久しぶりの王都アルシル
レビューありがとう! 超嬉しいよ。
長らく読んでくれているみんなも、ありがとう!
いつものように、辺境の街アルフィーロまでは繋げた扉で向かい、その後はリルに乗って草原を駆け抜ける。
街道は避けている。
いくら他種族との交流が活発になっていると言っても、流石にリルで爆走している姿を見られては、あんまり良くないと思われる――というか、単純に驚かせてしまう可能性が大なので、選んでいるのは道なき道だ。
と言っても、いつも魔境の森の中で暮らしているリルにとって、これくらいの悪路は悪路でも何でもないので、我がペットの走りに影響はほぼないのだが。
リルの最高速度も、レベルの上がりに伴いスポーツカーばりのものになっているので、馬車で数日の距離も一日で踏破することが可能だ。
まあ、その速度で走り続けると、リルも、そして上に乗る俺の疲労も結構なものになるので、今は最高速より少し落として走ってもらっている。
空を飛んでいる時もそうなのだが、一定以上の速さになると、風が凶器なんだよな……まともに目を開けられないし、飛んでる虫で怪我するし。
だから、常に風避け用に風魔法を張っているくらいだ。
――現在、俺のレベルは『212』。リルは『205』だ。
実は、ちょっと前までレベルはリルの方が高かったのだが、例の冥王屍龍を討伐した際に俺の方が上回った。
リルとのレベル差は、いっつもこんな感じだ。
追いつ追われつ、みたいな感じで、大体同じくらいのレベルになっている。
きっと今後も、それは変わらないだろう。
是非とも二人で、レフィの高みまで登り詰めたいものだ。
レフィの話だと、レベル『500』を超えた辺りから、一つレベルを伸ばすのに数百の魔物を狩る必要があるということだったので……うん、わからんが、まあ頑張ろう。
「今更だけどよ、西エリアの魔物、強さがインフレしてるぜ。フェンリルであるお前ですら敵わないってのは、もう設定を見直した方がいいな」
「クゥ?」
「えっと、インフレってのは、要するに高過ぎるってことだ。他の地域と比べて、あそこの魔物どもの強さは頭おかしい。『はぐれ』こそ俺達でも狩れるけどよ」
はぐれ、というのは、西エリアにおいて外縁部に住む魔物達のことだ。
南エリアや、東エリアの魔物よりは強いものの、しかし西エリアに住むには実力が足りず、境界線付近を彷徨っている魔物のことをそう呼んでいるのである。
「クゥ……」
「いや、お前は頑張ってくれているから、気にすんな。ま、それでも俺達の実力が足りないのは事実だがな。本当は俺、もうダンジョンに引き籠って、毎日ウチのヤツらとふざけながら暮らしたいんだけどなぁ……」
「クゥガウ」
「そうだな、平和な暮らしのためには、外敵を一蹴出来るだけの実力がないとな。――と、そうだ、お前にも聞こうと思ってたんだが、お前に番はいたりすんのか?」
「……クゥ」
「おぉ、マジか? そりゃあ、いいことだ。何か困ったことがあれば、俺に言えよ? お前のためなら、何でも力になるぞ」
そうして、我がペットと雑談しながら進んでいき、やがて夕方を回った頃、俺達の前方に王都アルシルの城門が姿を現す。
ここまで来ると、姿を隠すことも出来ないので、街道を行き来する人間達が畏怖の視線をこちらに送ってくる。
門を守っている衛兵達も、奥からワラワラと現れ、緊張を感じさせる面持ちで警戒している。
人間は強さに鈍感だが、リルは見るからに強そうだしな。
別にケンカを売りに来た訳ではないので、威圧しないようゆっくりと進んで門へ近付いていくと、衛兵の中でのお偉いさんらしい人間が一歩前に踏み出し、大量の冷や汗を掻きながら問い掛けてくる。
「な、何者だ?」
「まお――いや、魔族のユキだ。アーリシア王国王に協力するために来た。確認を取ってもらえると助かる」
今回は魔族の助っ人としてこの王都へ来たので、魔王と言い掛けたところ言い直してそう言う。
「……わかった、しばし――」
「――おにーさん!」
その時、衛兵の声を遮って聞こえてきたのは、聞き覚えのある声。
――我が嫁さん、ネルである。
「ネル! 何だ、迎えに来てくれたのか?」
「フフ、おにーさん一人じゃあ、中に入るのも大変だろうからね。――衛兵さん、この人は大丈夫です。後は僕が対応するので、任せてください」
「ハ、ハッ! 畏まりました、勇者様」
衛兵達は敬礼し、こちらを気にした様子ながらも、大人しく中へと俺とリルを通す。
うむ、やっぱりこの王都だと、ウチの嫁さんは一門の権力者であるようだな。
流石、勇者様である。
俺はネルの手を取ると、そのままヒョイと俺の前に乗せてやり、王城へと向かって進んでいく。
「ありがと、おにーさん。――エンちゃんは連れて来てないんだ?」
「あぁ、とりあえずな。リルもいるから、大概のことは何とかなるだろうしよ。前回の冥王屍龍レベルのヤツが出て来られたら難しいかもしれんが、あんなのがそう簡単に出て来られても困るし」
「あはは、そうだね。……ま、確かに今回武力はあんまりいらないかも。今回の敵は、搦め手が得意な相手だから、見た目からして立派なリル君の方が効果的かもね」
む、そうか、魔界王はそういう意図も込めて、俺にコイツを連れていった方がいいって言ったのかもな。
「はー、それにしても……リル君の毛並み、いつ触っても最高だねぇ」
「クゥ」
ワシャワシャとリルの身体を撫でるネルに、我がペットは「恐縮です」と言いたげな返事をする。
リルのモフモフを堪能しているネルに、俺は笑みを浮かべながら問い掛ける。
「それで、こっちの様子はどうなんだ? 他種族との交流は上手く行ってるのか?」
「うん、概ねは良い感じだよ。期待六割、不安四割って感じで、みんなが新しい時代に興味を向けてるよ。……だから、それをマイナス方向に持って行くような思想は、浸透されちゃうと大分困るんだよね」
「……人間至上主義者か。ソイツら、どれくらい活動してるんだ?」
「活動自体は大したことないよ。裏に潜んで、そっと、その思想を人々に囁くだけ。後は、不安が勝手に増殖していくの」
いつもの『ネル』の顔ではなく、勇者としての真面目な顔で、そう言う我が嫁さん。
こういう時のコイツは、本当にカッコいい表情をしている。
「任せろ。最近出番の無かった魔王の秘密道具で、瞬く間にバカどもを白日の下に晒してやろう!」
「フフ、うん、期待してるよ」
こちらを振り返ってクスクスと笑った後、彼女は言葉を続ける。
「そうそう、僕の方も聞きたかったんだけど、レイラとは何か進展あった?」
「ん、あ、あー……ちょっとだけな。二人だけで散歩したりとかはしたぞ」
「そっか、なら良かった。あの子、僕達よりもしっかりしているけれど、でも人付き合いに関して言うと、僕達よりも奥手な面があるから、しっかりおにーさんの方からリードしてあげないとダメだからね?」
「お、おう、頑張るよ。……レイラって美人な上に大人びてるから、お前らの時とは違って、二人きりでいると正直ちょっと緊張すんだよなぁ」
一緒に料理作ってる時とかは、そうでもないんだがな。
そういう空気で二人でいると、若干緊張してしまうのだ。
レイラ、大人な女性って感じだからな……。
「あ、ひどーい、僕達と一緒にいる時は何にも感じないの?」
わかりやすく、ふざけて唇を尖らせてみせるネルに、俺もまた冗談めかして肩を竦める。
「お前らといる時は、感じるのは安心感さ」
「フフ、そう。じゃあ、そういうことにしておいてあげる」
そう言って彼女は、後ろに座る俺の手にキュッと指を絡めた。