とくに何がある訳でもなく、それでも必要な時間
答えは……まあ、そう遠くない内に明かせるかな?
幽霊船ダンジョンの甲板に腰掛け、だらりと釣り糸を垂らす。
「ね~、あるジ」
「おー、どうしたー」
「おさかなさんの、エサのこれって、みみず~?」
隣にいるのは、シィのみ。
エサ箱に入ったイソメをツンツンとつつきながら、そう問い掛けてくる。
イルーナ達と遊ばないのかと聞いたところ、「きょうはね~、あるじといっしょにいるひなの!」と、にへっと笑いながら言っていた。可愛い。
「んー、大体そうだなー。ミミズの親戚だなー」
「へ~、しんせきさんなの! たしかに、どっちもウネウネ~ってしてて、ウネウネだもんね! となると、ウネウネ~ってできるシィも、みみずのしんせきさん?」
「おー、ウネウネさせてる時は、親戚かもなー」
「えへへ、そっかぁ! シィは、みみずぞくのひとりとしテ、だれにもまけない、ウネウネをめざすことにする!」
「あぁ、シィのウネウネなら、きっと天下一が取れるな。天下一武道会に出ても勝てるぞ」
「えへへ、そうだったらいいなぁ。そしたら、かめはめはだいおーのかめはめビームも、かめはめしちゃうね!」
「おー、そうだなー。かめはめビームもぶっ放しちゃうな」
「あるじ、ビームって、どうやったらだせるかナ? エンちゃんと、あるじは、ビームだせるんだよね?」
「おう、出せるぞー。シィも、おっきくなって、魔力がもっと増えたら、きっと出せるようになるさ」
「そっかぁ、おっきくなったらかぁ。まいにちいっぱい、たのしみがあって、さきにもたのしみがあって、いっぱいたのしいね~!」
「そうだなー」
「……お主ら、脳味噌が死んでおるぞ」
と、シィと二人でのんびりしていると、いつの間にか、こちらにやって来ていたらしいレフィの声が後ろから聞こえてくる。
「あっ、おねえちゃん! いまね~、みみずのしんせきさんとして、ウネウネのしんずいをまなんでたところなの!」
「そうか。じゃが儂は、ウネウネしておる時より今の普通のお主の方が好きじゃから、その真髄は極めず今のままでいて欲しいの」
「ホント~? それなら、ノーマルけいたいシィでいることも、やぶさかじゃないよ! シィもね~、いつものおねえちゃんすきー!」
シィはニコニコしながらひしっとレフィに抱き着き、我が嫁さんはその頭をポンポンと撫で、シィをくっ付けたまま俺の隣に腰掛ける。
「釣れておるのか?」
「いやー、全然だな。坊主続きだ」
「そうか」
それから少しの間、何も会話を交わさず、波の音だけが響き渡る。
あれだけいっぱい喋り続けていたシィは、ただその反動か少しウトウトしてきたようで、そのままレフィの膝に頭を乗せ、横になる。
我が嫁さんは、水色の幼女の頭を梳くように撫で始め――そして、口を開いた。
「……で、ユキ。今度はどうしたんじゃ?」
「どうしたって?」
「神話の話を聞いた時から、何やら考え込んでおる様子じゃ。深刻、といった様子ではないが、そんな風に考え込むくらいには、気になる部分があるのじゃろう?」
……相変わらず、よく見てるヤツだ。
「……レフィ。精霊王のじーさんって、本気で会おうとしたら、どうしたらいい?」
「むっ、それはなかなか難しいの……彼奴は本当に、世界中を放浪し続けておるからな。しかも、基本的に人里は避け、秘境から秘境を渡り歩いておるんじゃ。むしろ、こちらから探しに行くより、彼奴が気まぐれで我が家に来る確率の方が高いじゃろうの」
「ん~、そっか。じゃあ、待つしかねぇか」
「どうしたんじゃ、何か彼奴に聞きたいことでもあるのか?」
こちらを向くレフィ。
「あぁ。ダンジョンのことについて、神話についてもっと知りたいと思ってな。あの人……人? まあ、じーさんなら、色々と知ってそうだからさ」
「ふむ、確かに彼奴ならばその知識も深くまで持っておるじゃろうな。レイラと同程度の探求心を持ちながら、龍族よりも遥かに長い時を生きる正真正銘の化け物じゃからの。……ダンジョンと神話に、関係があるのか?」
「どうやら、そうらしい。それも、簡単じゃない相当に深い関係だ。実は、レイラから神話の話を聞いていた時に、普段俺に全てを任せきりで、何も言って来ないダンジョンが自分から反応を示したんだ」
「……なるほどの。それでそんな考え込んでおったのか」
「つっても、まだ何もわかってないんだけどな。俺の権限がまだ足りないのか知らんが、本当に断片的な情報しか表示されなくてさ。だから、知りたいと思ったんだ。このダンジョンの、主として」
――この世界には、まず間違いなく『神』と呼ばれるものが存在している。
神。
上位者。
あるいは、システム。
俺達とは違う領域にて、違う理で働くもの。
……思ったのだが、ダンジョンと魔王という関係は、単なる自然界での共生関係というだけではないのかもしれない。
きっと、その二つを結び付けるもっと深い理由が、そこにはあるのだ。
まあ、それを知ったからと言って、どうこうしようという訳じゃないのだが……だから、好奇心だな。
レイラじゃないが、俺と一心同体であるダンジョンという存在についてちゃんと知っておきたいと思うのは、そうおかしなことでもないだろう。
そんなことをレフィに語ると、彼女もまた考え込むような素振りを見せる。
「ふぅむ……それは確かに、気になるものじゃな。お主が相当変な男じゃから、ダンジョンも変なものに感じるという訳ではないということか」
「おう、旦那に向かって言いますね、あなた。まあ、今更否定はしないけどよ」
「カカ、安心せい。ちゃんとそういうところも、愛しておるぞ?」
…………。
「……レフィ、お前も釣りするか?」
「いや、儂はいい」
そう言ってレフィは、シィを膝に乗せたまま、俺の肩に頭を預ける。
俺は、ただその温もりを受け入れ、彼女と色々と話をしながら、何の反応もない釣り糸を垂らし続けた。
探求は次章で。




