閑話:ドッキリはあんまり上手くいかない
短め。
「ユキ」
「おー」
寝転がったまま、気の抜けた返事を返してくるユキに、レフィはポンと小さめの袋――クッキーが入った袋を渡す。
「ほれ、くっきーじゃ」
「え? おう、あんがと」
それを受け取り、よくわかっていなさそうな様子で、まじまじとクッキー入り袋を見詰めるユキ。
「うむ、味わって食うが良い」
――今日は、聖愛の日。
だが、渡すのは、自身が作ったクッキーのみ。
他の皆の分はなく、今朝からも特に何も反応を見せず、いつも通りに振る舞っている。
完全に、今日のことを忘れているような素振りだが――これは、わざとだ。
皆が忘れているように見せかけ、悶々とさせる裏で、彼のための菓子を作るという、ユキ曰く『ドッキリ』と呼ばれる類の作戦なのである……!
きっと今ユキは、「今年はこれだけか……」と、内心でちょっと残念な思いを抱いているに違いない。
……そう考えると、少し悪い気分になって来たため、旅館の方で作業している皆に参加し、早いところ準備を終わらせてしまおう。
そう思って、旅館の方に向かおうとした時、ユキが声を掛けて来る。
「――レフィ」
「ん?」
「お前……料理、上手くなったなぁ……このクッキー、すげー美味いぞ!」
心底から嬉しそうな、抑え切れない様子の笑みを浮かべ、そう言うユキ。
「えっ、う、うむ……ま、まあ、儂も日々進歩しとるでな。以前のように、卵の殻が上手く割れないということもないしの」
まさか、ここでそこまで喜んでくれるとは思っていなかったため、若干戸惑い気味に彼女は言葉を返す。
「そうか……そうだよな。なんか、感慨深いな……というか、普通に嬉しいわ。ありがとな、レフィ!」
「…………」
「お? な、何だ、どうした?」
「いや……何となくじゃ、何となく」
彼の様子に堪らなくなり、思わずその頭に手が伸びて撫でるレフィ。
「ユキ、待っておれ。もっとちゃんとしたものを用意してやるでな」
「え? これ以上にまだ用意してくれんのか? 俺、このクッキーマジで嬉しかったんだけど……」
「儂だけでなく、皆で美味い菓子を用意しておる。楽しみに待っておれ」
ドッキリをするはずだったのだが、黙っていられなくなってしまい、自然と彼女はネタ晴らしをしてしまっていた。
全ては、ユキが悪いのだ。ユキが。
「そっか……今日は、そういう日だったな。いつも思うけど、俺、お前らがいてくれて、すげー幸せだよ」
「…………」
「わっ、お、おう、どうしたんだよ、レフィ?」
「何となくじゃ、何となく」
レフィは、再びユキの頭を撫でていた。




