閑話:獣人族の里《1》
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「え、えっと、こ、こんにちは!」
「……こんにちは」
平常運転のエンに対し、ケモミミを生やしたその幼女は、若干緊張した様子で挨拶を続ける。
「わたしゅ……わ、わたしは、獣王ヴァルドロイ=ガラードの子、アニ=ガラードです! お名前を聞いてもいいですか?」
「……ん、罪焔。みんな、エンって呼ぶから、そう呼んで」
「エンさんですね! よろしくお願いします! えっと、特徴的で可愛らしいお洋服ですね! それはエンちゃんの地方のものなのですか?」
和服を着ているエンを見て、興味をそそられた様子の獣人幼女アニの言葉に、エンは首を横に振る。
「……んーん。エンだけの。主が、用意してくれた」
「そうなのですか? って、主? パパじゃなくて?」
「……パパでもある。でも、エンは主の刀でもあるから、そこは複雑」
「かたな? ……ふ、複雑な家庭ということですか? そ、その、エンさんはもしかして、毎日大変だったり……?」
「……? 別に、そうでもない。毎日いっぱい遊んで、いっぱい学んで、楽しんでる。時々魔物とかと戦うことはあるけど」
「ま、魔物と戦うんですか!?」
「……ん。エンの仕事。今までも、いっぱい戦ってきた。大変だけど、やりがいもいっぱい」
「エンさんは、その歳ですでに、戦場に出ていると……パパには聞いていましたが、世の中には凄い子がいるんですね……」
成立しているようでしていない、色々すれ違っている感じの二人の会話に、俺は苦笑を溢す。
「エン、他のとこの子と話す時は、もうちょっと言葉を増やさないと、誤解されちゃうぞ?」
「……むむ。難しい。いっぱい喋ってるつもり」
ウチの面々相手だったら、慣れているので言いたいこともちゃんと全て伝わるが、元々エンは言葉が少ない性質だ。
一言二言しか喋らなかった昔に比べれば、言葉がかなり増えていることは間違いないが、それでも慣れていないと、この子と会話を合わせるのは少し難しいだろう。
これから、一歩一歩成長していこうな。
――ここは、獣人族の里の迎賓館である。
到着してすぐに俺達はここへ通され、そこで獣王一家と合流し、こうして歓待を受けていた。
エンと同じ年頃に見えるアニは、獣王の一人娘だそうで、エンのことを知った時から顔合わせをさせたいと獣王は思っていたようだ。
ちなみに、俺達の会話に参加していないウチの嫁さんらは今、獣王の嫁さんと妻トークで盛り上がっている。
旦那がどうの、旦那の趣味がどうの、と話しており、そちらには俺と獣王は近付けないので、幼女達の方へ避難して来たのが現状だ。
こういうのは、種族が違えど共通なんだなと、獣王と互いに謎の共感を得たものである。
言葉にはしなかったものの、あの時、確かに俺と獣王は同じことを考えていただろう。
「あ、え、えっと、魔王ユキさんですね! パパ――わたしの父から、お話は伺っています! いっぱい助けてもらったそうで、父を助けてくれて、ありがとうございます!」
と、精一杯な感じで頭を下げる獣王の娘ちゃんに、俺は笑って答える。
「おう、どういたしまして。けど、君の父ちゃんとは戦友だからな。互いに背中を預けて戦った以上、そこに助ける助けないも、貸し借りもないのさ」
すると、共にいた獣王ヴァルドロイが、何とも言えないような表情になる。
「戦友と見てもらえているのなら、俺としては嬉しい限りだが……如何せん、あの戦争で挙げた戦果が違い過ぎて、肩を並べられている自信がないぞ」
「いやいや、そこで謙遜する必要はないだろ。――アニ、アニの父ちゃんと仲間達はな、こ~んなデッカくて、おっかない骨の化け物が出て来た時も、恐れずに突撃していったんだ。一歩間違えれば簡単に殺されてしまうような相手に向かって、それはもう勇敢にな」
「はえぇ……パパ、家だと全然ママに頭が上がらないのに……」
ちょっと感心したような様子の娘ちゃん。
獣王一家の家庭内の様子が窺える言葉である。
「その骨の化け物相手に、一人で切った張ったをやっていたのは、どこの誰だと言いたいところだな。……まあ、うむ、パパがママに敵わないのは確かな事実だが、それはママが強いんだ。ママに比べれば、骨の化け物など恐るるに足らんよ」
「そっかぁ、ママが強いのかぁ……エンさんのパパさんの方は、どうなんですか?」
「ウチも大体一緒だよ。俺も嫁さんらには頭が上がらんし、好き勝手やったせいでよく怒られる。ただ、アニ、それが男ってものなんだ。なあ、獣王」
「あぁ、全面的に同じ思いだ」
「――もう、好き勝手言うんですから。私は妻として、必要なことをあなたに言っているだけです。誰が骨の化け物より怖いですか」
「そうだよ、おにーさん! 大体、おにーさんが僕達に怒られるのは、自業自得の結果でしょ」
「あはは……ま、でもアニちゃん。男の人っていうのは、色々無茶しがちだから、ウチら女の人が支えてあげなきゃいけないんすよ。それが、妻ってものなんす」
と、俺達の会話に入ってくるのは、妻トークを展開していた嫁三人組。
――獣王の嫁さんの名前は、ファノーラ=ガラード。
獣王の獅子族ではなく、『狐族』と呼ばれる獣人だそうで、狐の耳と尻尾がある美人さんだ。
アニにあるのも狐の耳と尻尾であり、どうやら母の方の特徴を受け継いだようだ。
「そうなのですか? 確かに獣人の男の子は、乱暴で、ちょっといじわるで、メチャクチャですけど……大人の男の人も、そうなのです?」
「男の人は、大人も子供もそんなに変わらないっすよ。きっと、アニちゃんがもっと大きくなったら、その辺りのこともわかってくるっす」
「フフ、アニちゃんは可愛いから、きっと男の子達も、君の前で良い恰好をしたくて、いっぱい頑張っちゃうんだよ。いじわるしたくなっちゃうのも、アニちゃんの気を引きたいんだね」
「むっ……娘に近付く男か。部下に精査させねばな……」
「あなた。そんなことに、本当に部下の人達を使ったら、怒りますからね。お客人もいる前で、恥ずかしいことを言わないでください」
「いっ、いや、しかしだな……」
呆れたような顔をするファノーラさんに対し、情けない顔をする獣王。
……気持ちはわかるぜ、獣王。
ウチの子らも、超絶美少女だから、変なの寄って来そうだしな……外に出していない今はまだ大丈夫でも、俺も気を付けねば。
「……それ、イルーナちゃん達が大きくなったら、おにーさんもやりそうだよね。イルーナちゃん達が可愛いから、その内変なの寄って来そうだし、自分も気を付けないとって今思ったでしょ」
何故そんなピンポイントで俺の考えていることがわかるのか。
「あ、今一瞬図星の顔したっす。ウチらには誤魔化せないっすよ、ご主人。一つ言っておくっすけど、大事にすることと、過保護なのは違うっすからね?」
「……へ、へい」
「あら、リューさん良いことを言いましたね。あなたも、肝に銘じてくださいね。獣人の王であるあなたが行動を起こせば、大なり小なり必ず影響はあるんですから」
「……う、うむ」
女性陣からの言葉に、俺と獣王は顔を見合わせ、同時に苦笑いを溢したのだった。




