百鬼夜行を率いる者
略称ね、今更だけど、ないと不便だと思ってさ……w
作者もほしいと思ったので、ペット回。
「――何じゃ、もういいのか? 昨日はあれだけ甘えてきおったのに。お主が望むのならば、もっと甘やかしてやるぞ?」
「う、うるせぇ、酔ってたんだ、昨日は」
ニヤニヤとからかってくるレフィに、俺は気恥ずかしさから顔を逸らす。
……ほとんど覚えていないが、温もりを求め、レフィに向かってこっ恥ずかしいことを幾つか言った気がする。
多分コイツは、その俺の言動の全てを覚えているのだろう。
クッ、昨日の俺め……無駄な隙を晒しやがって……!
「ほれ、手を繋いでやろうかの? 確か、昨日のお主は、儂と繋がっておると、天にも昇る気分じゃとか何とか、言っておったが」
「い、いや、何を言っているかわかりませんね。あなたの聞き間違いじゃありませんか? 私はそんなことを言った覚えなど――」
「そうかそうか、では昨日のお主の姿は、儂の胸に秘めておくとしよう。『お前の首筋……美味いな』とか言って、甘噛みしてきおったお主の姿は、それなりに可愛いものがあったの」
ビシリと、俺は身体を硬直させる。
「そうそう、あと何じゃったか。『お前の唇も、プルプルで、柔らかそうで、美味そうだ』なんてことも言って――」
「ぐわああああぁッ、やめろおおおぉぉぉ!!」
俺は、逃げ出した。
* * *
「クッ、れ、レフィめ……的確に俺が嫌がる言動を覚えやがって……!」
だんだんと、ヤツに握られる俺の弱みが増えている気がする。
タチが悪いのは、俺自身そんなことを言ったような記憶があることだ。
近くにあるレフィの顔を見て、酔っていた俺は思わず――ぐわああああ!
「クゥ……?」
と、一人恥ずかしさから叫び声をあげていると、聞こえてくる「あー……大丈夫ですか?」と言いたげな鳴き声。
我がペット、リルことモフリルである。
――俺は今、久しぶりのペットどもの様子を見るため、草原エリアを出て魔境の森へとやって来ていた。
「むっ……オホン、気にするな。こっちの事情だ。それより、お前ら元気にしてたか? 留守中、守ってくれてありがとうな」
俺の言葉に、リルを筆頭としたペット軍団、オロチ、ヤタ、ビャク、セイミの計五匹が頭を下げる。
俺は彼らを労った後、羊角の里で土産に買ってきた、『調教師』と呼ばれる魔物使い達が使う、魔物が好むという特殊な餌を彼らへと渡す。
大喜びな様子で、我がペット達はその餌に食らい付き始めるが……その中でリルだけが、とてとてと俺の隣へとやって来る。
「おう、どうした? お前も食っていいんだぜ?」
そう問い掛けると、リルは「その……すみません、一つ相談が」といった感じの鳴き声をあげる。
「へぇ? お前の相談事か。珍しいな」
俺の言葉に、我がペットは「お手数を掛けます」と鳴いてから、事情を説明し始めた。
――どうやら、コイツが個人的に配下としている、魔境の森の魔物どものことで頼みがあるようだ。
リルの力を恐れ、その配下に入ることで生存競争を生き延びることにした賢いヤツら。
ソイツらは全員、ウチのペットどもと、そしてそのまとめ役であるリルのことを主としている訳だが……リル自身の主は俺だ。
だが、今は群れが大きくなったことで、俺のことを知らない魔物がかなり増えてしまったらしい。
つまり、リルこそが全てのトップだと思っているのである。
別に、リル個人の配下のことなので、ウチに敵対してこないのであれば好きにしてくれて構わないのだが、どうやら我がペット自身がそれは嫌なのだそうだ。
自身は俺の配下であり、そしてダンジョンを守る者であるため、その意識を配下達にも持たせたいのだと。
リルの相談事とは、その配下達に俺の顔見せをしてほしいということだった。
「お前は相変わらず、真面目なヤツだなぁ」
「クゥ」
一声鳴き、頭を下げるリル。
…………。
「……なぁ、リル。俺は、お前のことを大切な相棒だと思ってる」
コイツは、俺のペットだ。
ペットだが、しかし大事な『友』でもある。
何度も共に死線を潜り抜けた、俺の背中を任せられる相棒。
互いを守り、互いを信じ、戦い抜けてきた仲だ。
レフィ達とはまた違った、大切な存在である。
「俺とお前の間に、主従関係は確かにあるかもしんねぇ。けど……お前が望むのなら、好きに生きてくれていいんだぜ? どこか出掛けたりとか、お前のその配下どもを率いて、お前が主として生きたりとかな。もっと、自由にしてくれても、俺は何も言わないさ」
俺は、コイツとは対等にやっていきたいと思っている。
友だからな、望むのならば、何者にも縛られず自由に生きてほしいとも思っている。
そりゃあ、ウチからいなくなられたら困るのだが……それでも、俺がコイツの可能性を潰すようなことは、したくない。
リルは、世が世なら天下を狙える程の実力を有する魔物である。
俺の配下としてこの魔境の森に縛られているため、外へと出る機会は滅多にないが、そうでなかったらきっと、我がペットの存在は広く知れ渡っていることだろう。
「……クゥ」
俺の言葉に、リルはまず「……心遣い、ありがとうございます」と礼を言ってから、しかし首を横に振った。
――自身が、ここを離れることはあり得ない、と。
俺が、ここを大事に思うように、自身もまたこの場所を大事に思っている、と。
自身にとってもここは『家』であり、だからこそ離れたくないし、俺達と一緒に生きたいのだと、真摯な顔で俺を見詰めながら、語り掛けてくる。
その表情には、少し怒るような感情も見られた。
自身が持つ覚悟を、バカにするなと言いたげな様子の表情だ。
「……そうか。悪ぃ、くだらねぇことを言ったな」
そう言うと、リルは「いえ、お言葉は、本当に嬉しかったです」と言いたげな様子でフッと笑い、グリグリと俺に頭を押し付けてくる。
俺は両手で触り心地の良い毛並みをグシグシと撫で、それからリルの背中へと飛び乗った。
「うし! んじゃあ、お前の配下達んところへ案内してくれ。顔見せと行こうぜ!」
* * *
そうして連れられたのは、魔境の森の中に存在する、開けた場所だった。
「あー……これ、全部が?」
「クゥ」
騎乗中の俺の言葉に、下からクルリとこちらを向いて、「そうです」と頷く我がペット。
――眼前に広がる、魔物の軍勢。
そう、軍勢だ。
大分前に一度、草原エリアにリルの配下達が来たことがあったが……今ここには、その頃とは比べ物にならない数の魔物が集結していることだろう。
五百……いや、もっといるか?
一番多いのは、やはりリルと同種族の狼型の魔物。
次に多いのは、蛇や鳥などの魔物であるようだが、オロチとヤタの影響だろうか。
逆に、ビャクとセイミは種族が特殊だからか、近親種っぽいのは見当たらないな。
それでも、俺の見たことのある魔物から、見たことのない魔物まで非常に多種多様な種族が揃っており、さながら魔物見本市といった様相である。
一番相応しい言葉は……『百鬼夜行』だな。
多分コイツら全員引き連れていけば、そこらの国なんて簡単に落とせることだろう。
……いや、ぶっちゃけ今の俺と、そして我が家のペット軍団さえいれば、もう可能か。
どうやら、予めこの場に集められていたらしいその魔物達はというと、リル達の姿を見て跪くようにしてその場に座り、大人しくしている。
なかなか、異様な光景だ。
こういう姿を見ると、こちらの世界の野生生物が、前世の野生生物よりも頭が良いということがよくわかる。
本来ならば共存し得ないであろう生物達が、殺し合いもせず、逃げもせず、こうして一つの頭を仰いで従っているのだから。
いや……こちらの生物が、というより、やはり魔境の森の魔物達が特殊なのだろう。
基本的に身体がデカいから、脳味噌の容量もデカいのだろうか。
「ガウッ!!」
そんな魔物どもの前で、威厳のある様子で一声鳴く我がペット。
すると、魔物どもは一斉に頭を下げ、そしてリルは「では、お願いします」と言いたげにこちらへ目配せする。
……これを前に話をしろって?
俺、別に演説とか、そういうの得意じゃないんだが……というか、リルよ。
俺の知らん間に、王としての風格みたいなものが備わってきているな。
あれだな、お前、マジで物語の主人公みたいな感じだな。
我がペットの成長に、一つ苦笑を溢した後、俺は魔物どもへと向かって口を開いた。
「……俺は、ユキだ。お前らの主じゃないが、リル達の主ではある。つまり、間接的にだが、お前らの本当の主とも言える」
俺の言葉を、下のリルが翻訳するように鳴く。
すると、幾匹かの魔物が反発するように立ち上がって鳴いたが、次の瞬間リルやペット達の魔法によって滅多打ちにされ、大地にお座りさせられる。
死んではいないようだが、気絶はしたようだ。
うむ、あれだな。
典型的な、縦社会だな。
……まあ、反発するのも正直わかるのだが。
リルは俺のことを立ててくれているが、ぶっちゃけ、俺とリルの戦闘技能はほぼ一緒だ。
いや、日々魔境の森で過ごしているリルの方が、高いかもしれない。
そんな俺が支配者だ、なんて急に言っても、受け入れられないのだろう。
ただ、俺が受け入れられずともやはり我がペット達のことは怖いようで、他の魔物どもは大人しく俺の言葉を聞く態勢を貫く。
「あー……今みたいに、だからと言って、そう簡単に言葉を聞き入れられないのはわかる。俺の言葉は聞かなくてもいいが、代わりにお前らはリルに従え。リルに従って、好きに生きろ。俺と、俺の家族に敵対してこない限りは、俺は何にも言わねぇ」
ジッと、こちらを見詰める視線。
リルが翻訳してくれているが、いったいどれだけ、俺の思いが伝わっていることだろうか。
「俺達に敵対するのなら、殺す。けど、従うのなら、守ろう。リル達を慕って来たのなら、そのままコイツらの言う通りに生きろ。悪いようにはしねぇさ。――お前らも、コイツらをしっかり守ってやれよ」
我がペット達は、同時に頭を下げる。
俺を上位者として見なしている彼らの行動を見て、魔物どももまた、少し戸惑った様子ながらも、俺に向かって頭を下げた。
発売した九巻も、よろしくやでー!
あ、現在書いてるもう一作、『幻想を奏づ~元魔王、学園にて『イルジオン』に乗り、空にて無双する~』もよろしく!
百話ちょっと書いてるんで!




