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魔法大学《2》


 レイラとエミューがいなくなったタイミングで、お師匠さんは口を開く。


「魔王としようと思っていた話は二つ程あるんだが……まずは、アンタの子供に関して話をしようか」


「……聞かせてくれ」


 彼女の言葉に込められた真剣さに、俺は若干緊張しながら、そう言葉を返す。


「少し、アンタにとっては残酷な話になる。けど、とても重要なことだから、これだけは頭に入れておきな。――他種族同士の子供は、死産(・・)しやすい」


「……フー……それは、やっぱり種が違うからか」


 大きく息を吐き出し、精神を安定させながら問い掛けると、彼女は頷く。


「あぁ。決して、混血がいない訳じゃない。探せばそこら中にいるし、ウチの里にも少ないながら何人かいる。ただ、それでもやっぱり、他種族同士で子を成すのは難しいんだ。特に覇龍殿なんかは、特殊な魔法を用いて今のヒト種の姿を取っているって聞いている。医者でもきっと、どうなるかわからないだろうよ」


「……そうか」


 そのことは、正直、少し考えていた。


 俺は特殊な生まれであり、レフィもまた特殊な生まれである。

 ただでさえ子供を産むというのは難しいことであり、その上、二人とも生物学に対し真っ向からケンカを売っているような存在。


 順調に子供が生まれてくれるのならばそれに越したことはないが……危険があることは、否めないだろう。


「――と言っても、これは普通の家庭の話だ」


 精神が少し沈む俺に対し、ただお師匠さんは声音を先程よりも軽いものに変え、そう言った。


「……普通の家庭?」


「今、エリクサーをポンと出した以上、アンタは人に渡せる程それを多く持っているってことだろう? エリクサーは神の御薬、死の淵に立っていようが、無理やり生者へと戻すことが出来る。それがあれば、少なくとも母体が危険に陥ることはないだろうし、出産に関しても、無事に生むことさえ出来ればどうにかなる可能性は高い」


 安心させるような声音で、お師匠さんは言葉を続ける。


「重要なのは、十分な設備と、十分な医療体制さね。アンタはどうも、顔が広いようだし、魔界王にでも相談すれば最高位の医者を用意してくれると思うよ。非常に力のあるアンタとは、皆仲良くしておきたいだろうし」


「……死産の可能性は、減らせるってことか」


「そういうことさ。脅すようなことを言って悪かったね。ただ、アンタは一家の大黒柱になるんだ。そういう心構えだけはしておいて、何があっても女達を支えなきゃいけない。今の内に、医者も含め、準備をしておくといい」


「あぁ、肝に銘じておこう。……ありがとう、そういう言いにくい忠告をしっかりしてくれると、本当に助かるよ」


「フフ、ま、これでもそれなりに生きているババアだからね。小うるさく説教するのは得意なのさ」


 ニヤリと笑い、彼女はバシッと俺の腿を軽く(はた)く。


 ……やっぱり、レイラの師匠というだけはあるというか、大したばあさんである。


「んで……話は二つあるって言ったな?」


「あぁ、もう一つ聞いてほしい話がある。レイラのことでね」


「レイラ?」


 すると、彼女は聞きにくいことを聞くような様子で、口を開く。


「その……アンタはレイラのこと、どう思ってるんだい?」


「え? そりゃあ、すげー頼りになる、ウチの最終兵器だが」


「最終兵器?」


「おう、最終兵器だ」


 レイラがいなければ、もはやウチは回らない。


 我が家の最強最終兵器メイドである。


「あー……じゃあ、アンタはあの子のこと、どれくらい大事に思っとるかい?」


「そりゃあ、死んでやれるくらいには大事に思ってるが」


「嫁でもないのに?」


「嫁じゃあないが、もうほぼ身内みたいなモンだとは思ってるからな。だったら、それくらいやれるのは当たり前だろう」


 他人のために命を投げ出せる程、俺は聖人君子じゃない。

 だが、我が家の面々のためならば命を賭してもいい。


 そういうもんだろう、家族というのは。


 俺の言葉に、彼女はしばし黙考してから、口を開く。


「……魔王、聞いてほしい。レイラはね、まず第一に好奇心がある。ちょっと話してみたところ、アンタのことは憎からず思っているようだし、女としての幸せ――家庭を持ったりすることに対する興味もあるようだ。ただ、自分から積極的に行こうとする程じゃあない。このままだと、一生独身だろう」


 ……彼女の知識に対する欲求の深さは、ウチの面々ならば全員知っている。


 その……俺に対してどうのっつーのは、何を答えても自意識過剰になってしまうため何にも言えないが、しかしお師匠さんの言葉は正しいだろう。


 彼女が未知の探求を自身の中心に据えていることは間違いなく、そうである以上、それ以外のことに対する優先順位は自然と下がってしまうのだ。


「全てはあの子が選ぶこと。アンタのところにいて、『迷宮』の研究に一生を捧げるのも、それはそれでいいのかもしれないが……やっぱりあの子の保護者であった身としちゃあ、思うところがあるんだ」


「あー……ちょっと関係ない話だが、お師匠さんがレイラの親代わりだったのか?」


「一応ね。あの子の親は早い内に亡くなってる。エミューもそうさ。二人とも研究者としての才能があったから、アタシが引き取った。と言っても、そういう子は里全体で育てることになっているから、親代わりと言えるのはアタシ以外にも何人かいるだろうよ」


 ……レイラからは、お師匠さんのところで育ったってのは聞いたことがあったが、親はいなかったのか。


 俺達は平和に暮らせているが、やはりこちらの世界は基本的に過酷――いや、よく考えてみたら、俺もそれなりに過酷に生きてたわ。


 ついこの前とか、戦争に参加したし。


「いや、けどレイラにとっても、エミューにとっても、やっぱりお師匠さんのことを一番の親として見てるんだろうよ。俺、身内に関する話で、レイラからお師匠さんとエミューのこと以外を聞いたことないし」


「フフ、そうかい。それだったら嬉しいが。――そういう訳だから、その、何だ。もう妻が三人もいるアンタに言うのもアレなんだがね。アンタの方からあの子、口説いてやってくんないか」


「く、口説く」


「アタシも一生を研究に捧げた身だから、言えることだが……好奇心を追うだけの日々は充実しているが、後ろを振り返った時、少し寂しいものがあることも確かだ」


 それからお師匠さんは、真摯な、親の顔で言った。


「ババアのお節介で悪いが、どうかあの子を、アンタの手で幸せにしてやってほしい」


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こちらもどうか、よろしくお願いいたします……! 『元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~』



書籍化してます。イラストがマジで素晴らし過ぎる……。 3rwj1gsn1yx0h0md2kerjmuxbkxz_17kt_eg_le_48te.jpg
― 新着の感想 ―
[気になる点] レフィさんがただ人の姿をした龍族なら死産の可能性も分かるけど、人化龍って称号を得て、種の垣根を超えた存在になっている以上、問題なく出産出来るんじゃ? [一言] 父親であるユキさんが魔王…
[良い点] キャラに魅力があるからハーレムルートにも説得力が… [気になる点] 他のキャラの反応。 どーなるんでしょうね。 [一言] 他のキャラの反応が好意的なのはわかるものの、幼女組が反発したりした…
[良い点] 年長者からの有難いアドバイス そして、まさかの口説きクエスト発生 ”最終兵器”のやり取りがとても面白いです。 [気になる点] レイラのデレが見られるのですか!?見られちゃうのですか!?
感想一覧
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