近況報告
買ってくれた方ありがとね……いつも読んでくれる方も、感想書いてくれる方も、ありがとうありがとう。
「――えー、という訳でわたくしユキは、この度皇帝となりました。ローガルド帝国という人間の国の皇帝です。今後は、多種族国家に変わっていくだろうけど」
と、話を聞いていたイルーナが、可愛らしく首を傾げる。
「こうてーって、王様のことだよね? でも、おにいちゃんは魔王で、もう王様だし……二つ王様になっちゃったの?」
「あー……イルーナ、魔王って言うのは別に、王様じゃあないんだ。名前は王様っぽいけどな」
「? そうなの? おにいちゃん魔法すごいし、リル達もペットにしてるし、そういうものの王様なんだと思ってた」
……一理ある、というか、確かにそれで『魔王』なのかもしれない。
魔物を生み出して領域を守らせるダンジョンの性質を考えると、恐らく後者の方が近いだろう。
魔を従え、支配する王だ。
うーむ……前々から思っていたが、イルーナは物の本質を見抜くのが上手いよな。
「皇帝って……何をどうしたらそんなことになるんだかねぇ。無事に帰って来てくれたから、良かったけど」
通信玉・改で戦争から帰ったと連絡し、すぐにダンジョンに帰って来たネルが、呆れたように笑いながらそう言う。
「心配してくれてありがとな。そういう訳で、戦争の方はこっちの陣営にとって良い形で無事に終わらせることが出来たが……今のところ俺らにはあんまり関係ない感じではあるな。ネルはちょっと影響あるか」
ウチの子達が大手を振るって出掛けられるようにしようとは思っているが、それはまだまだ先の話だ。
二年か、三年は後だと思っている。
「そうだね……まあ、言って僕も、仕事は治安維持と魔物の討伐がほとんどだから、今までとあんまり変わりないかも。陛下の方が大変だろうね」
それは間違いないだろうな。
人間国家の中で、ネルの所属する国であるアーリシア王国は上から数えた方が近い程の力を持っている。
ローガルド帝国も同じような規模だったが、そことの戦争に勝利した以上、あの国王はこれから非常に忙しくことなるだろう。
王様をやめるつもりだとか以前に聞いたが、またこれで遠退いたんじゃないだろうか。
うむ……ネルを通して、また上級ポーションの差し入れでもするとしようか。
「それで、俺の方も聞きたいんだが……そろそろリューの一族が来るっていう約束の一年だと思うんだ。俺がいない間に、何かあったりしなかったか?」
「ふむ、恐らく来ておらんぞ。儂らでもその話をして、一応気を配ってはおったが、魔境の森付近にそれらしい集団は感じられんかったからの」
そうか……俺が戦争でいっぱいいっぱいになっていても、みんなでちゃんとその辺りのフォローはしてくれていたのか。
ありがてぇ。
レフィに続いて、照れたように少し顔を赤くしているリューが口を開く。
「え、えっと……ウチのお父さんはその辺り律儀な人なので、一年って言ったら一年で来ると思うんすけど、まだ来てないとなると、多分その戦争関係で遅れてるんじゃないかなって思うんす。ただ、もう近くには来ているかと」
「そっか、ならその間に準備しよう。リュー、必要なものを教えてくれ。何でも用意するぞ」
「わかったっす、お願いするっす。えへへ……これでようやく、ウチも正式にお嫁さんっすね」
「ようやくと言うても、元々すでに嫁の一人として皆認めておったがの」
「それでも、やっぱり嬉しいんす。家出した身でありながら、こうして良い友達が出来て、良い旦那さんが出来て、それを家族にも認めてもらえて……」
レフィの言葉に、抑えきれない様子の笑みをニコニコと浮かべながら、そう言うリュー。
……可愛いヤツだ。
「よかったね、リューおねえちゃん!」
「おめでとウだね!」
「……ん、目出度い。喜びの舞を踊るべき」
「え、よ、喜びの舞っすか?」
「いいね、リューおねえちゃんも一緒に踊ろう!」
「ひらひら~! マわる~!」
そうしてレイス娘達も含めた幼女達全員が、ぶっちゃけ何だかよくわからないが非常に可愛らしい踊りを踊り始め、彼女らに促されてリューもまたワタワタしながら踊り始める。
俺達は、その微笑ましい様子を見て、笑った。
* * *
それから、俺の方で起こったことや俺がいない間のことを皆で話した後。
「そういやレイラ、レイラのお師匠さんに会ったぞ。エルドガリアさんだったか。なんかすごい有名人らしいな」
「えぇ、ネルから師匠が戦争に参加していたとは聞きましたー。普段は里に籠って研究に従事しているのですが、魔法の腕も一流なので、こういう戦争の時に時折呼ばれるそうなのですよー」
「あぁ、魔界王達も信頼してたよ。いいばあちゃんだったな。――んで、リューのことが終わったら、次はレイラんとこの里に行こうと思うんだが、いいか?」
「あー……わ、私の里ですかー」
ふわふわとした口調であっても、いつも明瞭に喋るレイラが、ちょっと困った様子で口籠る。
「? どうした?」
「ええっと……里に行くと、魔王様にご迷惑をお掛けすることになると思うのですよー」
「迷惑?」
「はい、私達の種族が女系で、男性が滅多に生まれないということは、ご存じかと思いますー」
「ん、あぁ」
そういう話は、以前に聞いた。
レイラの種族には、男が非常に少ないのだそうだ。
ゼロではないそうだが、十対一くらいの割合でしか男が生まれず、羊角の一族での権力者も全員女性なのだという。
「つまり、私達の種族は子を成す場合、必然的に別の種族の男性を夫にする必要がある訳ですー。羊角の一族は里の外に出ることが多いのですが、そこには好奇心以外にも自身の夫を探す、という理由があるのですよー」
なるほど……夫探しか。
「レイラの場合は?」
「十割が好奇心ですねー」
うむ、それでこそレイラさんだ。
「ですので、私が皆さんを連れ――魔王様を連れて里に戻った場合、夫候補と言いますかー……婚約者として見られてしまう訳ですねー」
「お、おう、なるほど、そうなるのか」
里に男を連れて帰った場合は、つまりはそういう関係の相手であると。
「そうなると、魔王様にご迷惑ではないかと思いましてー……まあ、一時の滞在ですので、適当に誤魔化しておけばいいとは思いますがー……」
「俺は別に、それくらいは構わないが……わかった、とりあえず後で、レフィ達と一度相談しようか」
「はい、それがよろしいかとー。ですが今は、リューのお祝いに関しての準備を進めませんとー。あの子、本当にこの時を楽しみにしていたんですよー?」
からかいの混じった笑みを浮かべ、そう言うレイラ。
「そうか……これで、レフィとネルに若干引け目を感じてるっぽいのが無くなってくれるといいんだけどな」
「リューの気持ちもわかりますけどねー。レフィ様もネルも、本当に素敵な女性なのでー……やはり魔王様が、たくさん愛を囁いてあげるのが一番かとー」
「……努力するわ」
その俺の言葉に、彼女はクスリと笑った。