、大人しく従うしかない。
そして悪乗りしたコイツは、止まらないのだ。
耳の形に合わせて舌を這わせ、耳たぶをカリッと甘噛みし、吸い、舌で転がす。
丁寧に、丹念に、ゆっくりと。
耳に掛かる吐息。
ピチャピチャと、唾液に濡れる感触。
ゾクゾクと、背筋が痺れる。
身体が跳ねそうになる。
脳みそが蕩けてしまいそうだ。
「うっ、いひっ、くっ」
「ほう、これは、なかなかクセになる舌触りじゃの。今後、小腹が空いたらお主の耳を食べるとしようか」
「そ、それで腹は膨れねぇだろうが!」
「しかし、がむを食べるような感じで、何となく腹が膨れそうな感じがあるじゃろう?」
何を言ってんだお前は!
「うむ……ネルからの情報で、どうやらお主は耳が弱いらしいと聞いておったが。今後は、重点的にここを攻めるとしようかの」
あ、アイツのせいか!
ネルめ、余計なことを……!
「ほれ、反対側もやってやるぞ? 反対側を向け、ユキ」
「……い、いや、もう十分に、綺麗にしてもらったかなって」
「何を言うておる。耳かきは両耳をやらねば意味がないじゃろう? ほれ、はよう反対を向け」
俺が逃げられないようがっちり片手で抑えながら、妖艶な笑みでそう言うレフィ。
くっ……ま、まずい。
このままでは、良いようにやられて、出来上がるのはぐったりした力のない魔王である。
……よ、よし。
反撃だ。反撃しなければ。
俺は、頭をレフィの腹部側に向けると同時、手を伸ばす。
掴むのは――尻尾。
「うにゃっ!?」
「おう、どうした? 耳かきの続き、するんじゃなかったのか?」
一転攻勢。
俺は、レフィの尻尾を弄り始める。
スーッと指を這わせ、滑らかな感触を楽しみ。
そして、左手で尻尾の先をスリスリと擦り、右手はレフィの服の中に入れ、尻尾と臀部の境目をさわさわと撫でる。
ビクッ、ビクッ、と身体を反応させるレフィ。
今度は俺が、彼女の膝上からニヤリと笑って見上げて、我が嫁さんは顔を赤くしてこちらを睨む。
「……へ、へんたい」
「いやいや、何を言いますか。我々、夫婦なので。これくらいのスキンシップは普通と言いますか」
「……そうじゃな。ならば儂も、すきんしっぷの一環として、耳かきを続けてやるとしようかの!」
そう言ってレフィは俺に顔を近付け、再び耳を舐めてくる。
同時に、耳から流れ、ペロッと頬までをも舐められ、俺の口から変な声が漏れる。
「うひっ……れ、レフィさん、そこは耳じゃないですよ」
「そうか? ではここか?」
今度は首筋をツーッと舐められ、あむあむと咀嚼するように甘噛みされる。
あごの裏に舌を這わせられ、思わずビクンと俺の身体が跳ねる。
「っ……じゃあ俺は、いひっ、お返しにもっと尻尾かきをしてやんねぇとな」
「何じゃ尻尾かきって――あにゅっ」
そうして俺達は、互いに『耳かき』と、『尻尾かき』をし続け。
……我々の良くないところは、一つ熱中し始めると、互いに全く周囲が見えなくなるという点だろう。
「――ねー。イチャイチャするのは別にいいんだけど……もうそろそろ、イルーナちゃん達、戻ってくるよ?」
呆れたような、ネルの声で我に返る俺達。
頭が茹だり、全身が沸騰しそうになっていた俺に対し、潤んだ瞳でこちらを見下ろすレフィ。
「…………」
「…………」
しばし見つめ合った後、俺とレフィは立ち上がり、無言で離れ、それぞれ別のことをやり始める。
そんな俺達を、ネルは生暖かい目で見ていた。
発売日が近いので宣伝をば。
今作品の12巻が、11月10日に発売します!
もう12巻だよ、12巻……いつもいつも、読んで下さり、本当にありがとうございます。
どうぞよろしく!