閑話:ダンジョンの夏休み《4》
この作品の時間軸と、現実の時間軸はリンクしていない。
つまり、作者が夏と言えば、そこは夏なのだ。いいね?
――夕暮れ時。
西日が大海原を紅色に染め上げ、炭火とレフィが辺りに放ってくれた淡い光が、浜辺を幻想的に染め上げている。
渚の音が絶えず聞こえ、時折吹き抜ける潮風が熱の籠る身体を冷やす。
そんな、とても心地の良い世界の中で、俺達は笑いながらバーベキューをしていた。
「おにいちゃーん、これ、お魚さん、お骨が……」
子供とは思えない程好き嫌いの全くないイルーナなのだが、ちょっと困ったような顔で俺を見上げ、そんなことを言ってくる。
どうやら、暗くて骨がよく見えないらしい。
「ん、わかった、ちょっと待て」
俺は魔王の超視力で星明りだけでも周囲がよく見えるので、彼女の取り皿に乗っている魚の骨を取ってやる。
ちなみにあの魚、エンが銛で採ってきたものだ。
レイラが思わず「……これ、お店で買おうとしたら、相当なお金になりますよー」なんて言ってしまうだけの高級魚らしく、実際すんごい美味い。
エン曰く、「……強者の気配を感じた」とのことだ。
……エンは、あれだな。
多分何をやっても大成するタイプの子だろうな。
「はい、取れたぞ」
「ありがと、おにいちゃん! 代わりに、はい、あーん!」
「ん、あーん」
イルーナがあーんしてくれた肉を、俺は口に含む。
うむ……この肉が如何に美味いかは、きっと言葉にせずとも伝わることだろう。
「……ユキよ。イルーナが可愛いのはわかるが、流石に頬を緩め過ぎじゃ。だらしない顔をしおって……」
そう、呆れた様子で言ってくるレフィ。
「そんなこと言われても、美味しいものは美味しいし、あーんってされたら嬉しいもんなー」
「ねー! はい、おねえちゃんもあーん!」
「んっ……んむ……」
ニコニコ顔で肉を掴んだ箸を伸ばしてくるイルーナに、レフィは微妙に照れくさそうな様子で大人しくあーんされる。
「おう、レフィ。だらしない顔してるぞ。もっと顔を引き締めたらどうだ?」
ニヤニヤしながらそう言うと、ゲシ、と脇腹を肘で突かれる。痛い。
「えへへ、それじゃあ僕もあーんってしてあげる! おにーさん、あーん!」
「ん、あ、あーん」
すっげーベタベタとくっ付いてきながら、そう言って俺にあーんをしてくるのは、ネル。
その頬は朱色になっており、すでに結構飲んでいることが窺える。
無論、嫌という訳ではないが……そう言えばコイツ、絡み酒するタイプだったな。
「……ネル、お主、前から思っていたが少々酒癖が悪いぞ。外では気を付けるんじゃぞ?」
「僕を心配してくれてるの? えへへぇ、ありがと、レフィ!」
次にネルは、俺から離れるとギュッとレフィに抱き着き、頬擦りを始める。
「あっ、こ、こら、やめんか!」
「レフィはスベスベで気持ちいいね~……よし、今日からレフィは、僕が抱いて寝ます! だから、僕のお嫁さんね! きっと幸せにするから!」
「言っている意味がわからんぞ!?」
逃げようとするレフィを決して放さず、キリっとした表情でそう宣言するネル。
やはり、大分酔っ払っているらしい。
嫁に嫁を寝取られる……アリだな!
「レイラはずるいっす! おっぱいは大きいし、仕事は出来るし、超絶美少女だし、知的美人だし、メチャクチャ頭が良いからご主人に色々と相談してもらえるし、おっぱいは大きいし! どんだけ属性を盛るんすか! 羨ましいっすよ、そのおっぱい!」
「……あ、あのー、流石にそんな胸のことを強調されると、少し恥ずかしいのだけれど……」
と、こっちもそれなりに酒が回っているようで、レイラにリューが絡んでいる。
「言っておきますが、私だってリューのことが羨ましいのですよー? 私はあなたと違って、あまり可愛げのある方ではありませんから……あなたのように、人を笑顔にさせることも出来ませんし、つまらない女ですよー」
「レ、レイラ……そんなことないっす! レイラは、ウチの理想の女性っす! ウチはいっつもレイラみたいになりたいって思ってて、こんな女の子と同僚に――友達になれてとっても嬉しいと思ってて、だから、つまらないなんてことは絶対ないっす!」
「リュー……」
何故か知らんが、感じ入った様子で互いを見詰める二人。
そして、彼女らはギュッと固く握手を交わした。
……リューもそうだが、レイラの方も相当キテるようだ。
まあ、見てると面白いからいいんだけどさ。
レイラ、いつもは隙が無いのだが、酒が入ると割と油断するというか、防御が外れるよな……。
「エンちゃん、これ、とってもおいしいヨ! エンちゃんたちが、とってきたんでしょ?」
「漁師さんって感じで、かっこよかったよね!」
「……ん。レイスの子達と一緒に採ってきた」
大人達がそんな醜態を晒している横では、幼女達が集まって会話を交わしていた。
酒で鬱陶しくなる未来を察知したのか、いつの間にかイルーナもそっちに行っている。
「すごいヨ、みんな! これで、むじんとーいっても、よゆうだね!」
「無人島に行っても、きっとご飯いっぱい食べられるね!」
「……えっへん。みんなのご飯は、エン達に任せて」
シィとイルーナの賛辞に、わかりやすく胸を張るエンとレイス娘達。最強に可愛い。
……ただ、一つ言わせて欲しいんだが、何故無人島に行くことが前提みたいになっているのだろうか。
謎だ。
* * *
それから、皆の腹が大分膨れて来ただろう頃、俺は箸を置いて言った。
「よし、暗くなって来たし、そろそろ花火するか!」
「はなびー?」
「ひばなー?」
「……スパーク」
「バチバチだ!」
口々にそんなことを言い、火花の真似をしているのか、「ぱんぱーん!」と弾けるような動作をする幼女達。
その可愛さに癒されていると、「ほら、串を持ったままそういうことしないの!」とネルに注意され、幼女達は「あっ」という顔でそれぞれすぐに腕を降ろす。
……そうか、今のは注意するべきところだったのか。
「はは、それじゃあ、ご馳走様をしたら一緒にやろうか」
俺は笑って彼女らから少し距離を取ると、アイテムボックスを開いて用意した花火を取り出していく。
手持ち花火に設置型の花火、花火大会とかで使うような打ち上げ花火は流石にないのだが、スーパーで買えるような規模の打ち上げ花火はあったので、それも用意してある。
ありがとう、DPカタログ。
ありがとう、ダンジョン。
この世の全てにありがとう。
「! ごちそーさま! おにいちゃん、何するの?」
手に持っていた串の肉と野菜を急いで食べ終え、興味津々な様子でこちらにやって来るイルーナ。
その後ろで、シィとレイス娘達が同じようにこちらへと寄って来ている。
エンだけはまだ食い気の方が勝っているようで、じっくりと食べているが、その目はこちらを向いている。
「そうだな……まずは、設置型のヤツからやろうか。ほら、ちょっと離れてろよ」
俺の言葉を聞いてイルーナ達がちょっと距離を取ったのを確認すると、俺は地面に置いた筒の一個の導火線に、原初魔法の火で着火する。
数秒の後、火が導火線を燃やし尽くし――そして、シュボボッ、と色とりどりの綺麗な火花が勢い良く噴射され始める。
「うわぁ……!」
「きれェー……!」
「……凄い」
それを見て、口をぽかんとさせて感嘆の声を漏らす幼女達。
エン、タレが落ちちゃってるぞ。
「おー、凄いっす!」
「へぇ~……綺麗だね。どうやって火の色を変えてるんだろう?」
「これは……火薬の種類を変えることで火の色を変えているのですかー?」
「正解。花火はいっぱいあるから、好きなのをやっていいぞー。火を使ってるから、火傷しないように気を付けるようにな」
「「はーい!」」
「……はーい」
大喜びで各々気になる花火を手に取り、こちらに持ってくる幼女達に、俺は順々に火を点けていってやる。
レイス娘達も、わざわざ再度人形に憑依し直し、人形の手で花火を掴んで楽しんでいる。
中々、器用なものだ。
だんだん人形を操る練度が上がってきている気がするな、彼女らは。
大人達も飯を切り上げると、こちらに寄って来て同じように楽しみ始める。
……レイラだけは、研究者っぽい顔で爛々と目を輝かせているが、まああれが彼女なりの楽しみ方ということで、良しということにしておこう。
「……? レフィ、どうした?」
彼女達が楽しんでいる様子に、満足しながら水入りバケツを用意していると、ふと俺は、レフィがみんなを見ているだけで花火に手を付けていないことに気が付く。
「……ユキ、お主の使う火は、やはり良いな」
ポツリと、ただそれだけを呟くレフィ。
…………。
少しだけ考えてから、俺は線香花火を手に取り、それを彼女へと渡す。
「レフィ、この先っぽに火を点けてくれ」
「ん、うむ」
レフィは指先に極小の火を出現させると、俺のと自身の持つ線香花火に着火する。
パチパチと爆ぜる、儚げな火花。
二つ分のそれが、淡く俺達の顔を照らす。
「ほら……レフィ。お前の火もすげー綺麗だぞ。これも、良い火じゃないか?」
「……カカ。そうかもしれんな」
ふと、俺の小指と彼女の小指が触れる。
俺とレフィは、互いの顔を見ず、何も言わずその小指を絡め合う。
「…………」
「…………」
淡い線香花火の火だけをジッと見詰め、だがそれが消える最後まで、繋いだ小指は離さなかった。
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