閑話:???
し、しまった……昨日がエイプリルフールだってことを完全に忘れていた……。
完全に日付変わってますが、ここはロスタイムということで、どうか……(震え声)。
――ある、休日。
スーパーで買い物かごを片手に、俺は隣を歩く銀髪少女へと問い掛けた。
「レフィ、今日の晩飯、何がいい?」
「ベヒーモスの上ヒレ」
「おう、明らかに高級食材っぽい名前をあげるのやめーや」
間髪入れずに答えながら、菓子を買い物かごへ突っ込んでくるレフィに、俺は入れられた菓子を元の場所へ戻しながら言葉を返す。
しかもベヒーモスって、お前らの世界に棲息しているやべーモンスターだろ、確か。
食えるのか、ソイツは。
「何じゃ、甲斐性が無いのう。男ならそれくらい用意してみせぬか」
「お前に甲斐性を見せるくらいなら、近所の猫にでも食わせてやった方がマシだ」
そうして、キレて俺をど突こうとするレフィを「おっと、今暴れると今晩のデザートが無くなるぜ? サイフを握っているのが誰だか、忘れないようにすることだ」と牽制していると、その時俺達の名を呼ぶ声が近くから聞こえてくる。
「あ、おにーさんにレフィ。こんばんは。晩ごはんの買い物かな?」
「お、ネル」
「む、ネル」
現われたのは、俺と同じく買い物かごを片手に持った、同級生の少女――音瑠。
以前は、ネルはレフィを「レフィちゃん」と呼び、レフィはネルを「娘っ子」と呼んでいたが、俺の知らない間に仲良くなっていたようで、いつの間にかお互いを名前で呼ぶようになっていた。
何度かネルがウチに遊びに来て、一緒にゲームをしたりとかしたので、それで仲良くなったのかもしれない。
「よう、そっちも晩飯の買い物か? リルは……外か」
ネルはいつも、彼女の使い魔であるフェンリル、リルこと『モフリル』を連れているのだが、人型の使い魔であるレフィとは違い動物型の使い魔であるリルは、流石に店の中にまでは連れて来れないだろう。
「うん、お店の中にはちょっとね。だから今は、お店の前で待ってもらってる」
見ると、スーパーの外でちょこんとお座りをしていた彼は、親とスーパーにやって来たらしい子供達に集られて、大分困った顔をしている。
……アイツ、狼のくせに何と言うか、表情がわかりやすいヤツだな。
すごく苦労人臭――いや、苦労狼臭が漂っていて、見ていて微妙に哀れな気分になってくる。
「……なぁ、ネル。後でリルに、おやつを買って食わせてやってもいいか?」
「え? そりゃ僕は構わないけど……むしろ、おにーさんはいいの?」
「あぁ、全然いいぞ。ヤツにはこう……優しくしてやりたいんだ」
「……? そう?」
ネルは不思議そうな顔で首を傾げ、と、その横でレフィが、少しぶすっとした顔で口を開く。
「おい優希、あの狼に菓子をくれてやるのもいいが、それより先に気を遣うべき相手がいるのではないか?」
「わかったわかった、お前にも買ってやるから。チョコでいいな」
「うむ、儂は寛大故、それで許してやる」
そんな俺達のやり取りを見て、ネルは苦笑を浮かべる。
「君達は本当に仲が良いねぇ……」
「フン――そうじゃ、ネル。お主、帰っても一人なのじゃろう? このままウチに食べに来い」
「えっ、いいの?」
レフィの誘いに、嬉しそうな顔を浮かべる同級生の少女。
「別に構わんじゃろう。のう、ユキ」
「ん、まあいいぞ。よし、それじゃあウチで一緒に晩飯食うか、ネル。あとレフィ、どさくさに紛れて買う菓子を増やすんじゃねぇ。チョコだけだ」
「チッ……」
レフィは一つ舌打ちをして買い物かごに入れようとしていた菓子を戻し、その様子を見てネルが楽しそうにふふ、と笑った。
* * *
そして、ネルとリルを連れ、帰ってきた我がマンション。
結局晩飯は、ネルもいるため皆で食えるものをと、すき焼きにすることにした。
俺は鍋で食材を煮込みながら、隣で使い終わった皿や調理器具の洗い物をしてくれているネルへと問い掛ける。
「リルは、何でも食えるのか?」
「うん、あの子も犬っぽくはあるけど、やっぱりこっちの世界の出身じゃないから食性が大分違うみたいでね。僕達と同じものを食べることが出来るよ。……まあ、犬でもないんだけど」
そうね、狼だもんね。
俺もほぼ犬扱いしてるけど。
ちなみに現在そのリル君はというと、「お座り!」「お手!」「伏せ!」などをさせようとしてくるレフィの相手を、苦笑を浮かべて行っている。
ウチの使い魔さんの方がリルよりも圧倒的に年上のはずなのだが……あの様子だと、どっちが年長者かわかったもんじゃないな。
「よし、出来た」
「うわぁ、いい匂い。おにーさん、料理上手いねぇ」
「ま、毎日やってたら、それなりにな」
後は、隣の家に住む幼女に時折料理を振る舞うことがあり、それで美味いものを食わせてやろうと、ちょっと練習したってのもある。
レフィ? テキトーに食べさせてやれば喜ぶんじゃないですかね。
「ほら、レフィ、準備くらいは手伝え」
「む、わかった」
リルの身体をわしゃわしゃと撫でまくっていたレフィは、こちらに来て皿の準備を始める。
以前は全然家事を手伝おうとはしなかったのだが……うむ、この成長具合、嬉しくなるな。
子育てをしている親とか、こんな気分なのだろうか。
「何じゃ、ユキ。そんな生暖かい目をして」
「いやいや、何でもありませんよ? さ、食べるぞー」
「……何か釈然とせんの」
「ふふ、ほら、早く食べないと冷めちゃうよ?」
そして俺達三人と一匹は、テーブルを囲った。
* * *
――玉座で俺は、目が覚める。
と、すぐに自身の身体に乗っかる重みと、目の前にある綺麗な銀髪と角に気付く。
どうやら、俺の膝上でレフィが眠っていたらしい。
……そう言えば、レフィと一緒に玉座でのんびりしていたんだった。
二人とも、そのまま居眠りしてしまったのか。
俺が起きて身動ぎしたことで、彼女のことも起こしてしまったらしい。
俺に身体を預けながら、「ん……」と小さく呻きを溢し、数度瞳を瞬かせる。
「む……優希……いや、ユキか……」
いつもと微妙に違う『ユキ』の呼び方をしてから、レフィは普段と同じように俺を呼ぶ。
「何か……不思議な夢を見ていた。お主と共に、知らぬ世界ですき焼きを食べる夢じゃ。ネルとリルもおったな」
「ハハ、実を言うと俺もだ。お前とスーパーに行って、ネルに会って、すき焼きを皆で食う夢だ」
「すーぱー……食料品が売っている店じゃな。不思議なこともあったものじゃの。お主がいつか話していた、『ぱられるわーるど』という奴かの。あちらの世界は、こちらの世界と近い、ということか」
「あぁ、元々俺が異世界人である以上、世界ってのはいくつか存在するんだろうし、似たような世界が近くにあるんだろうな。多分、向こうの俺らも同じような夢を見ているんじゃないか?」
「ふふ……そう思うと、この世とは面白いものじゃの。――お主とは、別の世界でも、共にいるのか」
「そうみたいだな」
「……きっと向こうの儂も、苦労しているんじゃろうのう」
「何を言う。それはこっちのセリフだ」
俺とレフィは互いに顔を見合わせ、そして笑い合った。




