その頃のダンジョン
レビューありがとう、ありがとう!
――ダンジョンにて。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、見て見てー。おひげ!」
自身の前髪を口元に持って行き、髭を作るイルーナ。
「ほう、なかなか立派な髭じゃのう。じゃが、儂も作れるぞ! どうじゃ、儂のも立派じゃろう?」
対しレフィもまた、その長い前髪を口元に持って行き、イルーナより長い髭を作る。
「むむむ、やる! 流石お姉ちゃん! こうなったら、こっちの最終兵器を見せるしかないね! お願い、おひげマスター!」
「じゃじゃーん! よばれてさんじょー、おひげマスター・シィだよ!」
ポーズと共に現れたのは髭マスターシィ。
「ほう、髭マスターとな。ではその手腕、見せてもらおうかの」
「いっぱいみてて! まずはねー、ねこさんのヒゲ! そして次が、いぬさんのヒゲ!」
「おぉ、流石じゃのう。可愛いもんじゃ」
「かわいー!」
自身の肉体を変化させ、猫と犬のヒゲを生やすシィ。
ぶっちゃけどちらもほぼ同じようなヒゲだったが、そこは誰もツッコまない。
可愛ければ全て良しである。
「えへへ、まだまだいくよ! これが、キノコのくにの、あかいおじさんのヒゲ! こっちは、じゅうのめいじんの、タバコのおじさんのヒゲ! さらにさらに、これが、かいぞくの、くじらおじさんのひげ! シィにかかれば、どんなおひげでもはやせるのだー!」
「うわぁ、すごいすごい! おにーちゃんが言ってた通りのおひげだよ!」
「あ、あー……確かに立派なすごい髭じゃが、後半のはやめておいた方が良いぞ。お主の可愛さが生かされんからな」
「む、むむむ。そっかぁ、なら、やめとくー。ざんねん、おひげマスターとして、せかいをめざしてたのに」
「シィよ、世界を目指すならば、もうちっと広いもんを目指すんじゃの。流石にその世界は、狭過ぎるぞ」
「大丈夫! シィはおひげだけじゃなくて、へんしんごっこで世界取れるよ! モノマネ名人!」
「おー、モノマネめいじん!」
「いや、まあ、うん、そうじゃな。お主らなら何でも目指せるじゃろうな」
そんな感じで遊んでいた、彼女らの矛先が次に向いたのは、その場に共にいたリル。
ユキが魔境の森にいない時、リルはよくダンジョンの皆の下へ顔を出す。
主の代わりに皆を守らねば、という思いと、幼女組の遊び相手にならねば、という気遣いからである。
リルは出来た雄なのである。その真面目さ故に、苦労は絶えないが。
「リルー、リルはじゃあ、探偵ひげね! はい、これ! 取っちゃダメだよ!」
リルの鼻の先端に、探偵っぽく見える付け髭をポンと乗せるイルーナ。
魔力でくっ付く仕様であるため、リルでも装着可能なのだ。
「おー! めいたんてーリルだ! じゃあリル、めいたんてーとして、たんていっぽいことして!」
「名探偵リル、なかなかいい響き! 名探偵役して、リル!」
「クゥ?」
「みまわり! いいよ、ぼうけんと、なぞと、みちのにおい!」
「いいね、冒険と謎と未知!」
リルの「では、謎を探しに、外へ散歩――いや、見回りに行きますか?」という言葉に、大喜びで頷く幼女二人。
「ねね、おねえちゃんも一緒にいこう! 未知を探しに、探偵ごっこ!」
「たんていごっこ!」
「わかったわかった、儂も付いて行こう。……それにしてもリル、お主最近、童女どもの相手が手慣れておるのー。躱し方が上手くなっておるというか」
「……クゥ」
レフィの言葉に、「まあ、主に比べれば楽なので」と苦笑を溢すリル。
日々ユキと共におり、彼の無茶ぶりを一身に受けている以上、幼女組の無茶ぶりなど可愛いものなのである。
「カッカッ、そうじゃな。彼奴は子供のまま大人になったようなものじゃからのう。しかも、大人の知恵が働く分童女どもより厄介じゃ。お互い面倒な主人を持って、苦労するのう」
「クゥ」
機嫌良さそうに笑うレフィに、リルもまた笑って「えぇ、そうですね」と言葉を返す。
全く以て、その通りだ。
無茶苦茶で、やることなすこと派手で、幼女達と同じくらい純真な心を持ち、皆のために奔走する主。
何と、支えがいのあることか。
「クァガウ」
「クク、うむ、今後も頼りにしておるぞ、リル」
「ねー、お姉ちゃん、リル、早くー! 冒険行くんだからー!」
「はやくー!」
「わかったわかった。ほれ、行くぞ、リル。――レイラ、儂ら外に出て来るぞー!」
椅子に座って静かに本を読んでいたレイラが、軽く手を振ったのを見てとった後、彼女らは草原エリアへ――という時だった。
――突如、リルの肉体が光を帯び始める。
形のない、何か『力』のようなものが周辺から――ダンジョンから空間に生み出され、リルを覆っていく。
それは、魔力。
あまりに濃密過ぎて、可視出来る程になった魔力である。
「わぁ!?」
「リル! 大丈夫!?」
「む、これは……」
「ク、クゥ……?」
「? どうされ――って、その光はー……」
各々の驚愕の声。
リルの周りにいた三人のみならず、レイラもまた本から顔を上げ、驚いた様子で椅子を立ち上がる。
光は数瞬の間リルを取り巻き、やがて、全てがリルの肉体へと吸い込まれ、なくなる。
光が晴れたリルは――鎧を身に纏っていた。
全てが魔力で構成された、透明な鎧。
表面には紋様が走り、全体的にどことなく甲冑を思わせる形状となっている。
見る者に、畏怖と、力を感じさせる魔力の鎧。
彼らは知らないが、それは、神槍の第三段階時と非常によく似た様相であった。
「……クゥゥ……」
突然の出来事に、ひとしお困惑した様子で、自身の身体を見回すリル。
「おー、リル、かっこいー! かっこいいけど、たんていひげがかっこわるーい!」
「あはは、しょうがない、探偵ひげ取ってあげる! はい、かっこいいリルだー!」
「かっこいー!」
「……ふむ。恐らく、あの阿呆の方で何かあったんじゃろうな。リル、お主、能力が変化しておるぞ」
名:モフリル
種族:フェンリル
クラス:覇狼
覇狼:大いなる魔が力を有し、全てを切り裂く爪と牙を持つ者。覇を頂く主と共にある時、何者もその歩みを止めることは叶わない。だが、種の限界へは、未だ至っていない。
ユキの変化は、ユキと最も繋がりの深い配下であるリルにもまた、変化を及ぼしていた。
リルはちょっと早い気もしたんだけどね。
思い切って揃えました。




