お鍋の日
ある日のこと。
夕方の時間に差し掛かり、俺は少し考えてから、言った。
「……よーし、じゃあ今日は鍋にするか!」
「今日はお鍋~? お肉がいっぱい、アツアツ美味しいお、な、べ!」
「アツアツおいしいお、な、べ!」
「……何鍋?」
「はい! すき焼きさんがいいです、すき焼きさん! お肉がいっぱいだから!」
「シィは、チゲなべがいいです! チゲなべ! からくておいしい、チゲ!」
「……モツ鍋。噛み応えがあって、モツは美味しい」
「う、うーん、すき焼きとチゲ鍋はいいが、モツ鍋か。エン、食材としてモツも用意するから、それじゃダメか?」
「……ん。全然いい」
渋いチョイスのエンが、コクコクと頷く。
良かった、俺もモツは好きなのだが、あれは好き嫌いが分かれるからな。
ちなみに我が家で鍋をやる時は、大体二つ用意する。
人数が多いからな、鍋一つじゃすぐになくなってしまうので、中身の違うものを二つ用意するのだ。
今更ながら、俺達も手伝っているとはいえ、料理全般を取り仕切ってくれているレイラには頭が上がらんな。
朝昼晩と、全員分の料理を毎日作ってくれている訳だし、我が家で一番働いているのは間違いなく彼女である。
世の皆さんも、食事を作ってくれる人に敬意を払うように。
ひとり身は頑張れ。
「んー、お前らの方はどうだ?」
幼女組の次に、大人組に問い掛ける。
「肉団子が食いたいの、肉団子。それがあれば良いわ」
「僕は、味の染みた大根とにんじん、白菜辺りが食べたいかなぁ。勿論お肉も食べるけれど」
「はい! ウチは、えのきと揚げ豆腐が食べたいので、それが入ってたら何でもいいっす!」
お前ら、それは鍋じゃなく鍋の具材だ。
……まあ、幼女組の方の意見を優先してくれたんだろうがな。
と、俺は、「ふむ、その辺りなら全て用意出来ますねー」とみんなの意見を聞いているだけのレイラに顔を向ける。
「レイラ、たまにはお前が食いたいものを優先してもいいんだぜ? いつもみんなに合わせてくれてるだろ」
「え? んー、そう言われると少し、困りますねー。それに、それを言うのならば、ユキさんもではないですかー?」
「俺は鍋にするっていう決定をしたので。メニューを決めるというわがままを行使した訳なので、例外です。という訳でレイラさん、あなたが食べたいものを言いなさい!」
ちょっと困ったような笑みで、レイラは答える。
「んー……やっぱり私は、皆さんが美味しく食べてくれるなら、それだけで満足と言いますかー……だから本当に、何でもいいんですよねー」
「くー、レイラ! もう! 僕はレイラのそういうところ、大好きだよ!」
「ホントにもー、可愛いんすから、レイラは! 健気で良い子過ぎっす!」
「カカ、そうじゃな。ほんに良い女じゃ、レイラは。もうどこにもやれんのう!」
「も、もう、からかわないでください、皆さんー」
やいのやいのと騒ぐ彼女らに、照れたように顔を赤くし、頬に手を当てるレイラ。可愛い。
俺は、彼女らの仲の良い様子に笑い、それから切り替えるように口を開く。
「ま、そんじゃあ、今日はすき焼きとチゲ鍋にするか! 大人組の諸君は、準備を手伝いたまえ-。幼女組の諸君は、今の内に風呂に入ってきたまえー」
「はーい! お風呂、お風呂、お、ふ、ろ!」
「たのしみいっぱい、おふろ、おなべ!」
「……湯で身体を清め、心身を温め、良い気分で鍋を食べる。これが鍋の作法」
「え~、そうなの~?」
「そうなの~?」
「……んーん。適当言った」
「そっかぁ! でも良い気分でお鍋食べたら、美味しいよね!」
「はい! おふろと、おなべのにているところは、なんでしょーか!」
「……アツアツなところ」
「せいかーい! エンちゃんに、せいかいポイント、いちあげます!」
「それが貯まったらどうなるの?」
「えっとねぇ、えっとねぇ……どうにかなります!」
着替えを用意し、延々とそんなことを話しながら、元気良く部屋から出て行く幼女達に対し、大人組はキッチンに移動する。
「じゃ、やってくか。野菜切る組はー」
「はーい、僕とリューでやりまーす!」
「やるっすー!」
「了解。肉は……まずレフィ所望の肉団子から準備するか。鍋に使うなら鶏団子でいいな?」
「うむ! それが食いたい。よし、儂自らが、責任持って作ろうではないか!」
「では、私もそちらのお手伝いしますねー」
「オーケー、じゃ、俺はスープと鶏団子以外の肉やるか」
「いやぁ、鍋いいよね、鍋! みんなで一緒に食べられるから」
「同じ鍋をつつくって、外じゃしないっすもんねぇ。ウチも、そういうみんなで食べるっていうの、良いと思うっす」
「鍋を知らんとは、世の中のヤツらは損をしているな! 寒くなって来たら、鍋! 栄養いっぱいで、食べたいものが食べられる鍋! 鍋は素晴らしい……」
「じゃあユキ、ばーべきゅーと鍋だと、お主はどっちが好きなんじゃ?」
「……悩ましいが、六対四でバーベキューだな! 何故なら、冬より夏が好きなので!」
「お主は冬でもばーべきゅーしておるがな」
「フフ、四季折々で美味しいものがあって、色んな食材を扱えますから、ここでごはんを作るのは楽しいですよー」
「ウチも、色んな食材が扱えて楽しいって言えるところまで、料理が上手くなりたいっすねぇ……」
「一緒に頑張ろうね、リュー!」
「安心せい、どのようなものを作っても、儂が全て美味しく平らげてやろう!」
「お前は食う側なのな」
そんなことを話しながら、それぞれ分担したものを進めていく。
俺は、こういう時間が……とても、好きだ。
ちゃんと、ちゃんとこっちも投稿するから……!
し、新作とか書き始めちゃってるけど、許して……!
『原初たる魔が王~目が覚めたら、人外娘に捕食される寸前だった~』
下にリンク張ったので、どうぞよろしくお願いしやす!