お花見をしよう《1》
俺は玉座を立ち上がり、言った。
「――諸君。お花見をしよう」
「お、ユキがまた何か言い出したぞ」
「はい、ご主人、どうしたんすか? 何でも聞くっすよ」
「君達、そんな介護する時みたいな言い方をするのは、やめてくれませんかね」
コホンと一つ咳払いし、俺は言葉を続ける。
「花見だ、花見。たまにはそういうのもいいかと思ってな。旅館に生えてる桜の木が満開になってたからさ」
「いや、そもそも花見というものが何なのかわかっておらんのじゃが」
む、そうか。
「花見ってのは、あれだ。要するにピクニックの一種だ。旅館の方に、最近ピンク色の花を咲かせている綺麗な木があるだろ? あれの下でシートを敷いて飯を食うんだ」
「ならば、普通にぴくにっくと言えばよかろう。わざわざ差別化する必要があるのか?」
「わかってないなぁ。ピクニックは一年を通して出来るが、お花見は春にしか出来ない……こともないな。ここ、春ないし」
その気になれば、多分ダンジョンの力で年がら年中花を咲かせることも出来るだろう。
むしろ春でもないのに、旅館の方に生えているあの桜は、何故咲いたのだろうか。狂い咲きか?
「おにいちゃん、ピクニックするの!? なら、わたしはおにぎり担当する!」
「シィは、レタスをちぎるね!」
「む……エンは、何をすればいい?」
ピクニックという言葉を聞いて、幼女達が一気に元気良く騒ぎ出す。
「うむ、みんなで準備しようか。エンは、それじゃあブロッコリーを斬ってもらおう。あ、まな板まで斬らないようにな」
エン、自身が刀であるがために達人並に刀剣類の扱いが上手く、俺が調子に乗って作ったメッチャ斬れ味の良いアダマンタイト製の包丁とかではなく、市販で売ってそうな普通の包丁でもまな板まで斬ってしまったりするので。
……あ、そう言えば今、我が家で使われている包丁は行きずりの魔族にもらった、綺麗な装飾のある包丁だったな。
あれも素晴らしい斬れ味をしているので、エンに使わせる前に別のものに変えておかないと。
「ま、わかったわかった。別に、ぴくにっくが嫌という訳ではないでな。……今回も、ネルは不参加か。仕方がないとはいえ、少し不憫な奴じゃのう」
「確かに、可哀想っすねぇ……ご主人、次はネルがいる時にお花見でもピクニックでもしましょう?」
そんなことを言うレフィとリューに、俺はチッチッ、と指を振り、ニヤリと笑みを浮かべる。
「フフフ、実はな。ネルにはもう話をしてあって、『絶対に行く』というお言葉をいただき、参加することが決定しています」
「……彼奴、今すごく忙しいと言っておらんかったか?」
「うむ、とても忙しいとおっしゃっていました。なので、彼女の日程に合わせ、明後日にお花見をしようと思います」
帰りは、超速モフリル便で王都まで送ることが決まっている。
ここから一番近い、辺境の街アルフィーロまでは『扉』を繋げてあるので、そこから進むとなると半日もしないで王都まで辿り着くことが出来るだろう。
超速モフリル便は、普通に馬車で帰るより、数倍疲れるそうだけどな。ネル曰く。
そこまでしてでも、花見に参加したかったらしい。
彼女も、最近は自身のしたいことをハッキリと「したい」と言うようになり、嬉しい限りだ。
「がんばってるネルおねえちゃんに、美味しいもの食べてほしい!」
「お、よく言ったぞ、イルーナ君。では彼女のために、素晴らしい料理を作ろうではないか。よし、今日から肉を煮込むぞ!」
「あら、ではビーフシチューですかー? これは腕が鳴りますねー」
「む、レイラに火が点いたか。俄然料理が楽しみになってきたの」
「ええっと、ピクニックなんすよね? ピクニックにビーフシチューって、持ち運べるんすか?」
「クックックッ、甘いな、リューよ。この魔王の手に掛かれば、不可能など――」
「ついこの前魔王様が用意した、金属製のポッドがありますので、スープ系の持ち運びも可能なんですよー」
「……レイラさん、今、私がそれを勿体つけて紹介しようと思っていたところなんですが」
「それは失礼いたしましたー」
あんまり心が籠っていない様子で、にこにこしながらそう言うレイラ。
……レイラさん、あなた最近、私のあしらい方がテキトーではないでしょうか。
まあ、いいんだけどさ。
「そうじゃな、では儂は、久方ぶりに魔境の森に行って、奥地に住まう魔物でも狩ってくるかのう」
「あー、レフィ。そうしてくれるとすごくありがたいが、先に言っておくと食えるものを狩ってきてくれよ?」
「わ、わかっとるわ!」
以前同じ感じで、自信満々でレフィが狩ってきた魔物、肉の部分が毒性を帯びていて全く食えなかったからな。
俺なんかじゃあ、自分が三人いても勝てないような魔物だったから、超絶高級食材なのは間違いないんだろうけど。
いや、そもそも食えないなら食材ではないか。
「じゃあウチは、玉子焼きと……あと何かを作るっす! 最近ウチ、玉子焼き得意なんすよ!」
「ほう? それは知らなかったな。是非俺も、楽しみにしておこう」
「フフフ、ウチだって毎日、ご主人に相応しいお嫁さんになるべく努力しているんすから!」
片腕を腰に当て、もう片腕でブイと指を立てるリュー。可愛い。
と言っても、彼女がレイラに教わり、料理を一生懸命勉強していることは知っている。
どれくらい上手くなっているのか、割とマジで楽しみだな。
そんな感じで俺達は、お花見に向けて準備を進めていった――。




