閑話:正月
「お餅もちもち~!」
「もっちもちのおもチ~!」
「……何でも合って、とても美味しい」
「おしょーゆ!」
「おぞうに!」
「……お汁粉」
「素晴らし~い~、モチモチさ~!」
「「へいへい!」」
七輪で餅が焼けるのを待ちながら、息ピッタリで、機嫌良く即興の歌を歌っている幼女達。可愛い。
あと、普段物静かなエンが、元気良く「へいへい!」って言ってるの、可愛過ぎてヤバいな。
「カカ、食欲の増す良い歌じゃな。お主らは、餅料理では何が好きなんじゃ?」
「わたしはね~、ノーマルお餅さん! シンプルなおしょーゆさんのおかげで、もうどれだけ食べても止められないの!」
「え~、やっぱり、いちばんはおぞうにだよ、おぞうに! とりにくさんもあって、にんじんさんも、しいたけさんも、かまぼこさんもあって、いっぱいたのしめるおぞうにだヨ!」
「……むむ。それは聞き捨てならない。どちらも美味しいけれど、正義はお汁粉。甘さとモチモチで、幸せいっぱい」
幼女達は、顔を見合わせる。
「……派閥が三つ! これは、戦争開始の合図……!」
シャキン、といった感じで、戦いの構えを取るイルーナ。
「せんそうなら、まけないよ! シィは、おぞうにウォリアーとして、いのちをかけるしょぞん! ヒトは、たべもののためなら、しゅらとなれるの!」
「……シィはまだ甘い。真の修羅は、確実に目的を達成するため、陰に潜んで人知れず戦う。二人、覚悟」
吸血鬼幼女に呼応し、二人の幼女達もそれぞれ戦いのポーズを取る。
シィは、荒ぶる鷹のポーズ。
エンは、忍者のポーズだ。
……シィ、それはなんか、ちょっと違うのではなかろうか。
と、幼女達の間で勃発寸前であった大戦は、しかし調停者ネルの言葉により未遂に終わることとなる。
「ほーら、食事をする時にそういうおふざけをしないの! 三人だけ、お餅無しにしちゃうよ?」
「あっ、だめ、ごめんなさーい! しょうがない、二人とも、今は停戦しよ! 残念だけど、お餅を前にしては、大義は折れざるを得ないの!」
「う~、むねん……! シィは、あまねくせかいに、おぞうにのおいしさをつたえたいのに……! だって、レイラおねえちゃんのつくるおぞうに、おいしさがばくはつ! ってかんじなんだもン……」
「……それは、お汁粉も一緒。レイラのお汁粉なら、世界征服も可能」
「フフ、ありがとうございます、二人ともー。けど、大丈夫ですよー。みんな、全部の美味しさをよくわかってますからー」
礼を言うレイラの次に、リューが言葉を続ける。
「そうっすねぇ、レイラの作る料理は、もう世界で通用しそうっすよねぇ。というか、多分外で高級料理とか食べても、ここのご飯に慣れてると『あ、うん……』って感じになりそうっすからねぇ」
「そう言ってくれるのは嬉しいですが、買い被り過ぎですよー。ここでは外と違って、いつも新鮮な食材に、ふんだんに調味料も使えますからー。しかも、それらは全部最高級品と言って良いような質をしていますしー」
「いやぁ……僕は外で過ごすことが多いから言えることだけど、レイラの料理の美味しさはリューの言う通りだと思うよ? 確かに食材類の質が高いのはあるだろうけどね。少なくとも、店とか出しても、普通に繁盛しそうなレベルではあるよねぇ」
「そうじゃな、儂は世俗にはあまり詳しくないが、レイラの腕で文句を言っておったら、この世の何にも満足出来ないじゃろうの」
「うんうん、レイラおねえちゃんの料理に文句を言う人がいたら、わたし、もう頑張ってやっつけちゃうんだから!」
「それは、おぞうにウォリアーであるシィも、いっしょにたたかっちゃうよ! あくそくざん!」
「……ん、悪即斬。真の修羅も参戦やむなし。力の限りで戦うことをここに誓う」
幼女達の様子に、ネルがニヤニヤ顔をレイラへと向ける。
「心強い味方だね、レイラ」
「……皆さんにそこまで満足してもらえているというのは、嬉しいですねー」
「あっ、レイラ、珍しく照れてるっすね? もう、可愛いんだから~」
「可愛いんだから~!」
「……では、リューとネルの二人のお雑煮は、餅抜きということで」
「それはお雑煮とは言わないっす。お吸い物っす」
「あははは、ごめんごめん!」
談笑している我が家の面々の様子を眺めていると、レフィが声を掛けてくる。
「どうした、ユキ? 嬉しそうじゃな」
「いや……ウチらしい新年の祝い方だなって思ってさ」
「カカ、そうじゃの。餅のことだけでこれだけ盛り上がれるのは、世界広しと言えどここだけじゃろうな。……というか、餅という食い物がここにしかないのじゃから、当たり前なのじゃが。普通に美味しいし」
「だろう?」
そう俺と話しながら、レフィは七輪で焼けた餅を、手際良く箸で掴んで皿に移し、「ほれ」と我が家の面々に順に渡していく。
「……今のお前の姿を見ても、誰も覇龍だとは気付けないだろうな」
「うむ、儂は進化する覇龍じゃからの。これからは家庭派覇龍として通していこうかと思って」
「番としては、嬉しい限りだよ。家庭派覇龍は、具体的には何をしてくれるんだ?」
「旦那が阿呆なことをしたら叱る係じゃ」
「随分ピンポイントで来ましたねぇ。あとそれ、前からあんまり変わってないよな」
「そうか。では儂は、前から家庭的な女じゃったということか」
「お前がそう思うんだったら、まあ、そういうことにしておいてもいいぞ?」
「素直になれん旦那じゃのう」
わかりやすく「やれやれ」といった動作を見せてから、レフィは笑みを見せる。
「ユキ」
「あぁ」
「今年も……いや、来年も再来年も、それから先もずっと、よろしくのう」
「こちらこそ、よろしくな」
レフィの尻尾がゆっくりとこちらに伸び、俺の脚に巻き付いた。
あけましておめでとうございます。
今年一年も、どうぞよろしく!