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魔王になったので、ダンジョン造って人外娘とほのぼのする  作者: 流優
同盟

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襲撃《1》



 エルフが治める里。

 その周囲に広がる森はとても深く、ある一定の地点より踏み込んだ先には、エルフ達が張った多種多様な結界が存在しているため、里の近くへの侵入者があれば即座に感知、それが敵性存在であった場合は迎撃までをスムーズに行うことが可能な防備体制が敷かれている。


 この強固な防備体制は他種族から『森の秘術』と呼ばれ、長命種であるエルフの長い歴史を見ても、過去に里までの侵入者を許した例は数える程しかない。


 そんな、守りの堅牢さで言えばヒト種の世界において一、二位を争うことが出来る程の里の防備に、エルフ族の者達もまた誇りを抱いているが――現在、森と里の境界付近にて警備の任に当たっている多数のエルフの兵士達の表情には、一切の油断は浮かんでいなかった。

 

 本日里で行われているのは、他種族同士の会談――それも、長らく争いが続いている魔族と人間を交えての会談である。


 エルフはどちらの種族とも関わりがあった故に今回の会談の場として選ばれ、自らの国でそれが行われること自体は誇らしくあったが、しかしその重要性もまた強く理解しており、絶対に問題なく終わらせねばならないという意識からピリリとした緊張感が彼らの間に走っていた。


「……ん?」


「どうした?」


 突如、怪訝そうな声を漏らしたエルフの兵士に、ツーマンセルを組んでいた同僚が問い掛ける。


「いや……使い魔が魔物を発見した。まだ感知結界にも引っ掛からないくらいの距離だが、アンデッドらしい」


 自らの使い魔にしていた小動物が送ってきた念を感じ取りながら、彼はそう答える。


「アンデッド? 珍しいな……どこかから流れてきたか、昼にやって来た使節団の彼らに釣られたか?」


「人数が人数だからな、生の気配も非常に強いものになっていただろうし、それに惹かれて近付いてきた可能性はあるだろう」


 ――エルフは、使い魔の魔法をよく使う。


 狩猟民族である彼らは、より効率良く獲物を狩るために動物達や魔物を使い魔にし、周囲の探索を行わせるのだ。

 自身で見るよりも広範囲の索敵が可能になり、術者によっては何匹もの使い魔を放つことが出来るため、敵がいた場合などはいち早く察知することが可能だが……完璧なものなど存在しないように、この魔法にもまた、欠点が存在していた。


 それは、使い魔が主へと送ることが出来る報告は、使い魔の脳で理解出来る範囲内でのみ、というものである。


 故に、敵に見つかり難いという利点から小動物を使い魔として使用していた彼には、アンデッドがいる、という報告しか(・・)届かない。


「ん、待て、動きがある。アンデッドがこちらに近付いて来るぞ」


「方角は」


「北東方向だ、まだ距離はあるが、真っ直ぐこちらにやって来ている。やはり生の気配に惹かれて来た奴だな」


「了解。――こちら第七警備班、アンデッドを発見、これより排除する」


 一人が『ウィスパー』という魔法を使用して司令部に軽く報告した後、彼らは背中の矢筒から矢を取り出して弓に番え、弦は引かないまでもいつでも撃てるように警戒を強める。


 やがて、森の奥へと目を凝らしていた彼らの視界に映るのは、遠くの木々の間に蠢く影。


 その影が、想像以上に大きいことに気が付いた次の瞬間――周囲一帯が、吹き飛んだ。



   *   *   *



 突然だった。


 ズゥン、と遠くから響いてくる低い爆音。

 数瞬遅れ、近くまで吹き飛んで来ていた木々の破片や砂利などがバラバラと地面に落ち、煙が高く立ち上り始める。


 会議室にいた者達は一斉に音の発生源の方へと顔を向け、それぞれの種族の護衛達がもはや反射的な動きで瞬時に警戒態勢に入り、いつでも動けるようにと武器へ手を掛ける。


「状況報告!」


 エルフの女王、ナフォラーゼが鋭く声をあげると同時、壁際で控えていたエルフの護衛の一人が、耳に片手を当てながら答える。


「……『ウィスパー』届きました! 第七警備班がアンデッドを発見したという報告の後交信が途絶、その後報告無し――いえ、続報届きました!! 数十体の変異型(・・・)アンデッドを確認、里の内部へと侵入し、戦闘が開始しています!!」


「なっ、守護結界はどうした!? 最高強度で張ってあったはずであるぞ!?」


 エルフが森に張っている、結界の一つ――『守護結界』。


 世界最強の種族である龍族、彼らの奥の手である『龍の咆哮』ですら二発までは耐えることの出来るシロモノであり、防衛の要として使用されているが……。


「わ、わかりません!! しかし、中に入られた以上破られたことは確実かと!!」


「くっ……警備部隊は里内部まで引いて防衛線の張り直し、待機中の即応部隊はすぐに送るんじゃ!! 魔獣部隊は!?」


「第一から第四までがすでに戦闘に参加、第五が他エリアの警戒を担当しています!!」


「よし、そのまま密に連携して対処に当たれ!! ここで他種族の者達に被害が出れば、エルフの名折れであるぞ!!」


 矢継ぎ早に指示を出すナフォラーゼを前に、少し険しい表情の魔界王フィナルが言葉を溢す。


「……変異型アンデッド、か。すまない、どうやら僕のところの敵が、こっちまで来てしまったようだ」


「ふむ……会談前にフィナル殿が仰っていた『悪魔族』、ですか」


 彼に問い掛けるのは、アーリシア国王レイド。


「恐らくね。アンデッドは以前から悪魔族の子達が兵器として使用し始めているものだ。僕を追って――というより、潜在的に敵となり得るだろう相手を一掃出来るかもしれない機会だから、わざわざここまで来たんだろう。動きは注視していたのだけれど……今回は相手が一枚上手だったようだ」


 それから魔界王は、後ろを振り返って自らの部下達へと指示を下す。


「君達、今回のこれは、本来ならば僕らが相手をしなきゃならない者達だ。僕の護衛は最低限でいい、残りは外の援護へ」


『ハッ』


 そうして魔族達が即座に行動を開始した横で、アーリシア国王もまた自らの部下――ネル達の方へと言葉を掛ける。


「我々も彼らに手を貸そう。ネル殿、レミーロ殿、外の部隊を纏めているカロッタ殿と協力して、対処を頼めるか」


「わかりました!」


「了解しました。――皆さま、ここはお願いします」


『お任せを!』


 レミーロの言葉に人間の他の護衛達は敬礼を以て答え、そしてネルとレミーロの二人は会議室の外へと出る。


 巨大な大樹の中間程を繰り抜いて作られたそこから出ると、すぐに視界に映るのは、普段は優美なエルフ達が慌ただしく動き回り、怒号をあげて侵入者の撃退に全力を挙げている様子である。


 そんな彼らに混じり、急いで戦闘ポイントへと向かう途中、レミーロがネルへと口を開いた。


「ネルさん、お聞きなさい。彼らの報告を聞くに、今回の侵入者は変異型アンデッド。私も魔界に滞在中幾度か見ましたが、奴らは一体一体がかなり強い。もし危なくなったら……あなたは、逃げなさい」


 何を、と言い掛けるネルだったが、その前に老執事は彼女へと手のひらを向けて口を止めさせ、言葉を続ける。


「あなたは、ご結婚なされた。そうである以上、本来ならば戦いの場からは退いてもいいのです。にもかかわらず、こうして戦闘へと連れ出してしまっているのは、我々の都合だ。あなたが危険に身を置く必要はない。故にあなたは、自らに危険が迫れば、我々を見捨てて逃げなさい」


 目の前の老執事が、どうやら自身のことを案じてくれているらしいということを理解したネルは――フ、と一つ、微笑みを浮かべ、彼の言葉に答えた。


「レミーロさん、ありがとうございます、ですが、大丈夫です。結婚は僕が勝手にしてしまったことですし……僕には一つ、心に決めたことがありますので」


「心に決めたこと、ですか?」


「はい。僕は、死んでも生き残って、家に帰るんだって。そのために、勇者としての全力を尽くすのだと。本気になった僕はしぶといですから、そう簡単にやられはしませんよ! それに、本当にどうしようもなくなって、マズいって時に逃げるための手段も、ちゃんと持っていますからね!」


 強い芯を感じさせる様子でニコッと笑う彼女に、レミーロは目を丸くし、それから一つ苦笑を溢す。


「あなたは……本当に強くなられたようだ。わかりました、では変異型アンデッドとの戦い方を説明しましょう。――生きるために、戦いますよ」


「はい!」


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こちらもどうか、よろしくお願いいたします……! 『元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~』



書籍化してます。イラストがマジで素晴らし過ぎる……。 3rwj1gsn1yx0h0md2kerjmuxbkxz_17kt_eg_le_48te.jpg
― 新着の感想 ―
レミーロさんが出てきて嬉しい。
[一言] 第340話でようやくエルフが登場ですか。そろそろエルフ嫁が欲しいなぁ。
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