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救援要請

 いつも感想、ありがとうありがとう!


 獣人族の里に住む、彼らの纏め役――獅子王ヴァルドロイは、面白いものを聞いたと言いたげな表情で、部下の報告を聞く。


「ほう? 今、魔王がドワーフの里に?」


「えぇ、ローガルド帝国からの飛行船の便で、本日到着した模様です。そのまま領主館に向かったらしく」


 ドワーフと獣人族は、長年友好関係を築いている。


 まず、立地的に首都としている里が非常に近く、仮に互いが軍を起こした場合、わずか一日で到達可能な距離にある。


 単独の馬車などであれば、朝に出発し夕方には到着、というのも可能なのだ。

 いや、獣の特質を持ち、非常に健脚な獣人族であれば、その者によってはわずか数時間程での到着も可能かもしれない。


 つまり、里が形成された時から、互いに敵対することを考えていなかった、ということになる。


 起源を辿れば、彼らの信仰する神々の仲が良かった、などという伝承が残っていたりするが……本当のことは定かではない。


 一つ確かなことは、遥かな過去から、彼らの間に交流があるということである。


 故に、肩を並べて戦うことはあっても、軍をぶつけ合ったことは過去に一度もなく、その歴史を互いによく知っているため、もはや身内くらいの感覚となっているのだ。

 

 身内相手に、喧嘩をすることはあっても、殺し合いをすることはない。

 それが起きる程の不幸を、彼らは抱えていない。


 そういう関係性を構築しているため、互いの里には常に連絡員が常駐しており、何かあり次第すぐに情報が伝わるような情報網が構築されているのだ。


 そうして、そこから獣人族の里へ伝わってきたのが、つい最近起こった大戦の英雄が、仲の良い隣国に滞在しているという情報だった。


「ふむ、帝国関連での、公務か何かか?」


「いえ、個人的な都合で訪れた模様らしく。こちらにも訪れる予定だと仰っていたそうです。彼の奥方の一人である、ウォーウルフ族のお嬢さんが共にやって来ているようですので、里帰りという面もあるのではないかと」


 魔王――いや、魔帝ユキ。


 現ローガルド帝国皇帝であり、今、国際社会において最も存在感のある男。

 公の場に出て来ることは少ないが、あの魔界王と並び立つ程の影響力を有していると言えるであろう。


 彼は、政治を考える上で外せない重要なファクターであり、今後の国々との関わりにおいて、誰もが意識せざるを得ない存在なのである。


 だが……その影響力というのは、彼を評価する上では、あくまで側面的なものだ。


 魔帝ユキを表す上で最も重要なものは、()だ。

 政治でも何でもない、純粋なる力が、魔帝ユキを魔帝ユキたらしめている。


 あの男は、単体で各国軍と同等――いや、それを大いに上回る戦力を有しているのである。


 あの大戦時に連れて来ていた、配下の数匹の魔物達も合わせれば、もはやその戦力は未知数だ。

 正確に測ることすら出来ない次元となるだろう。


 万の軍勢を用意しようが、圧倒的な個には簡単に滅ぼされるのが、この世界だ。

 

 仮に、危険な存在だから排除しようなどと考えた場合、大戦時に集めた全兵力と、同等のものを用意して勝負になるかどうか、といったところだろうか。


 兵を当て続けて疲弊を狙う、絶望的な消耗戦だ。

 それですら、確実に勝てるとは思えない辺りに、魔帝ユキの隔絶された力が表されているだろう。


 故に、彼とは国を挙げて友好的な関係を築くべきなのである。


 一昔前ならば、『魔王』などという凶暴で危険な相手と友好関係を築くなど、何を馬鹿なと笑われただろうが……時が変われば、変化するものだ。


「そうか、なら歓待の用意を進めておかねばな。おい、ウォーウルフのに伝言を入れておいてやれ。お前のところの娘と、義息が遊びに来たぞと」


「畏まりまし――」


 その時だった。


 軽く、ズゥン、と来るような衝撃。


 執務室の調度がグラグラと揺れ、やがて数十秒程で、それは治まる。


「む、地揺れか。まあ、この程度ならば問題なかろう。……いや、一応戻りがてら様子を見ておいてくれ。特に何もなければ、報告はいらん」


「久しぶりの揺れでしたね。畏まりました、では、失礼致します」


 それからしばらくは何もなく、獣王はいつも通りに政務を進めていき、そろそろ筋トレでもしたいところだ、などと思い始めた頃。


「獣王様」


 少し険しい表情で彼の執務室へと飛び込む、数時間前に別れた部下。


 部下の様子に、ただ事ではないと判断した獣王は、すぐに手を止める。


「何事だ」


「森の魔物どもに、おかしな動きが見られます。現在防衛部隊が対処中、しかし数が多く、このままでは里に侵入を許す可能性があります」


 その報告に、ピク、と眉を動かす獣王。


「……原因は、先程の地揺れか?」


「ハッ、状況から見るに、その可能性が高いかと」


 獣王は、ピクリと眉を動かし、数瞬だけ口を閉じる。


 彼らは、ドワーフの里という『火山地帯』の近くに里があるため、地震は多く経験している。


 故に、生態系に影響を及ぼす程の地震がどの程度のものかは大体把握しているし、その経験から見て、先程の揺れはそこまで影響があるものには思えなかった。


 しかも、あれからすでに数時間が経過している。


 多少森が荒れはするかもしれないが、その程度ならば里に常駐している防衛のための部隊のみで対処可能である。


 にもかかわらず、彼らが『数が多い』とぼやいてくるということは、そこには常以上の何かが裏にあるということとなる。


「……よし、部隊を倍に増やせ。ローテーションで休んでる奴らも連れて来い。念のため、俺が出て指揮しよう。里内には、警戒を促す伝令を」


「ハッ!」


 獣王の指示は的確で素早く、彼の有能さを示すものであった。


 だが、今回の異変は――彼の想定を超えた、異変だったのである。



   *   *   *



 俺とドワーフ王が話しているところに、ドタドタと飛び込んできたのは、一人のドワーフ。


「頭ァッ!」


「騒々しい。何じゃ」


 多分俺がいるところに飛び込んできたからだろう、身内の無作法を咎めるような厳しい視線を送るドワーフ王だったが、それに怯むことなく、彼の部下は言葉を続ける。


「お取込み中申し訳ありやせん、ですが、獣人族の里から緊急の救援要請が出やした! 魔物の軍勢が現れた、とのこと! 指示を頼んます!」


 彼の言葉に、ドワーフ王は表情を一変させ、怒鳴るように答える。


「バカヤロウ、それを一言目に言いやがれ! 今すぐ暇なバカどもを連れて、外門に集合させろ! その間に詳しい状況の確認だ! 急げ、獣人のが助けを求めるなんざぁ、結構な一大事だぞッ!」


「へい!」


 ドワーフ王の部下が、大慌てでこの場を去って行った後、ドワーフ王は申し訳ないような表情で口を開く。


「……そういう訳だ、すまねぇ。儂らは動かなきゃならなくなった」


「いや、俺も手伝うぞ。流石にこれで『じゃあ俺は観光してるから』なんて言う程、腐っちゃいないさ」


「……賓客に頼むことじゃねぇのは間違いないが、すまねぇ、助かる。今は少しでも戦力がほしい。獣人のが助けを求めるってぇこたぁ、結構な事態になってるはずだ。アイツらぁ、ただの魔物の軍勢程度なら、簡単に追い払える実力はあるからな」


「つーことは、結構な緊急事態って訳か。何か、そんなことが起こる前兆みたいなの、あったりしたのか?」


「……あぁ、思い当たる節はある。多分、その……儂らのが(・・・・)原因かもしれん(・・・・・・・)


「え?」


 何となくで聞いたことだったのだが、ドワーフ王の答えに、俺は思わず聞き返す。


「……『終の祠』にいた時、火山の魔力が一気に吹き出し、お前さんへと流れ込んでいった。それこそ、地揺れが起きちまう程の濃密過ぎる魔力が、一時的に空間に存在していた訳じゃ。ヒト種よりも魔力に敏感な魔物なら、ビビッて軒並み逃げてくだろうぜ。儂も、魔物の軍勢と聞いてから、そこに思い至ったんだが……」


 言い難そうな様子で、そう答えるドワーフ王。


 ……なるほど、確かにあの時、終の祠に溢れ出した魔力は凄まじかった。


 この火山周辺の魔物達がそれを感じ取って一斉に逃げ出し、その『波』が獣人族の里を襲ったってことか。

 獣人族の里は、ここから近いそうだからな。


 そこまで思考を巡らした俺は、思った。


 ――え、つまりそれ、俺のせいってことじゃね?


 ……ま、マズい。

 勿論俺が能動的に何かやった訳ではないし、言わば事故みたいなものだが、直接的な原因が何かと言えば、確実に俺である。

 

 俺が基点となり、全てが起こっているのだから。

 

 今から観光に行くつもりの場所で、俺のせいで一人でも死人が出ていようものなら、申し訳なさ過ぎていたたまれない。普通に落ち込む。


 マズい、これはマズいぞ。


「ど、ドワーフ王! 獣人族の里の方角は!?」


「え? あ、あぁ、外門――いや、この里で一番デケぇ門から、西に延びる道に沿って進みゃあ、獣人族の里だ」


「了解! 向こうで会おう!」


 冷や汗が止まらなくなった俺は、大慌てでこの場を後にし、ウチの面々を探す。


「――あっ、い、いた、お前ら!」


「あ、終わった? おにーさん――って、その顔は……うん、何かやらかしちゃった時の顔だね」


「あー、そうっすね、何度か見たことのある顔っす。つまり、今からその問題をどうにかしに行きたいんすね? わかったっす、ウチらは待ってるっすから。エンちゃん、ご主人を頼むっすね」


「……ん、任せて。主、付いてく」


「……あ、あぁ! 行ってくる!」


 俺の顔を見て秒で全てを察した嫁さんらにそう返事をし、大太刀に戻ってくれたエンを肩に担ぐと、俺は背中に翼を出現させて一気に飛び上がり――おわっ!


 一瞬バランスを崩し掛け、慌てて姿勢制御を行い、滞空する。


 そう言えば俺、翼が三対になったんだった。

 その影響か、加速が以前とは比べ物にならない程に速くなっている。


 感覚としては、ブースターが新たに一個増えたような感じだろうか。


 性能を存分に試したいところだが……いや、それは後だ。


 急げ、これで獣人族の里に壊滅的被害が出てたりなんかしたら、洒落にならんぞ……っ!


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こちらもどうか、よろしくお願いいたします……! 『元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~』



書籍化してます。イラストがマジで素晴らし過ぎる……。 3rwj1gsn1yx0h0md2kerjmuxbkxz_17kt_eg_le_48te.jpg
― 新着の感想 ―
[一言] 192話のくだり覚えてる人凄いなっ!
[一言] ここ192話
[一言] 普通に不安になる草w
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