エンの強化《2》
レビューありがとう、ありがとう!
前話『魔力刃』を『魔刃』に訂正しました。
――とりあえず第二形態は置いておくとして、エンと色々話し合った結果、幾つか新しい技を考案した。
まず、魔刃を改良した、『魔刃・改』。
これは、放った魔刃をエンが操作することで目標を追い掛ける、つまり飛んで追尾する斬撃である。
魔法は、放った後もある程度操作が利くため、同じように魔刃を操ることが出来ないかと試してみたところ、想定通り上手く軌道を曲げることが出来たのだ。
まだ精度は荒く、九十度ギュインと曲がったりなどは出来ないが、可能性は見えたので要訓練だな。エンが、「……これはエンの課題。頑張る」と燃えていた。
標的に当たるまで、どこまでも追い続けるような斬撃が理想だ。
次に思い付いたのが、『ヒートソード』。
エンには魔術回路から得た『紅焔』スキルがあり、それを利用した技にジェットエンジン化がある。主に、空を飛ぶ時に加速するための技だ。
あれを、もっと使いやすく、地上にいる時も常にその状態でいられるように改良してみたのだ。
超絶熱く、使っている俺が燃え上がりそうだったのだが、岩が力を込めずともバターのように斬れるし、試しにDPで出した分厚いコンクリの壁とかも、振り抜けば簡単に斬り裂けたので、これは今後すぐに使っていける技だろう。
魔力はそれなりに食うが、俺もエンも以前より強くなり、魔力量が相当上がっているので、戦闘が長引いても一時間くらいならば使用し続けることが可能だ。
上級魔力ポーションを使っておけば、もっと長く戦えることだろう。
そして――三つ目が、今回の本命の技だ。
「行くぞ、エンッ!!」
『……ん、いつでも!』
現在いるのは、俺が所有するダンジョンの一つ、幽霊船ダンジョンの甲板。
俺の言葉に答えるエンの刀身は、いつもよりさらに濃い紅色に輝いており、彼女の主である俺ですら冷や汗を掻くような、非常に重い圧力を放っている。
「フッ――!!」
我が愛刀を下段に構えた俺は、力の限りで彼女を前へと振り抜いた。
放たれるのは、魔刃――というより、ビーム。
空間を戦慄かせ、大海原を抉り、どこまでもどこまでも突き抜けていく。
水飛沫。
空気が熱せられ、何かが爆発したかのような強烈な爆音が鳴り響く。
波が発生し、巨大な幽霊船ダンジョンの甲板を揺らし……やがて抉れた海面が元に戻り、通常の海へと戻っていく。
エンの刀身は、いつもの紅色へと戻っていた。
「お、おぉ……や、やったな」
『……ん、でも、ちょっと魔力の制御が甘くなっちゃった。エンが頑張れば、まだまだ行けるはず』
思わず引き攣り気味の顔になる俺に対し、まだこれでも満足行っていないらしく、不満の意思を示すエン。
……うちの子、結構自分に厳しいタイプだからなぁ。
――今のは、『精霊魔法』で精霊達に魔力を渡し、エンの刀身に纏わせ、それを『魔刃』の要領で放った攻撃である。
何度か、もっと低い魔力で試し撃ちをし、形を整えてから本番をやってみたが……思っていた以上に威力があったな。
魔境の森じゃなく、こっちで試して正解だった。
レフィの放つ『龍の咆哮』を目指した攻撃だが、その足元は見えただろうか。
エンの斬撃が加わったことで、俺が使う精霊魔法の『レヴィアタン』より、威力は上か?
感じとしては……以前エルフの里に行った際、アンデッドドラゴンの放つ龍の咆哮は見たが、あれに近しいくらいはあるかもしれない。
名付けるとしたら、『魔刃砲』だな。ここまで来るともう、斬撃って感じじゃないが。
体感だが、俺が自分の魔力を使って魔法を放つより、同じだけの魔力を精霊に渡した方が効果が高くなるように思う。
というか、この結果を見るとその予想で当たりだろう。
俺も魔力によって肉体が形成された身だが、より純粋な、『意思を持つ魔力』とでも言うべき精霊の方がそれに対する適性が高いため、威力に差が出るのではなかろうか。
問題としては、溜めに時間が掛かるという点と、『レヴィアタン』に比べてこっちは威力の加減が出来ず、一発撃ったら後は何も出来なくなるという点か。
使うとしたら……溜めている間ペット達に正面を受け持ってもらい、トドメにこれを放つのが良さそうか。
あとは、この攻撃の要が『精霊魔法』故、環境の問題があるか。
俺が得意な魔法の属性は『水』であり、それが理由で他の精霊よりも水精霊がよく言うことを聞いてくれる。
そして、ここが海という水精霊が最も本領を発揮出来る場所であるため、これだけの威力になったが、森とかで放つとなるともう少し控えめの威力となるだろう。
「まあでもエン、神槍は別枠としても、俺達の手持ちの攻撃の中じゃあ今のが一番強いぜ? だから俺は、エンと一緒にこんな攻撃が放てたってことを喜びたいんだが」
『……ん。確かに。まずは、成功を喜ぶ』
「そうさ。向上心があるのは良いことだし、俺もまだまだ強くならないと、とは思ってるが、切羽詰まってやる必要はないからな。一つ一つ、強くなっていこう」
『……ん!』
これで、手札は増えたな。後はコツコツ自力を鍛えるしかない。
……一撃必殺系ばっか増えてる気がするし、使いどころに大分困るような気もするが、まあ良しということにしておこう。
そもそもエンの設計思想からして、一撃に重きを置いているしな。
エルフの里にて執事のじーさん――先代勇者に剣を教わった時も、その方向に突き抜けろと言っていたし、何よりロマンなので。
大艦巨砲主義万歳!
と、エンと成功を分かち合っていると、近くにある魔境の森と繋がっている扉からレイラが顔を覗かせる。
「ユキさん、エンちゃん、おやつが出来たのですが、どうですかー? まだ掛かりそうなら、後用に取っておきますがー」
「ん、じゃあエン、一段落したところだし、休憩するか」
「……おやつ、楽しみ」
すぐに擬人化し、わかりやすく頬を緩ませているエンの姿に笑い、俺はレイラへと言葉を返す。
「よし、そういう訳だからレイラ、俺達も一緒に戻るよ。――と、そうそう、そう言えばレイラに聞きたいことがあったんだ。こっちの世界の神話、教えてくれないか?」
「神話、ですかー?」
「あぁ。よく考えたら俺、ネルが所属する教会の『女神』様についてもよく知らないし、ヒト種の間でポピュラーな宗教も知らないからさ。レイラなら、詳しく知ってたりしないかと思ってよ」
「確かに、それなりには学んでいますがー……わかりました、勿論構いませんよー。後程、私の知っている限りの知識をお話ししましょうー」
ユキは、レフィの放つ『龍の咆哮』が脳裏に強烈に刻まれているので、ビームが大好きです。