エルフの里到着
「――ご苦労様。さっそくだが、報告を聞かせてくれるかい?」
ユキ達と別れ、一足先にエルフの里に到着した魔族部隊の部隊長は、椅子に座る魔界王フィナルの前で跪き、報告を始める。
「ハッ。まず、任務外ですが、重要な報告から。道中魔王ユキ殿とその仲間と思しき少女と遭遇、彼らの手によるアンデッドドラゴンの討伐を確認しました」
「えっ……ユキ君、もう来たの? 救援要請出してから、まだ一日しか経ってないけれど。というか、討伐だって?」
「ネル様が確認しましたので、本人であることは間違いないかと。討伐に関しましても、この目でしかと確認しております」
「……うーん、そっか。何と言うか、相変わらず僕の予想なんて軽々と飛び越えて行くねぇ」
愉快そうにクックッ、と笑ってから、魔界王は言葉を続ける。
「わかった。報告を続けてくれ」
「周辺状況に関しましては、魔界王様の予想された通り、各地で悪魔族達の活発な動きが確認されました。また、南東前線基地と連絡が付いておりません。……恐らく、現在戦闘中か、壊滅させられたかと」
「……連絡が付いていないとなると、すでに壊滅させられたんだろうね。全く、僕が動けなくなってからまだ三日しか経っていないというのに、手の速いことだ。……それにしても、南東前線基地か」
――人間の先代勇者君が、敵の協力者の人間を捕らえて来たけれど、やっぱり悪魔族の子達も、どこかの人間の国と手を組んだようだね。
南東前線基地は、魔界において防衛の要となる位置に存在するが――その位置とは、人間界と魔界との境界線間近。
悪魔族達が本拠としている地域とも離れており、担っている役割も人間が侵攻して来た場合に阻止するというものであるため、何も情報を得ていなければその意図を読むのに苦労しただろうが……悪魔族が人間と手を組んでいると知っていれば、話は別だ。
人間と悪魔族、どちらによって攻撃されたかは定かではないが、このタイミングで動いた以上、やはり協力関係にあることは明白だろう。
あそこが壊滅させられた場合、人間達に抜かれる可能性が出て来るため、迅速に手を打たなければならない。
が、魔界のトップである自分は今、ここエルフの里にいる。
ここで足止めされる時間が長くなれば長くなる程劣勢になっていき、そこまで見越して悪魔族の者達はアンデッドドラゴンを放ったのだろう。
――まあ、その目論見も、ユキ君達が木っ端微塵にしたようだけどね。
「……よし。あの屍龍がいないのならば、やりようはいくらでもある。君達、今日一日休んだら、悪いがすぐにまた伝令に向かってほしい。手紙を書くから、南東方面の司令部に届けてくれ。その後は、部隊を見繕って人間達の動向、特に軍事的な動きの確認を頼むよ。他の地域に関しては、僕が手を打っておく」
「ハッ」
短く返事をし、魔族の部隊長はそそくさとその場を去って行き――と、それと入れ違いに慌てたように現れる、エルフの女王ナフォラーゼ。
「フィナル! 警戒の兵がアンデッドドラゴンの討伐を確認した! 恐らく例の援軍じゃ!」
「うん、今聞いたとこ」
「む? 何じゃ、知っておったのであるか。あぁ、状況を知るために散らせておった兵か?」
ナフォラーゼの言葉に、魔界王は底の見えない笑みを浮かべて応える。
「彼らのおかげで、敵の動きは大体予測が付いたよ。今まで不明瞭な点が多かったけれど……ようやく、その姿もはっきりしてきたかな」
魔界王は座っていた椅子を立ち上がり、言葉を続ける。
「さ、ナフォラーゼ君。僕らの最大の脅威を排除してくれた子達が、もうちょっとでこっちに到着するらしい。彼らのもてなしをしなきゃいけないけど、僕はここじゃあ何にも指示出来ないから、その準備をお願いできないかな」
「言われるまでもない、任せよ。余が魔界では味わえん、最高のもてなしを準備してやろうぞ」
「おっと、言うじゃないか。どんなものか是非見せてもらおうかな」
そんな軽い冗談を交わしながら、彼らはそれぞれの仕事へと戻って行った。
* * *
エルフの里へと向かう道すがら、ダイアウルフという種の狼の背に乗りながら、ネルは口を開いた。
「おにーさんも一度戦ったって聞いてるけど……例の、赤毛の悪魔族の頭領、知ってるよね?」
「……あぁ」
「その人と一度戦闘になって、最終的には空間転移の魔法で逃げられちゃったんだけれど……その時、おにーさんが使うネックレスみたいな感じの装飾品を使ってたんだ」
「……なるほどな。ダンジョン帰還装置みたいな装飾品を使って、逃げたと」
俺の言葉に、彼女はコクリと頷く。
「うん。まあ、僕が疑うきっかけになったのは、それだけなんだけどね。ただ、敵に魔王がいると考えると、幾つか辻褄の合うものがあるんだ。魔界王様に聞いた話なんだけど……悪魔族達は、戦力の補充速度がおかしいって」
それからも、ネルは説明を続ける。
どうやら魔界王フィナルは、幾度かの作戦にて、悪魔族達を半壊滅状態にまで追いやったことがあるらしい。
本丸までは倒せておらずとも、これだけ敵戦力を削ればしばらくは身動きが取れないだろうと、そんな予測をして動いていたら……どこから連れて来たのか、前回と同様の規模の軍勢に襲われ、撤退したことが何度もあったのだという。
つまり、想定される敵戦力と、実際に現れた敵戦力の差が、異常な程に開いていた、ということだ。
あの魔界王に限って、そうおかしな予想はしないだろうし、となると単純な読み違いというより、実際に何か理由があるのだろう。
「それで、ダンジョンを用いて戦力の補充をしているんじゃないかって思った訳か」
「うん。それだったら、不可能でもないかなって。それでも、色々とわからない部分はあるんだけれど――と、面倒な話は後にしよっか。着いたよ、おにーさん、レフィ、エンちゃん! と、リル君!」
元気良く、ネルはそう言うが……。
「着いたって……まだここ、森の中だぞ?」
『……ここが、エルフのお里?』
「ふむ……結界か」
怪訝な声音の俺とエンに対し、何かしら納得した様子のレフィ。
「あはは、流石にレフィは騙せないか」
笑って先へと進むネルの後を、俺達は付いて行き――瞬間、景色が一変する。
まず目に入ったのは、連なるように生えている、数本の大樹。
それに橋や階段などが設置されており、中をくり抜いて住居としても利用しているらしい。
自然をそのままに、といった感じの趣で、至る所に花が植えられ、涼しげな木漏れ日が差し込み、見ているだけで心が癒されるような景色である。
神秘的な、まさにエルフの里といった様相だが……焦げ付いた木々や、幹が半分くらい抉られ崩れ落ちたらしい大樹で、エルフ達が魔法やゴーレムを使用して復旧作業している様子も同時に目に入り、戦闘の爪痕が痛々しく残っている。
これがなかったら、もっと綺麗な景色だったことだろう。
……何かしらの魔法で、里全体が隠されていたのか。
今まで見えてはいなかったが、エルフ、魔族、そして人間の兵士達が思った以上に近くに控えており、ビシっとそれぞれの流儀で敬礼している。
俺達のことを、待ってくれていたようだ。
そして、彼らの中から、豪奢な民族衣装に身を包んだお偉いさんらしいエルフの美人が、威厳ある様子でこちらにやって来る。
「よく来た、お客人方。あの屍龍を退治していただいたこと、感謝にひッ――!?」
――お偉いさんらしいエルフは、変な声を出して固まった。
彼女の視線の先にいるのは……俺の横に立つ、レフィ。
「は、は……覇龍、レフィシオス……」
「む? お主……もしや、いつぞやの儂に喧嘩を吹っかけて来たエルフか?」
「? 何だ、知り合いか?」
俺の問い掛けに、肩を竦めるレフィ。
「ま、知り合いと言えば知り合いじゃの。この辺りではなかったと思うが、昔、エルフ達の近くを偶々通り過ぎた際、儂が襲いに来たとでも勘違いしたのか、攻撃を受けたことがあってな。その中に此奴がおったのじゃ」
「そ、そ、その節は、大変なご迷惑を……」
冷や汗をダラダラと流しながら、頭を下げるエルフのお偉いさん。
見ると……あぁ、この美人も『分析』スキル持ちなのか。
名:ナフォラーゼ=ファライエ
種族:ハイエルフ
クラス:妖精女王
レベル:93
妖精女王……やっぱり、お偉いさんというのは間違いじゃなかったようだな。
エルフの、女王か。
レベルも非常に高く、周囲の兵士達の中では最も強いようだ。
「昔の話じゃ、今更蒸し返すつもりもない。お主も忘れよ」
「か、寛大なお言葉、心からの感謝を」
そう言って頭は上げるも、しかしエルフ女王の顔面は引き攣りまくりで、緊張しっ放しである。
彼女が恐縮しまくっているせいで、なんかちょっと、後ろの兵士達もやり辛そうである。
特にエルフの兵士がな。
そんな場の微妙な空気を察したらしく、俺達と一緒に里に戻って来たネルが、助け舟を出す。
「え、えっと、とりあえず里の中に入りましょう、ナフォラーゼ様。おにーさん達も、お腹空いたりしてない?」
「あー、実は俺達、家を出てからまだ一睡もしてないから、正直すげー眠い」
「うむ。流石にちと疲れたの」
「あっ、そっか。急いで来てくれたんだもんね」
「聞いたか! 急げ、客室の用意を!」
「ハ、ハッ! ただいま」
エルフ女王の焦った様子の号令に、若干面食らった様子で、エルフの兵士の中の数人がそそくさとこの場を去って行った。
「……レフィ、お前何やったんだ?」
「少々鬱陶しかったのでな。それなりに脅してやったんじゃ。あぁ、しかと脅すまでに留めたから、殺してはおらんぞ。攻撃されても許してやった訳じゃし、彼奴らはそれで済んだことを儂に感謝すべきじゃな」
……とりあえず、エルフ達が不憫な目にあったということはわかった。
ちょい書き直すかも。




