リューの親族達《1》
現在原稿中。
今月末には終わるので、また投稿遅れ気味なのは許して……。
――朝食時、俺は、すぐに違和感に気が付いた。
「レフィ、醤油取ってほしいっす!」
「ほれ」
自身の前にあった醤油の瓶を、リューへと渡すレフィ。
「それにしても、うーむ……パンに軽く食材を乗せただけの料理であるのに、何故こうも美味いのか」
「フフ、そう難しいものではないので、レフィにも作れると思いますよー」
ピザパンのようなパンを食べながら唸るレフィに、クスリと笑ってレイラがそう答える。
――リューとレイラが、レフィのことを『様』付けではなく、呼び捨てで呼んでいるのだ。
昨日、また嫁会議なるものをやっていたようだが……そこで、何かあったのだろうか?
そんな俺の表情に気が付いたのだろう、レフィが声を掛けてくる。
「どうした、ユキ?」
「いや……仲が良さそうだと思ってさ」
「フフフ、家族っすからね! 仲が良いのは当たり前っす!」
「そうだね。レイラはともかく、リューはまだちょっと、照れが残ってるけど」
からかうような口調で、ネルがそう言う。
「これからっす、これから! ネルだって、ご主人のことを本当は『あなた』って呼べるようになりたいけど、恥ずかしくてまだ無理って言ってたじゃないっすか」
「わわわっ、そ、それは内緒の話だって言ったじゃないか!」
「ネル、行儀が悪いぞ」
「そうだよ、ネルおねえちゃん、ごはん中に立っちゃダメなんだよ?」
「メ、だよ!」
思わずといった様子でガタリと椅子を立ち上がったネルを、レフィに続きイルーナとシィが窘める。
「ぐ、ぐぬぬ……リュー、覚えておいてね……」
「さて、何のことかわかんないっすねぇ」
頬を赤くし、恨めしそうなネルに、これ見よがしに顔を背けるリュー。
そんな彼女らのやり取りに俺達は笑い――と、俺はふと思い出してネルに問い掛ける。
「そうだ、ネル。今回はどれくらいこっちにいられるんだ?」
彼女は気を取り直すようにコホンと一つ咳払いし、俺の言葉に答える。
「リューのことが終わるまではこっちにいるよ。ただ、その後は多分しばらくこっちに来られないかも。今回も、本当は結構仕事があるのをほっぽって来ちゃってるからさ」
「ネル……ありがとうっす。謝るんで、さっきのことは水に流してほしいっす」
「それは流さないけど」
「やーん」
再び心から笑い、俺達の朝はスタートした。
* * *
――それから、ギロル氏族だと思われる集団が現れたのは、二日後のこと。
マップを確認すると、やはりウォーウルフ族の者達。
俺は、皆にリューの親族が来たことを伝えると、迎えに行くためすぐに家を出る。
「これは――急いだ方が良さそうだな」
どうやら彼らは、ここから一番近く、俺も何度も行ったことのある人間の街、アルフィーロ付近にやって来たようだ。
あの街は、他種族と長らく敵対していた関係で、少々排他的な面があったはずだ。
マップを見る限り、戦闘をしている様子はないし、兵士に囲まれたりしている訳でもないので、緊急事態ではなさそうだが……どうであるにしろ、急ぐべきだろう。
俺は、ペット達に魔境の森と街との境界に集合するよう『遠話』機能で指示を出し、自身もまた魔境の森内部に設置した扉を使用して、あの街の近隣に降り立つ。
今すぐ彼らに危険が及ぶことはなさそうだし、人間の街の近くということを考慮して翼で飛ぶことはせず、そこから結構本気で走り――前方に、街の姿が見えて来る。
「――って、あれ?」
ウォーウルフ達は、すぐに発見した。
街の正面門で、何かやり取りをしているのだが……てっきりフードでも被っているのかと思ったら、思いっ切りその耳と尻尾を出しており、行き来する人間達からバリバリ好奇な視線を送られている。
そして、彼らと共にいるのは……アルフィーロの領主、レイロー、か?
「――ユキ殿!」
俺が近付いて行くと、向こうもこちらの存在に気付いたらしく、レイローが声を張り上げる。
「領主のおっさん、久しぶり。リューの親父さんも、一年ぶりだ。元気そうで何よりだ」
「あぁ、久しいな、魔王。約束の一年より、こちらに来るのが遅れてしまった。申し訳ない」
コクリと頷き、そう答えるリューの親父さん。
「いや、こちらこそ申し訳ない。そちらさんも戦争に参加してたようだけど、挨拶出来なくて……」
「うむ、一言欲しかったのは確かだ。だが、その……何だ。色々忙しくしていたことは聞いている。今回に関しては、何も言わんでおこう」
「そう言ってもらえると助かる」
こうして話していると感じるのだが……リューの親父さんの口調が、以前と比べ、何だか少し固い感じだ。
歯切れが悪いと言うか、何と言うか。
他人行儀という訳ではないのだが、ちょっと距離感を感じる対応である。
緊張している、という訳ではなさそうなのだが……。
と、そんなことを考えていると、彼の隣に立っていた女性が口を開く。
「ウフフ、この人、ユキさんのおかげで出世出来たのに、プライドが邪魔して素直に礼が言えないんですよ。本当は感謝しているのに」
「い、いや、そういう訳ではなくてな……その、義理の息子となる以上、関係性を大事にすべきと言うか……」
少し情けない顔をして、ゴニョゴニョと口籠り気味になるリューの親父さん。
この絶妙に頭が上がらない感じ、恐らくは……。
「えっと……リューの親御さんで?」
「はい、私がリューの母親の、ロシエラ=ギロルです。娘がお世話になっているようですね」
ニコッと笑う、ウォーウルフの女性。
確かに、こうして見るとリューとよく似た顔立ちをしている。
ウォーウルフ族の者達は皆見た目が若々しいが、彼女もまたその例に漏れず、子持ちには見えない綺麗な女性だ。
「ユキと言います。娘さんには、毎日を賑やかにしてもらって、とてもお世話になってます」
そう言って、リューのお袋さんに頭を下げる。
「あら、ご丁寧にありがとうございます。あの子のことをそう言ってくれると、私としてもやっぱり嬉しいものがありますね」
「……魔王、俺の時と相当対応に差がないか?」
「……そんなことはないぞ」
物言いたげな親父さんの視線から、俺はス、と視線を逸らす。
そりゃあ……ね。
母親には、何も言えないですよ。
男ってのは、そういうもんでしょ。
俺は誤魔化すように一つゴホンと咳払いし、言葉を続ける。
「えっと、出世をしたと? おかげと言われても、特に何かをした覚えは……」
「獣王様に口添えをしてくれたのだろう? だから、その、何だ……」
「あなた、感謝する時はもっとちゃんと口にしないと、伝わらないわよ」
「……おかげで、我が一族は獣人族の中で要職に就くことが可能になった。感謝している」
「あー、なるほど……ま、まあ、力になれたのなら、こちらとしても何よりだ」
何ともやり難そうなリューの親父さんの様子に、苦笑を溢しながら、俺はそう答える。
そう言えばあの獣王、ギロル氏族を扱き使ってやるとか何とか言っていたな。
その関係か。
と、そこで俺は、俺達の様子を見て愉快そうに笑っていた領主のおっさんへと顔を向ける。
「それで……どうして領主のおっさんが親父さん達と一緒に? というか、こんな堂々と種族を晒していいのか? この街、他種族とはあんまり仲良くなかったと思うが……」
「うむ、恥ずべきことだが、その通りだ。ただ、貴殿も参加したらしい戦争の関係で、この街の在り方も大きく変革を迎えているのだ」
そう言って、領主のおっさんは話し始めた。
――どうやら、ウォーウルフ族の彼らは、種族間交流のための使者として選ばれたらしい。
今後本格的に他種族同士で交流を始めるため、人間国家であるこの国も他種族の受け入れを始めるつもりなのだそうだが、その交流の場の一つとしてこの街は選ばれたのだそうだ。
そして、どうもそこには、俺のことも関係しているらしい。
というのも、俺と、そしてネルが玄関としてここアルフィーロをよく利用しているということが、国王レイドや魔界王達の間で話題に上ったのだそうだ。
この街を他種族も出歩ける場所にすれば、俺も大手を振ってここを歩けるだろうと、まあぶっちゃけて言うと、ご機嫌取りの一つなのだろう。
微妙に苦笑いをしてしまいそうだが……まあ、何も言わないでおこう。
気を遣ってくれているのは、ありがたいし。
また、ウォーウルフの彼らがその使者として選ばれたのは、リューを通して俺と繋がりが生まれるからだ。
先程言っていたように、どうも今後彼らは重用されるようで、どうせ魔境の森まで行くのだから一緒に仕事もして来いと、こうして領主のおっさんと会っていたらしい。
来るのが遅れていたのは、その仕事に関することが理由と。
あの戦争の影響が、早くもこの街に訪れている訳である。
「全く、貴殿は会う度にすごいことになっているな。これから確実に時代の変遷を迎えるのに加えて、戦争の功労者が魔王とあり、何がどうなっているのか、混乱している者達が山のようにいるぞ。毎日私のところにも、相談ごとが矢のように入って来ている」
……まだ終戦に至ってから、一週間ちょっとなのだが、すでにそんなことになっていたのか。
「それでだな、魔王。実は我々も、これから仕事に関する話をするところだったのだ。わざわざ迎えに来てもらったにもかかわらず、本当に申し訳ないのだが……」
「あぁ、ちょっとタイミングが悪かったか。わかった、そういうことなら出直そう」
そうか、こんな街の出入口にいたのは、まだここに着いたばかりだったからか。
「えっと、二日くらい見た方がいいか?」
「うむ、そうしてもらえると非常に助かる。二日後、同じ時間帯にこの場所に来よう」
そうして俺は、彼らと一旦離れ、ダンジョンへと引き返した。
……あれだな、二日後までに、リューの親父さんの俺への対応を、もっと普通に戻してほしいものだ。
彼の中に色々と葛藤が見え、こっちとしても大分やり辛いものがある。
以前のようにもっとぶっきらぼうな感じで話してくれていいのだが……恐らく彼の親としての思いと、族長としての思いと、それらが交じり合って胸中に複雑な感情が渦巻いているのだろう。
「親か……」
一人、ポツリと俺は呟いた。




