生物《1》
海外ニキからも感想もらえると、やっぱ嬉しいもんだな……みんな、ありがとう、ありがとう。
――魔界王都、『レージギヘッグ』
レイラの里を一時離れ、飛行船でそこへと辿り着いた俺とネルは、魔界王との再会を果たしていた。
「やあ、ユキ君。一か月ぶりくらいかな。勇者ちゃんは久しぶりだね」
魔界の王城にある談話室の一つにて、いつものにこやかな笑顔で声を掛けてくる、魔界王フィナル。
「おう、魔界王。元気そうだな」
「ご無沙汰しております、魔界王様」
「君達が来ることは聞いていたけれど、まさか飛行船と一緒に来るとはね。どうだった、あの船?」
「あぁ、楽しかったよ。空路はやっぱ、速いから最高だな」
「すみません、商品なのに、僕達が乗っちゃって……」
ちょっと申し訳なさそうな顔をするネルに、フィナルは笑って答える。
「ハハハ、いやいや、それくらいで文句を言う程、狭量なつもりはないよ。輸送船として使うつもりだしね」
「そう言ってもらえると助かるよ。今後、こっちでも飛行船を開発するつもりなのか?」
「そうだね、あの戦争で飛行船というものの優位性は知れ渡った。飛ぶ種族が強いことは昔から知られていたが、人間が新たな飛行手段を得たことで、技術競争は新たな次元に入るだろう。いやぁ、肉体に優位がないからこそ頭脳を働かせる人間は、やはり強い。あの戦争で繋がりを強化出来て良かった」
そりゃ、同感だ。
人間は弱い。故に、生き延びるために知恵を働かせる。
前世でも、そうして人間は世界の支配者となったのだ。
魔界王は楽しそうにそう言ってから、ふと思い出したかのように言葉を続ける。
「そうだ、ユキ君。君に会わせたい人がいるんだ」
「会わせたい人?」
魔界王は腹黒い笑みを浮かべ、「来てくれ」と部屋の外に声を掛けると、扉を開けて一人の男が中に入ってくる。
ソイツは、俺もよく見覚えのある者であり――。
「なっ――こ、皇帝か!?」
「えっ……皇帝?」
「久しいな、魔王。よくやってくれているようで何よりだ」
入ってきたのは、ローガルド帝国前皇帝――シェンドラ=ガンドル=ローガルド。
よくわかってなさそうな顔をするネルの隣で、俺は呆気に取られながら口を開く。
「あ、アンタ、死んだんじゃ……」
彼は、今後の禍根を絶つために、処刑されたと聞いている。
思うところがなかったと言えば嘘になるが、実際戦争を起こしたのはこの男なので、それも仕方のないことかと思っていたのだが……。
「フッ、あぁ。今の私はもう死人だ。皇帝シェンドラ=ガンドル=ローガルドではなく、ただの魔界王直下の研究者、『シェン』。私が知る限りの知識を提供する代わりに、自由に研究することを許されてな。全く、強欲な男だ」
「いやいや、シェン君の売り込みもなかなかのものだったよ。ま、君の研究室を見て、その才能を潰すのはあまりにも惜しいから、こちらの条件を呑むなら研究に従事してもらおうとは、元々思っていたけれども」
腹黒同士、何やら馬が合っているらしく、ニヤリと笑い合う二人。
……どうやら、何かしらの条件を交わすことで、前皇帝を助命することに決めたらしい。
ちなみに、飛行船の船長及び乗組員達は、ここにはいない。
彼らは現在、魔界の技術者達へと飛行船を絶賛売込中であり、恐らく操船方法を説明したりしているんじゃないだろうか。
この魔界王都で彼らとは別れることになっているので、後で礼をしに行かないとな。
「……そうか。そっちで納得し合ってるんなら、俺は何も言わないが。アンタも、良かったな」
「あぁ、統治などという面倒な仕事を他人に任せ、好きなことを好きにやって生きられるというのは、素晴らしい。やはり私は、根っからの研究者であったようだ」
以前よりも大分生き生きとした顔で、そう話す前皇帝。
なんか、すげー幸せそうである。
「……アンタ、面倒な仕事を任せた相手に、よく言えたもんだな?」
「あぁ、相応しい者に相応しい仕事を任せた訳だ。適材適所は良いことだろう?」
口端を吊り上げながら、彼はしれっとそう答える。
……全く、『王』として君臨してるヤツは、どいつもこいつも図太いこって。
この男はもう皇帝じゃないが、やはりそれを務めていただけはあるようだ。
俺が苦笑していると、彼は言葉を続ける。
「それより魔王。私は今、ダンジョンに関する研究を行っていてな。お前とも少し、その話がしたいと思っていたのだ」
「! へぇ……そりゃ、俺も興味あるな」
そう答えると、前皇帝は研究者らしい顔で俺に問い掛ける。
「魔王、ダンジョンとは何だと思う?」
「……難しい質問だな。俺達とは違う生態をした、一種の生物だって俺は認識してるが」
「あぁ、それはそうだな。私も魔王としての権限を得た時、ダンジョンからはそういう意識が流れ込んできた。恐らくだが……我々よりも、一つ位階が上の生物なのだろう」
位階が上、ね。
確かに、そうとも言えるのかもしれない。
ダンジョンが持つ力は強大だ。
それこそ、世界と生物を創造することも可能となるくらいには。
俺達が知る『生物』というものとは、また一つ違ったものであることは間違いないだろう。
「ダンジョンは、その管理者である魔王が自然と支配領域を広げるように働きかけるが、生存競争を勝ち抜くために自身を強化するのは、生物としては当たり前のこと。こういった点では、我々がよく知る生物的な生態をしていると言えるだろう」
「あぁ。魔王を強化し、共生することで生き延びる道を選んだ訳だろ?」
前皇帝は頷く。
「そういうことだ。ただ……私はずっと、ダンジョンというものに対して思っていたことが、一つある」
彼はそう前置きをし、そして言ったのだった。
「思うに――この世界は、全てが一つのダンジョンなのではないか?」




