現状を把握しよう3
翌日。
とりあえず寝て頭をすっきりさせた俺は、布団一式をアイテムボックスにしまってから、DPカタログを表示させ、朝食となる食料品を探す。
アイテムボックスは発動させると虚空に亀裂が生まれ、そこに物を突っ込むという仕様だ。
これ取り出す時どうすんの、と思ったら脳内にリストのようなものが浮かび、それを念じながら虚空の亀裂に手を突っ込むと物を取り出せるようだ。便利だなオイ。
ちなみに、何故窓が無い部屋で翌日とか朝食とか時間がわかるのかと言うと、メニュー画面の右上に現在時刻と日付が表示されているからだ。
ゲームか!とツッコみそうになったが、よく考えてみたらゲーム画面参考にされてるんだった。
朝飯の食パン(15DP)とベーコン(30DP)を出現させた俺は、他に椅子もないので玉座に腰を下ろし、もそもそと食べ始める。
DPの確保も、考えなきゃいけんな。初期ポイントらしく1000DPあるが、これは今の俺の生命線だ。
消えていくばかりというのは少々心もとない。
DPの確保の方法にはいくつかあり、
・ダンジョン内に、自身が出現させた配下ではない侵入者がいる状態(強さにより取得DP上昇)。
・ダンジョン内で侵入者を殺す(強さにより取得DP上昇)。
・ダンジョン内で死骸や糧となる何かを吸収する(物により取得DP上昇)
・自然回復(ダンジョンの範囲により取得DP上昇)。
の四つがある。
見てわかるように、DP収入は侵入者頼りのところがある。
侵入者に殺されないよう管理者を生むくせに、侵入者がいなければ飯の確保が出来ないとは、ままならないもんだ。
まあ、それが弱肉強食というものか。ダンジョンも生物だしな。そのくびきを逃れることは出来ないのだろう。
自然回復はあるもののこれは三時間で1DP回復とかかなり微々たるものなので、今後はどうなるかわからないが今はまだあまり当てにはできない。
早いところダンジョンとしての体裁を整える必要があるのだが、そのためにはダンジョンや魔王がどういう存在でどういう認識をされているのか。
後は地理か。それを早いところ知らなければならない。
あれだ、需要を知らなければ供給は生まれないとか、そんな感じだ。前世のうろ覚え知識。
というのも、ダンジョンに強制的に植え付けられた脳内ウィキ〇ディアさんの情報では、あくまでダンジョン側の視点としての侵入者の記述しかなかったので、よくわからなかったのである。
曰く、「我々を殺しに来る悪魔のような者」とのこと。
まあ、うん、そうね。自分を殺しに来る存在は悪魔に見えるだろうね。
「さて、と……」
朝飯を食い終わった俺はぱんぱんと手のパン屑を払い、視線をこの部屋唯一の扉へと向ける。
とりあえず今、俺が喫緊でしなければならないことは、この先を確かめることだろう。
何が広がっているのか確認するのは、興味半分恐ろしさ半分といったところだが……まずはここからやらないと何も始まらない。
少々準備をしてから立ち上がった俺は、部屋の対面へと向かうと、恐る恐るといった様子で美麗な扉を開き―――。
「……洞窟、か?」
扉の外に広がっていたのは、一つのでっかい空洞。
何年物なのか気になるサイズの水晶のような鍾乳石がぶら下がり、そして洞窟天井部の小さな裂け目から差し込む光を反射して、周囲をほんのりと照らしている。
少し窪んだ場所には水が溜まっており、不純物が少ないのかかなり透明で奥まで透き通っている。
なかなか幻想的な光景だ。
どうやらこの扉は、洞窟の中に生成されたものだったようだ。
まだダンジョン領域はあの玉座の間だけなので、この洞窟はダンジョンによって造られたものではなく自然物なのだろう。
周囲に別の生物がいないことを確認してから俺は、少し先に見える洞窟の出口らしい―――いや入口らしい場所から差し込む陽の光を目指し、歩を進める。
カツン、カツンと反響する俺の足音。
空気がひんやりとしていて、肌に心地良い。夏場は冷房いらずだ。
やがて、入口まで辿り着いた俺の視界が一気に開け――。
――澄み渡る、無限の蒼穹。
一面を埋め尽くす、緑の大森林。風が木々を揺らし、耳を澄ませば木の葉の擦れる音までが聞こえて来る。
陽の光に照らされ、キラキラと輝くのは、長く長く続いている大河。
どこまでも広がる地平線と、雲を突き抜け、見る者全てを圧倒する雄大な山脈。
地平線の果てに広がる広大な青は、海だろうか。
彼方の空では島のようなものが浮かんでおり、そこから流れている滝が空から大地へと降り注ぎ、虹が掛かっている。
「うおぉ……」
あまりの景色の美しさに、思わず目頭が熱くなる。
そこに広がっていたのは、俺の貧弱な語彙では決して表現がままならない、神秘的なまでに壮大な、世界の姿だった。
……俺も、人間やめて翼生えてる訳だし、その内ここの空、飛べるようになったりしねーかな。さぞかし気持ちが良いことだろう。
ちなみに、今俺の背中に翼は生えていない。
寝る時になんか邪魔だったのでどうにか小さく出来ないかとか、もっと綺麗に折り畳めないかとか色々やってたら、フッと消えた。
この翼、どうやら俺のまだよくわかってない力、魔力で構成されているらしく、任意で出したり消したり出来るみたいだったので、それ以来消しっぱなしなのだ。便利な身体だこって。
しばしそうして景色に魅入ってから、ふと我に返り、本来の目的、周辺の地理確認に戻る。
どうやらここは、山の中腹のようだ。中腹と言っても、こんな景色が見られるぐらいだから、標高はそこそこ高いのかもしれない。人里らしきものは……近くには無さそうだな。
振り返った俺の視界に映るのは、切り立った崖。
今出て来た洞窟は、この崖に出来たものだったらしい。
あー……こっちは進め無さそうだな。とりあえず上に行きたいんだが。
そんなことを考えながら俺は、どこか登れるような場所がないかと山の中を歩き始めた。