SS:ある日の二人
なんか、書きたくなっちゃったので。
――俺とレフィ以外が寝静まった、夜。
「あひひひひっ、お、お前っ、盤外戦術はズルいぞ!」
「フン、馬鹿め。甘いことを抜かすでないわ! 儂らの戦いは全身全霊を賭したもの、なれば盤外戦術も立派な作戦の一つじゃろう?」
俺の寝間着の中にズボッと手を突っ込み、思いっ切りくすぐってこちらの思考を掻き乱してくるレフィ。
「だ、だからってお前、うひひひっ、こ、これはどうなのよ!」
「別にやめても構わぬぞ? お主が『ごめんなさい、やめてください』とでも言うならの。あぁ、それと、あまり大きな声は出すでない。せっかく寝付いた童女どもを起こしてしまうのでな」
「くっ……い、いひひっ、いいだろう! お前がその気なら、こっちも考えがある!」
そう言って俺は、ニヤニヤしながら指をわしゃわしゃと動かし続けるレフィの尻尾を、むんずと掴んだ。
「うひゃんっ!?」
同時、彼女の身体がビクンと跳ねる。
「し、尻尾を触るな阿呆!」
「プッ、くくっ……うひゃんっ、ってお前。うひゃんって。随分可愛い声出すじゃねーか、えぇ? レフィさんよ」
「ぐっ、こ、この……!」
ニヤァ、とこれみよがしに笑みを浮かべると、かぁっと顔を赤くして唸るレフィ。
「くっくっくっ、お前の弱点くらい、俺は全て知り尽くしているのだよ。お前は、鱗を逆撫でされるのと、尻尾の裏を触られるのが好きだったなァ?」
俺は、最高の触り心地である彼女の尻尾に手のひらを這わせ、揉み、撫で回し、そして口で咥え、はむはむと咀嚼する。美味い。
「なっ、あひゃっ、ば、馬鹿者、舐めるのはやめろぉっ!」
「おっと、大きな声を出すなと言ったのはお前だぜ? 気を付けてもらおう。――はい、チェックメイト」
「ぬわぁっ、いつの間に!? 卑怯じゃぞ!?」
「いや、どの口が言うか、どの口が」
お前が始めたことだろうに。
「ぐ、ぐぬぬ……もう一回じゃ!」
「フッ……いいだろう。王者は挑戦を断らないのよ。何故ならば、身の程知らずに身の程を教えてやるのが、王者の仕事だからさ」
「言っておれ! 古今東西、驕る者は足元を掬われると相場が決まっておるのじゃ!」
そして俺達は、第二ラウンドを開始した。
* * *
「……おトイレ」
むくりと起き上がったイルーナは、モゾモゾと動いて布団から抜け出すと、真っ暗な中を半分閉じた目で進む。
そして、ほぼ無意識のまま辿り着いたトイレで用を足し、手を洗ってほんの少しだけ覚めた頭でリビングの方へと戻ると、暗さに目が慣れたためか、その二人の姿が視界に映った。
――あれ……おにいちゃん達、またここで眠っちゃったんだ。
ユキとレフィが、布団が敷かれているのとは別のところで、少し身体を離しながらも頭だけ寄り添わせ、眠っていた。
近くに片付けられていないチェス盤が置いてあるのを見るに、きっとふざけている内に二人とも眠くなってしまい、そのまま仲良く寝てしまったのだろう。
ボーっとそんなことを考えてから、ふと思い付いたイルーナは、寝床から自身の毛布を持ってくると、二人の間にすぽっと身体を収め、その上から三人一緒に入るように毛布を被る。
敷布団が敷かれている訳ではないので、背中が固く、そして当然ながら狭いのだが……その狭さが何とも心地良く、身体の芯が温まるような感覚と、この上ない安心感が全身を包みこむ。
「……んふふ」
イルーナは、とても嬉しそうな笑みを浮かべ、目を閉じた。




