閑話:幼女の成長
なんか本編よりも書きたくなっちゃったので。
「……あれ?」
イルーナは、タンスの奥から最近着ていなかったズボンを見つけて引っ張り出し、履こうとしたところで、若干の焦りの声と共に首を傾げた。
ダンジョンに住む者達の服は、自身の身体を服の形に変化させているシィ以外、全てイルーナの兄であるユキがダンジョンの不思議力によって生み出している。
外では、服など三着もあれば十分なのだが、お洒落をさせてあげたいユキの甘やかしによって、イルーナとエンのための服などは数十近くのものが用意されていたりする。
好きなだけお洒落をさせるというのは、教育に悪いのではないかとレフィと話し合ったこともあったが、子供にそういう面で不自由させないのは保護者の義務だとユキが譲らなかったため、その点では贅沢をさせていた。
故に、ズボンだけでも何着もあるため、以前履いていたものがタンスの奥の方に行き、忘れて履かなくなるということがあるのだ。
そういう訳で、何となくで取り出したズボンへと足を通したイルーナだったが――履けなかったのである。半年前は履けていたはずのズボンが。
――わ、わたし、太っちゃったのかな!?
姉であるリューとネル、そしてレイラがよく食べ過ぎがどうの、ダイエットがどうのと話していることを思い出す。
ここのご飯は、とても美味しい。
だから、いっつもいっぱいおかわりしてしまうのだが……それが原因で、自分も太ってしまったのだろうか。
その分だけ運動すれば問題ないと聞いていたし、毎日外でクタクタになるまで遊んでいるので、大丈夫だと油断してたのが、もしかするとダメだったのかもしれない。
「おっ……おねえちゃーん!」
イルーナは下着姿のまま、履けなくなったそのズボンを片手に、近くでゴロゴロしていた姉、レフィの元へと駆け寄った。
「何じゃ、イルーナ。恰好がはしたないぞ。ユキがいないとはいえ、下くらいちゃんと履かんか」
「あ、あのね、このズボン、履けなくなっちゃって……わたし、太っちゃったのかな!?」
「む……?」
レフィは、怪訝そうにイルーナのことを見詰める。
「こうして見る限りでは、特に太ってはおらんと思うが……ふむ、イルーナ、そこで真っ直ぐ立ってみよ」
「? う、うん」
言われた通り、イルーナはその場でピンと立ち、するとレフィは彼女の前に立って自身と幼女との何かを比べ始める。
死刑宣告を待つような気分のイルーナだったが、少しして結論が出たらしく、レフィはコクリと頷いてのんびりとした口調で言った。
「……うむ、間違いないの。イルーナ、お主は太ったのではなく、単純に背が伸びて身体が大きくなったんじゃ」
「? ほ、ホント?」
その実感は……あんまりない。
いや、だが、そう言われて辺りを見回してみると、昔より物が小さくなったように見える、かもしれない。
勘違いと言われたら、あぁ勘違いかと納得してしまいそうな、些細な差だが……。
「カカ、ま、そういうのは本人は体感出来ぬものじゃろうて。安心せよ、その服が着れなくなったのはただの成長じゃの。じゃから、最近着ておった新しいのを履くんじゃ。いつまでも下着姿のままでは、風邪を引くぞ」
「う、うん、わかった! ……えへへ、そっかぁ、成長かぁ」
その事実を認識し、だんだんと嬉しくなってきたところで、親しい友であるシィとエンの二人がパチパチと拍手をする。
「おー、イルーナ、おおきくなっタ! これは、おいわいだネ!」
「……ん、素晴らしきこと。羨ましい」
「えへへ、ありがと、二人とも! このまま成長していったら、レフィ――レイラおねえちゃんくらい、成長出来るかな?」
「なれるよ、きっと!」
「……ん。主も、いっぱい遊んで、いっぱい食べて、いっぱい寝れば成長するってよく言ってるから、きっとなれる。エンも、もっと成長する」
「シィも、もっとせいちょーする!」
未来に対し、無邪気な希望を語る彼女らの横で、若干ダメージを受けた様子の大人が二人。
「うっ……やっぱりそういう時に出てくる名前は、レイラなんすね……女のウチから見ても、レイラの身体付きはクラッと来るものがあるから、イルーナちゃん達の気持ちもよくわかるっすけども……」
「言っておくがリューよ、お主よりも、直前で言い直された儂の方がダメージは大きいぞ……クッ、人化の術を使うた時、もっと大人の身体にしておけば……!」
「え、そういうことも出来るんすか、レフィは」
「いや、無理じゃが。儂が人と化した時の姿は、これだけじゃ。他の背丈にはなれん」
「ただの願望じゃないっすか……おのれレイラ、やはりあのおっぱいはウチらの敵っす。全てレイラのおっぱいがいけないんす」
「そうじゃな……」
と、そこで、何もしていないのに無駄にヘイトを買っていた本人が二人の会話に参加する。
「え、ええっと……二人の身体付きは、私の方も羨ましくなるくらい整っていると思うのですが―……」
「だまらっしゃい! 持つ者には、持たざる者の気持ちはわからないんす! その大人な身体で、いっぱいご主人を誘惑するといいっす!」
「そうじゃそうじゃ! 良いかレイラ、お主のことは応援しておるし、ユキとそういう関係になっても心から祝福するが、これだけは言わせてもらう! 彼奴は胸よりも太ももの方が好きじゃ! 誘惑するのならば、そのめいど服を多少はだけさせ、太ももを見せて誘惑するが良いぞ!」
「は、はぁ……」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ友人達に、若干「面倒くさい」と思うレイラであったが、大人である彼女はそれを態度には出さず、ただ曖昧な困った笑みだけを浮かべていたのであった。