その時《1》
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羊角の一族の里に残っていた、ユキとネル以外のダンジョン組。
彼女らは、幾つもの研究施設を回り、外向けの簡単な授業を受けたり、里の料理を堪能したりと、旅行を十二分に堪能していた。
羊角の一族は、好奇心が全ての物事の中心に位置している。
故に彼女らは、一つ一つを深くまで掘り下げていき、探求していくため、妥協が存在していないのだ。
学問は勿論のこと、建物の建築方式、料理の味、ホテルの調度、それ以外にも様々な面で好奇心の発露の結果が現れており、それが里の外の者にとって物珍しく、多くの観光客が訪れる理由であった。
「……この里で、レイラみたいな子が生まれたっていうのも、納得っすねぇ。と言っても、レイラは羊角の一族の中ですら、とりわけ好奇心が強いらしいっすけど」
リューの言葉の次に、レフィが続ける。
「カカ、まあ、レイラのような者が何人もおったら、この里は破綻しそうな気がするがのう」
「あら、酷いですねー、レフィ。私自身、好奇心が強いことは認めますが、やるべきことはちゃんとやりますよー?」
「それは知っておるがな。現に儂らの中じゃあ、最もしっかりしておるのはお主じゃろうし。しかし、里の運営とかを仮に任されたら、逃げるじゃろう、お主?」
「えぇ、まあ、恐らくその時はそうするでしょうがー。けれど、それは私じゃなくても皆さんそうじゃないですかー? レフィだって、『龍王』を任されそうになって逃げたって話ですし、リューも家出してますしー」
「む、そうじゃな。そう考えると、やはり儂らには似たところがあるのかもしれんの。各々が好きに生きようと里を抜けた訳じゃ」
「そうっすね……それでウチは、実際好きに生きることが出来るようになったっすから。ネルやレフィ、みんなに出会えて、ご主人に出会えて」
「……はい、私も、皆さんと、そして魔王様と出会えて、そのおかげで自由に生きることを知ったのは確かですねー」
「カカ、うむ。あの男を見ておれば、好きに生きるということが何たるかを、嫌でも知れるからの。きっとネルもそうじゃろう」
「あはは、間違いないっすね。ご主人と一緒にいれば、その楽しさはもうすんごいよくわかるっすからねぇ」
大人達がそう会話を交わし、顔を見合わせて笑う横で、しっかりと里を堪能している幼女達がそれぞれ口を開く。
「羊角のみんなのお里、すごいねー! 面白いものいっぱいで、他には見たことないものいっぱいで! おにいちゃんのダンジョンもすごいけど、こっちもすごい!」
「みたことないものいっぱいで、すごいがいっぱイ!」
「……ん。とても面白い」
三人の言葉の後に、彼女らの周りをフワフワと飛んでいるレイス娘達が、自分達も同じ感想だと示すために、何度もうんうんと頷く。
そんな彼女らへと言葉を返すのは、レイラの妹分である幼女、エミュー。
「あなた達の方も、大分すごいですけどね……こっちからすれば、シィちゃんとか、エンちゃんとか、レイちゃんルイちゃんローちゃんとかの方が、よっぽど不思議です。いったいどういう生態をしているのか……」
「迷宮はすごいですよー。彼女らは、魔王様が迷宮の力を用いて生み出したそうですー。私達が知っている摂理とは、大きくかけ離れた力が存在しているのは間違いないですねー。誰もが知らぬ未知……良い響きですー」
ニコニコとしながらも、瞳を爛々と輝かせ、妹に聞かせるレイラ。
「……レイラお姉さまが、この子達のところに長く定住している理由がよくわかるです。好奇心の鬼なのに、ひとところにずっといるのも不思議でしたから……」
「あら、エミュー。確かに迷宮に好奇心がそそられて、という理由はありますが、私自身あの場所が気に入ってはいるのですよー? 皆さん、とても大切な、家族と言えるような方達ですからー」
ニコッと微笑むレイラに、エミューは少し寂しそうな顔をする。
「……何だか、お姉さまが遠くへ行っちゃったみたいで、寂しいです」
その彼女の言葉に答えたのは、レフィだった。
「レイラの妹よ。お主が寂しがることなど何一つない。お主がレイラの妹である以上、儂らにとってもお主は身内みたいなものじゃ。決してお主は、一人ではないんじゃぞ」
「フフ、えぇ、レフィの言う通りですー。私はずっと、あなたの姉ですからー。これからあなたは、その長い人生を掛けて、あなた自身の居心地が良いところを探すのですよー」
「そうだよ、エミューちゃん! もうわたし達も、お友達だからね!」
「おともだちだよ!」
「……ん。新しい友達」
エンの言葉の次に、レイス娘達がエミューの周りをくるくると飛び、その気持ちを示す。
「……ありがとうです、みんな。わかりました、お姉さまみたいになるため、エミューもいっぱい自分を磨いて、好きなところを見つけるです!」
「わたしもいっぱい磨く!」
「シィも!」
「……エンも!」
「ではでは、みんなで一緒に自分磨きを頑張るです! 頑張りましょう!」
『おー!』
幼女達が元気良く拳を突き上げ、その様子に大人組は相好を崩し――。
「む……?」
トクンと、何かが自身の中で脈打った気がして、レフィは自らの腹部に触れる。
それが何かわからず、首を捻り――だが、少しして思い至ったレフィは、ハッとしたような表情を浮かべ、そしてレイラへとこっそり耳打ちする。
「……レイラ、医者はおるか?」
「……はい、ご案内しますー。レフィ、どこか具合が悪いのでー?」
「いや……そういう訳ではない。ただ、少し、自身の体調を見ておこうと思っての」
内から溢れ出る嬉しさを堪え切れないような、それでいてどことなく優しさを感じさせるレフィの様子に、レイラは不思議そうな顔をしたのだった。