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魔王になったので、ダンジョン造って人外娘とほのぼのする  作者: 流優
誰がために剣を振るう

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開戦



 ――そして、その時は訪れる。


 ローガルド帝国帝都『ガリア』にて、『種族なき同盟軍』、『人魔連合軍』。

 帝都を囲う巨大な防壁を挟み、その二者が向かい合って陣を並べる。


 種族無き同盟軍は、その名の示す通りバラバラな種族の者達が、命を預け合う戦友として共に戦列に並び。

 対する人魔連合軍は、人間と魔族のみならず、無数の魔物すらもその陣容に加えた一種異様と言っても良いような軍勢で、決戦の時を今か今かと待ち構えていた。


「報告は聞いていたけれど、これは凄いね……」


 眼前に広がる光景を見て、魔界王は感心すら窺わせる声音でそう呟く。


「ある程度の小集団ごとで、纏まりが取れているのか……羊飼い、と言うには従えているものが物騒だけれど」


 彼が見ているのは、魔物達と、その中にいる者の姿である。

 十匹かそこからの魔物の集団の中に、必ず一人人間の兵士がおり、恐らくその者が指示を出しているのだろう。


 その魔物の部隊は、帝都を囲う防壁の内側には入っておらず、その前を埋め尽くすように布陣している。


 厄介なのは、空を飛ぶ翼や翅を持った魔物達か。

 同盟軍側も、翼持ちで揃えた魔族の部隊を揃えてはいるが、空戦戦力に関して言えば、分があるのはあちら側だろう。


 ――鍵は、空を抑えられるかどうか、だね。

 

 思考を続けながら魔界王は、隣に立つ女性へと声を掛ける。


「エルドガリアさん、どうかな?」


「あの魔王が言っていた通りさね。どこもかしこも罠だらけさ。ここから二十メートルも行けば罠地帯が広がっているよ」


 ス、と鋭い眼差しで周囲を観察しながら、そう答える羊角の老女、エルドガリア。


 彼女の眼には、そこかしこの地面に仕掛けられた魔力の痕跡が見えており、その数の多さに半ば呆れたような表情を浮かべていた。


 どのようなものなのかは流石にわからないが、まず間違いなく設置型の、近付いたら作用する罠だろう。

 巧妙に隠されてはいるものの、エルドガリアの目にはそれらの全てがしっかりと映っていた。


「足の踏み場もないくらいかい?」


「足の踏み場もないくらいだ。何も知らずに突っ込んでいたら、こっちの一割は削れていたかもね。――っと、幻影体が今、消されたよ」


「了解。全く……予想はしてたけれど、こういうのは形式を大事にするものだろうに」

 

 形式に則り、相手側に送った交渉用の幻影体。

 その術者であったエルドガリアは、幻影体との魔力のリンクが切れたことで、それが消されたことを悟る。


「ま、向こうはすでに宣戦布告を行っておる訳じゃし、最後通牒を受け入れぬのもわからぬ話ではないであろう。不遜であることに違いはないがの」


 魔界王の言葉に答えるのは、エルフ族の女王ナフォラーゼ。


「彼らはもう、本当になりふり構わない感じなんだね……と、ナフォラーゼちゃん、皆の準備は良さそうかい?」


「うむ。滞りなく完了しておる。そろそろ、ドワーフどもと獣人族どもも痺れを切らす頃であろう」


「わかった。――拡声魔法の用意を」


 魔界王の指示に、部下の一人が声を増幅させる魔法を発動する。


 それを確認してから、彼はスゥ、と息を吸い込むと、珍しく力の籠った様子で、声を張り上げた。


「諸君! そろそろ戦争の時間だ。僕から君達に言えることは一つ。全て手筈通りに。そうすれば、勝たせてあげよう」


『ウオオオオ――ッ!!』


 武器を天に掲げ、足で大地を踏み鳴らし、空間が震える程の鬨の声をあげる兵士達の姿に、魔界王は一つ頷くと、言葉を続ける。


「始めよう。――香を(・・)


「ハッ!! 香焚き開始!!」


 そして、彼らの陣営のあちこちから煙が昇り始める。



   *   *   *



 その変化に最初に気付いたのは、人魔連合軍の中で魔物を率いる、『魔物番』と呼ばれる部隊の者達だった。


「ギチチチチ……」


「グルルルル……」


「……? おい、どうした?」


 魔物達が突如として興奮を始め、今にも暴れんと強く唸り出したのだ。


 初めは敵が見えたことで興奮しているのかと思われたが、それにしては様子がおかしい。

 興奮の度合いがあまりにも強く、まるでいきなり野生に戻ったかのような、制御し辛い状態となっていた。


 その異常は何も一部隊に限った話ではなく、どの魔物番の部隊でも見られ、俄かに連合軍の動きが慌ただしくなる。


 そうして彼らが必死に魔物達を抑えていると、ふとその時、鼻孔が感じ取る甘い香り(・・・・)


 それが、敵の同盟軍の中から不自然に立ち昇る煙によるものだとわかった時、ようやく彼らはこれが敵による攻撃であるということを理解する。


「ッ、マズい、奴ら煙に何か混ぜやがった……!!」


 ――同盟軍の者達が焚き、風魔法で帝都へと流し込んだ煙。


 その正体は、数多の植物を寸分違わぬ分量で調合することにより出来上がる、魔物の理性を失わせ、凶暴化させる『魔寄せ』と呼ばれる香である。


 従魔を持つ習慣のある、エルフの有する秘術の一つであった。


 香が効果を示したことを確認した魔界王は、次の指示を出す。


「法撃隊、釣り出し開始」


「釣り出しィ始め!!」


「釣り出しィ始め!!」


 指示が復唱され、即座に呼応した魔術師部隊が、攻撃と言うには些か薄い(・・)、様々な魔法を帝都へと向かって放つ。


 それが敵を撃滅することを目的としての攻撃ではないことは、連合軍の者達にもよくわかっていた。


「魔物どもを抑えろッ!!」


「やってるッ!!」


 興奮し、野生生物としての本性を刺激された状態の魔物達が、敵から攻撃を受ければどうなるか。


 ――それは、制御を振り切っての暴走の開始である。


「ま、待てッ!!」


「止まれッ!!」


 必死の制止ももはや意味をなさず、大地が揺れる程の勢いで、統率も何もなく同盟軍へと突撃を開始する魔物達。


 その彼我の間にあるのは、連合軍側が(・・・・・)仕掛けた大量の罠(・・・・・・・・)


 瞬間、そこかしこで轟音が唸り、爆炎が立ち昇り、殺人的なまでの光が乱舞する。


 自ら罠に突っ込んだ魔物達は、モロにそれを食らって消し炭になり、吹き飛び、バラバラになり――だが、魔物達の数は圧倒的であった。


 爆発や地面から立ち昇る雷撃などを食らいながらも大地を走り抜け、あるいは翅や翼を持ち、空を飛べるために罠に引っ掛からなかった魔物達が、無秩序に同盟軍の陣へと殺到していく。


「香焚きやめ。迎撃準備。さあ、ここからが本番だ。気合を入れて行こうか」


『応ッ!!』


 同盟軍の者達は、溢れる戦意のままに、迎撃を開始した。


 ――戦端は、魔界王の策に引き込まれる形で、開かれた。



   *   *   *



「失礼しますよぉ」


「なッ……!?」


「どこから……ッ!?」


 首筋からブシュゥ、と血を吹き出し、重装備の兵が次々と崩れ落ちる。


 一人、帝都に残って潜入を続けていたルノーギルは、出来上がる血溜まりの中を音も無く進んで行く。


 ――空間魔法と音魔法を駆使しての暗殺を得意とする彼には、その隠密技術の高さを見込まれ、主である魔界王から直々に下された命が一つ存在した。


 それは、魔王ユキの誘導が出来るように、敵の本陣及び皇帝の位置情報を得ること。


 外の勢力と言っても良い魔王ユキに危険を伴う奇襲を頼む以上、その位置の割り出しはこちらでせねばならないという指示から、彼は潜入を続けていた。


 ただ――ルノーギルは、本陣はすでに(・・・・・・)見つけていた(・・・・・・)


 守りが固く、近付くことは出来なかったが、伝令らしき兵が慌ただしく走り回っている様子と、大将らしき者が指示を出している様子は確認している。

 その後ろで、皇帝のような派手な恰好に身を包み、豪奢な椅子にどっかりと座っている者の姿も。


 しかし、仕事柄どっぷりと裏の世界に浸かっている彼は、それが偽装であるということを見抜いていた。


 彼が最初に怪訝に思ったのは、一切指揮をしようともしない皇帝の姿と、些か前線に近過ぎるその本陣の位置である。


 将は本物だろうが、皇帝は恐らく偽物だ。 


 ローガルド帝国皇帝は、ルノーギルの主の魔界王フィナルと同じく、謀略を得意とする軍師として才覚を発揮する王であることが、ここまでの敵の動きからわかる。


 にもかかわらず、果たしてあんな無防備に自分達の姿を晒し、兵の指揮を部下の大将に丸投げなどするだろうか。

 軍事に明るくないのであれば任せるのもわかるが、今までは戦争でもバリバリ陣頭指揮を執っていたらしいということは、事前の情報収集でわかっている。


 である以上、アレは偽物だ。

 潰したところで、この軍は止まらない。

 

 そう考えたが故に彼は、追手を躱し、見張りを殺害し、潜入を続け――そしてふと、ある壁の前で立ち止まった。


「ふむ……地下への隠し階段ですか。悪いことを考えるには、最適な場所ですねぇ」


 感じ取った違和感と、直感のままに壁を精査した彼は、そこに地下へと続く階段を発見する。


 無造作な足取りで、しかしひと時も警戒を緩めることなく階段を降り切ると、そこに立っていた見張りの兵二名を一息に殺害し、彼らが守っていたらしい扉の前に立つ。


 当然、鍵は厳重に掛けられていたが、彼は腰の剣でロック機構を斬り壊す(・・・・)ことにより、物理的に無効化する。


 それなりにデカい音がするはずのルノーギルの動作は、しかし彼が同時に発動している音魔法によって、全くの無音であった。


「……おやおや、これは……」




 ――扉を開いた先に広がっていたのは、巨大な研究所だった。




 地下四階分程は繰り抜かれているだろう、非常に広い空間。

 天井や壁、至るところに幾本もの巨大なパイプが通っており、設置された様々な機器を研究員らしき者達が操作している様子が窺える。

 一角には、歪な形をした死体らしきものが数多置かれており、エルフの里を襲った人工アンデッドはここで造られていたものであるようだ。


 そして、研究所の中央にあるのは、鎮座した巨大な()のようなもの。

 そこにパイプやら何やらが接続され、多くの研究員が何かを施しており、その不穏さを感じさせる様子にルノーギルは眉を顰める。


 この戦時下に置いてなお、熱中して骨弄りをしているのだ。

 それが、ロクでもないものであることは間違いないだろう。


 ――兵器か、それに準ずる何か、といったところですかねぇ。


 ルノーギルが出た場所は天井付近に設置された連絡通路と思しきところだったようで、研究所全体を見下ろしていた彼は、恐らくここが敵の心臓部であろうと確信し、更なる調査をせんと――背後で微かに鳴る、空気を裂くような音!


 自らが音魔法を操るがために周囲の音に対して非常に鋭敏な感覚を持つ彼は、通常ならば研究所の喧噪に紛れ聞こえないであろうその音を感じ取った瞬間、自身の本能が命じるままに回避行動を取る。


 刹那遅れ、すぐ脇を数本の短矢が通り過ぎるのを視界の端に捉えながら、即座に戦闘態勢へと移行した彼は、天井からナイフを手に降って来た敵を紙一重で躱し、お返しにその着地際に合わせ首筋を掻き切る。


 血を爆ぜさせる敵を通路の手摺(てすり)から蹴り落として空間を確保し、短矢を放って来た残りの敵も排除すべく剣を向けたルノーギルだったが、迎撃はすぐに諦める。


 背後から迫って来ていたのは、全身黒尽くめで顔まで隠した、恐らく同業と思われる者達だった。

 その数は十を超えており、倒せないこともないだろうが、少々時間が掛かってしまうのは間違いない。


 時間は敵だ。何せ、ここは敵の本拠地なのだから。

 おかわりなど、いくらでもやって来る。


 一旦引いた方が良いだろうと判断したルノーギルは、空間魔法を発動して少し前に設定しておいた座標へと転移する。


 数瞬の後に周囲の景色が切り替わり――次の瞬間、左腕が吹き飛ぶ(・・・・・・・)


 起こったのは、小規模な爆発。


 血が爆ぜ、身体の左半身の至るところが焦げ、千切れた腕から神経線維を垂らしながらもルノーギルは、二撃目に備え俊敏な動きで大きくその場から退避する。


 致命傷とも言える負った怪我に渋面一つ作らず、ただ静かに彼は、自身が策に嵌められたことを悟る。


 敵は、読んでいたのだ。

 戦力的に不利と判断した自分が、空間魔法でここに一度引くであろうことを。


「ふむ……この距離で直撃を回避するのか。流石、地下研究所を発見するだけはある。全く、随分と這入り込んでくれたものだ」


 そこでルノーギルは、転移先で待ち構えていた敵の姿を視認する。


「……おやおや、皇帝陛下(・・・・)自らがお出ましですか。これは、手厚い歓迎ですねぇ」


 敵は、研究者らしい恰好に身を包み、何か本のようなものを小脇に抱えている皇帝と、その護衛の近衛と思われる黒尽くめ達。

 やはり、本陣にいた皇帝は影武者だったのだろう。


 ――せっかくご本人がいらしてくれましたが……ここで彼を殺すのは、ちょっと難しそうですねぇ。


 皇帝のすぐ傍にいる魔法兵らしき者達が、皇帝の周囲に何重もの防御魔法を張り巡らせているようで、あくまで暗殺者である彼にはアレを突破するだけの火力は存在しない。


 精鋭であろう近衛を相手しながらあそこに辿り着くのは、不可能だ。


 有り体に言って、絶体絶命であった。


「知っているぞ、侵入者よ。空間魔法は決して使い勝手が良いものではない。貴様が転移出来るのは、目視の範囲内か予め設定しておいた座標のみ。距離が離れれば離れる程、指数関数的に魔力消費も増していく。故に、敵地に潜入している最中で魔力消費を抑えねばならん貴様は、あまり遠くへと転移することが出来ん。逃げるならここだと思っていた」


「あらら、随分詳しく知られちゃってますねぇ……私の動きは、筒抜けだったのですか」


「とある手段で、お前の動向は一から十まで見えていた。すでに、他の座標が設定されていると思われる場所も全て押さえてある。それを信じるかどうかは、好きにすれば良いが」


「ふむ? その割には、随分と泳がしていただいたようですねぇ?」


「あぁ。なんせ、私しか貴様の動きがわからんからな。貴様のような強者の前に出る訳にも行かぬ故、ここまでは放置していたが……ま、今からはしっかり歓待してやる。それで許せ」


 全く許しが欲しいとは思えない態度で、そう言い放つ皇帝シェンドラ。


 同時に、近衛の部隊の者達が、警戒しながらジリジリと、だが確実に距離を詰めてくる。


「これは、引き際を見誤りましたかねぇ……致し方ありません。自らの尻拭いは、自らで行うと、しましょう――ッ!!」


 一つため息を吐き出したルノーギルは、次の瞬間、獰猛な笑みと共に駆け出し、剣を振るった。


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こちらもどうか、よろしくお願いいたします……! 『元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~』



書籍化してます。イラストがマジで素晴らし過ぎる……。 3rwj1gsn1yx0h0md2kerjmuxbkxz_17kt_eg_le_48te.jpg
― 新着の感想 ―
[一言] 最近ハマって一気読みしました! 更新楽しみにしています、お身体に気をつけて頑張って下さい!
[良い点] 更新楽しみにしてました! 戦争編の更新頑張ってください! [気になる点] 今のとこ悪魔族出てきてないけど、ゴジムとの戦いで疲弊したところに冥王屍龍復活とかだとユキさんヤバい気が・・・ [一…
[良い点] 更新お疲れ様です! おおぉ!敵ダンジョンモンスターの数が多いですからどうしましょうかと思ったら、香りで暴走させるとは、お見事な策略ですね! ユキさん所みたいの通じ合える眷属じゃなく、単純に…
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