到着
――羊角の一族の里は、山の一斜面に広がっていた。
まず、中央に見えるのは、大学のような趣のある、巨大な建物。
それを中心に左右へと広がるような形で建造物が建てられており、全体的に隠れ里、といった感じの趣がある。
ただ、隠れ里と言っても人口規模は大きいらしく、街という程ではないが、それなりの規模があることが空から見るとよくわかる。
綺麗に区画整理もされており、こちらの世界の中ではかなり高い技術力があるようだ。
女系一族という話だったが、こういう建築とかも自分達で全てやっているのだろうか――と思ったが、魔法があったな。
きっと、俺やレフィの原初魔法とは違った、もっと理論尽くの魔法でパパっとそういう建築なんかもやってしまうのだろう。
そして……やはり、レイラの同族であるらしい。
見ると、里の内部から次々と羊角を生やした女性達が現れ、興味津々にこちらを眺めている様子が窺える。
やって来た飛行船に対し、見慣れぬものへの怯えを抱くのではなく、好奇心を持って当たってくる辺りが、もう彼女らの種族特性をよく表していると言えるだろう。
「お主の種族は……わかりやすいのう」
「それが生きがいの種族ですからねー。皆、人生の中心に好奇心を据えている者ばかりですからー」
「まあ、その中でもレイラは、ずば抜けていると思うっすけどね」
「あら、私くらいは普通なものですよー?」
のほほんとした顔でそう答えるレイラに、俺は苦笑を溢す。
いやぁ……あなたのお師匠さんも、あなたのことは「ちょっと手が付けられない子」って言ってたんすけどねぇ……。
ちなみにだが、飛行船の船員達もまた、俺達と共に里に一泊することになっている。
俺とネルが共に魔界王都へと行くので、その日程に合わせて魔界王都へと向かうことにしてくれたのだ。
それから、里より少しだけ離れた場所に飛行船を降ろしてもらうと、俺達は下船し、全員で里へと向かって歩き出す。
「あれ……もしかしてレイラ?」
「あの魔力の質……魔王、かしら」
「ま、待って、それよりも、あの角と尻尾のある少女から物凄い圧力が……」
里に近付くにつれ強くなる、羊角の一族の女性達の、好奇心丸出しの視線をひしひしと感じていると――こちらへと近付く、見覚えのある一人のばあさん。
「随分派手に現れたね、アンタ達。ウチの里に遊びに来るとは言っていたが……まさか、あの戦争で使っていた飛行船で来るとは」
呆れたような顔でそう言うのは、レイラのお師匠さん、エルドガリア。
「お師匠様、お久しぶりですー」
「あぁ、久しぶりだね。レイラならどこであろうとも生きていけるだろうとは思っていたけれど……まさか、魔王に仕えているとは予想外もいいところだよ。まあ、それもアンタらしいと言えばアンタらしいんだが」
「うふふ、私は神がいたとしてもそれは理論で説明出来るものなのだと信じていましたが、魔王様にお会い出来たこと、そしてここにいる皆さんに出会えたことは、理論を超越した奇跡なのだと、今では心から言うことが出来ますよー」
ニコニコと、本当に嬉しそうに語るレイラ。
……随分と、嬉しいことを言ってくれるじゃねーか。
「ん……仲良くやっているのなら何よりだよ。エミューにも顔を見せてあげな。アンタがいないことを寂しがりながらも、一人で頑張っていたからね」
「……えぇ、そうしますー。私も、エミューの顔が見たいと思ってたところですからー」
お師匠さんはコクリと一つ頷き、言葉を続ける。
「とりあえず、お客人らはアンタが案内してあげなよ。アタシも面識があることだし、何かあったら言いな」
「ありがとうございます、お師匠様ー。皆様旅の疲れがありますので、まずは温泉にご案内しようかとー。――さ、皆様、こちらですよー」
そして俺達は、彼女の案内に従って里の内部へと入った。
* * *
「あぁ……気持ち良いな」
念願の温泉に入った俺は、思わずそんな声を漏らす。
人類最大の発明、それは風呂。過言は認める。
が、旅の疲れを癒すのにこれ以上のものはないだろう。
「フゥ……確かに湯は素晴らしい。温泉とは山地に湧きやすいそうだが……山地に住む種族が羨ましいよ」
俺の言葉に、同じように温泉に浸かっている船長が、心地良さそうにそう溢す。
「この里、住人も女性陣ばっかだしな」
「いやはや、ここは男には毒だよ。上に立つ身としては、女性ばかりの場所にいると、部下どもが何か粗相をしでかさないか心配でならん」
「大丈夫ですよ、船長! お誘いする時は、船長にならって紳士的にいきますから!」
「船長が奥さん捕まえた話を参考にするんで!」
「……一応言っておくが、変に手を出した場合は、こちらの国の官憲に突き出して置いていくからな」
彼らの気安い会話に、俺は声をあげて笑う。
「ハハハ、仲が良さそうで何よりだ。ま、嫁さんはいいもんだぞ。話を聞くに、あの戦争に関連した国は今後交流とか増やすようだし、今なら嫁さん、探し時なんじゃないか?」
「うむ、ウチの国にも見合いをしないか、という話が来ている。お前達、任務が終わって国に帰ったら、存分に見合いをさせてやるから、それまで我慢しておけ」
船長の言葉に、軍人の諸君らが歓声をあげる。
「そうそう、俺は魔族の旦那の話を聞きたいですねぇ。よくまあ、あれだけ綺麗な嫁さんをいっぱい貰えたものですよ。お嬢さん方も賢くて礼儀正しくて可愛いですし。是非、その辺りの秘訣をお聞きしたく」
そう、彼らの中の一人が俺へと問いかける。
「おう、ウチの子ら、最強だろう? 大事なのは、本気で当たることだと思うぜ。女性にも子供にも、本気で当たればそれを理解してくれるもんだ。特に嫁さんを捕まえるなら、そこが重要だろうさ。本気で当たって逃げていくような相手なら、そもそも合わないってことだろうしな」
そうして俺は、男だらけのむさ苦しい場で、談笑しながら過ごす。
いつもは、嫁さん達女性陣とずっと一緒にいるが……たまには、こういうのもいいもんだ。




