閑話:クリスマススペシャル2019
去年のクリスマスに書いていた分です。
――草原エリアにある旅館にて。
「今年も、この季節がやって来た……レフィ、リュー。いったい何の季節かわかるか?」
「贅沢して美味いものを多く食っても許される季節じゃな。今日の飯も、豪勢で美味かったの」
「いっぱい飾り付けをして、何だかウキウキしちゃう季節っすね。やっぱり、いつもとちょっと違う空間でご飯を食べるだけで、楽しくなっちゃうっすよねぇ~」
そんな腑抜けたことを言う彼女らを、俺は否定する。
「断じてちがーう!! いいか、この季節はクリスマス!! つまり、コードネーム『SANTA』の季節!! 戦の時間!! 幼女達に如何にして気付かれずプレゼントを配るか、我らプロの腕を見せる時が来たのだ……」
そう、クリスマスはすぐ明日。
一週間くらい前にツリーの準備を幼女達と終え、草原エリアの天候も操作して雪を降らし、イブである今日に美味しい料理も食べた。
だが――大人にとって、クリスマスの本番はここから。
如何に子供達にワクワクを与えられるか、それこそがクリスマスの本質であると言えるだろう。
ちなみに、すでに俺達はクリスマスに相応しい衣装に着替えている。
去年は確か、俺とレフィがサンタコスで、リューがトナカイコスだったが、今年は俺とレフィがトナカイコスをしており、リューがサンタコスをしている。
「そして、万全を期すために、今年は新たな隊員も呼んである。――さあ、来なさい、ネル隊員」
「う、うん」
そう俺が呼ぶと、待機していたネルが襖の向こうから現れる。
「おぉ! 可愛い!」
「うむ、よく似合っておるの。やはり、こういう衣装はお主が一番良く合う」
「え、えへへ……ありがと」
二人の褒め言葉に、サンタコスのネルがはにかみながら礼を言う。
俺も、あんまり可愛いもんなので、ここに来る前に散々褒めちぎって、悶える彼女を堪能した。最高の時間でしたね。
……ネルがコスプレすると素直に可愛いという言葉が頭に思い浮かぶのだが、レフィとリューがコスプレすると、こう、どれだけ可愛くとも『ネタ』という言葉が最初に思い浮かんでしまうのは、何故なんだろうな。
こんなことをバカ正直に言った場合、「扱いが違う!」とキレた二人に魔境の森に沈められる可能性が大なので、絶対口にはしないが。
あと、ここにはいないレイラは、去年もやった大人のクリスマス会のための準備を現在行ってくれている。
去年はネルも後方要員だったが、あの時の経験から今回もまた死闘が予測されたため、彼女にもこちらに来てもらったのだ。
レイラというバックアップが存在するおかげで、我らは後顧の憂いなく作戦に従事出来る訳である……。
「人員が揃ったところで、作戦を説明しよう! 目標は、幼女達に正体をバレないようにしながら、秘密裏に彼女らの枕元にプレゼントを置くこと!」
「もうすでに気付かれておる気もするが」
「黙らっしゃい。こういうことは、大人が諦めてはならんのだ! 我らは不断の努力を以て、子供に夢を与えねばならん!」
「お、良いこと言うっすね、ご主人」
「うん、おにーさんのそういうところ、僕も好きかな」
「ありがとう、君達。――諸君もわかっていると思うが、我が家の幼女達は、子供らしからぬ察知力と洞察力を持っている。我々が細心の注意を払っていても、本当に微かな物音で彼女らは気が付いてしまうだろう」
「あの子達、何であんなに優秀なんだろうねぇ……僕があの子達くらいの歳の時は、あんなに賢くなかったし、魔法も使えなかったよ。僕よりよっぽど勇者としての適性があるんじゃないかな」
ウチの子ら、普通に魔法使えるもんな。
「あはは、それはウチもっす。まあ、ご主人とレフィ様、そしてレイラの英才教育を受けてたら、自然とそうなっちゃうんじゃないっすか?」
「出来が良いことだけが全てではなかろう。お主らの愛情もしかと感じておるじゃろうし、ただ健やかに、大きく育ってくれれば良い」
「あぁ……身体も心も健康に育ってくれれば、それで十分だ」
「……そうだね。僕達も、子供を持ったら……そういう子に育てたいね」
「……わ、わかったっす。そ、その時は、丈夫な子を産むっす!」
「……うむ、そうじゃの。健康な子を産んで、皆で協力して良い子に育てんとな」
「お、おう……た、頼むな」
『…………』
そして訪れる、無言。
何とも言えない、気恥ずかしい気分で顔を見合わせる俺達。
このままでいると、俺が最もダメージを受けそうだったので、その空気を吹き飛ばすべく殊更に大きく咳払いをする。
「ゴホン、え、えー、とりあえず作戦会議の続きだ! 担当は、イルーナとシィはリュー、エンはレフィ、レイス娘達は俺とネルだ。――では、行くぞ。作戦開始だ!!」
* * *
「うわー、やったぁ! プレゼントだ!」
「……むむむ、いつの間に」
「みてみて、あるじ! おきたら、まくらのとこに、あったノ! これ、あるじがくれたの?」
自らの枕元にあったプレゼントを見て、口々にはしゃぐ幼女達。
喋れないレイス娘達もまた、三人で喜びの舞を踊っている。
「いやいや、俺じゃないぞ。きっとお前らが良い子にしてたから、それを見てたサンタがプレゼントをくれたのさ」
喜ぶ幼女達を見て、俺はやり遂げた達成感を胸の内に感じながら、そう答える。
去年の死闘の反省を生かし、万全の準備をして当たったためか、今年はどうにか穏便に作戦の遂行を完了。
うむ……眠らないレイス娘達の意識を、如何に散らすか、ということに成功したのが大きかったな。
このノウハウは、今後も使用出来そうだ。
と、隣にいるリューが、ポツリと言葉を溢す。
「……この喜びようを見ると、ご主人がこういうイベントごとにこだわるのも、わかる感じがするっす。あの子達が喜んでくれると、やっぱりすごい嬉しいっすね」
「だろう? 子供が笑ってるのを見るのは、良いもんだ」
ちなみに俺達以外の大人組は、まだ眠っている。
昨日は夜遅くまで騒いでいたので、基本的にいつも朝が早いリューとダンジョンから力が流れ込んでくるおかげで眠りが少なくて済む俺のみしか起きていない。
あの様子だと、もしかすると昼過ぎくらいまで寝てるのではないだろうか。
「……ね、ご主人」
「ん?」
「その……う、ウチらにも子供が生まれたら……あんな元気な子達に、育てたいっすね」
「……あぁ。そうだな」
照れた顔をしながらそんなことを言う彼女を、俺は抱き寄せ、その髪をくしゃりと撫でる。
――全く……ウチの嫁さん達の可愛さは、相変わらず世界一だな。
いつも思うことだが、俺には勿体ないくらいの、最高の嫁さん達だ。
大事に、しないとな。
しばしの間、そうしてくっ付いた後、俺は彼女へと言葉を掛ける。
「さ、朝飯の準備するぞ。大人組が軒並みダウンしてるから、俺達でやらんとな」
「フフフ、パンを焼くのは任せるっす!」
「お前それ、オーブンでチンするだけだろ」
そして俺達は、二人並んでキッチンへと向かった。




