宴
人型の生物を「ヒト種」と呼び、その枠の中で「人間」、「亜人族」、「獣人族」、「魔族」と別れています。
すみません、この辺りは明確に書いたことがなかったので、確かに本文内でごっちゃになっている可能性があります。
見つけ次第修正しておきます。
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「わかったか、ユキよ。これが古龍の老骨どもじゃ。どうしようもない飲んだくれしかおらん」
「あはは……」
心底呆れた顔でそう言うレフィに、俺は何とも言えない顔で笑いを溢す。
――龍族達は、いや、龍族の年寄達は、今盛大に酔っ払っていた。
俺達が一泊するということを決めると、彼らは『祝いだ!』『歓迎の宴をせねば!』『ならば酒の準備が必要か!』とか何とか言い始め、あれよあれよという間に酒盛りの準備を終え、飲み始めたのだ。
その量の、凄まじいこと凄まじいこと。
龍族が飲むものだから、当然用意された酒の量もアホ程多く、もう充満するアルコールの匂いだけで酔いそうである。
というかまず、杯のサイズからして、一般家庭の浴槽三個分くらいの大きさ、というのが大分頭おかしい。
龍族としても随分と大きい杯だと思うのだが、それを当たり前のように飲み干し、おかわりを注いでいるから恐れ入る。
この龍達、祝いというよりも、まず間違いなく自分らが飲みたいだけだろうな。
ちなみにこの酒は、龍族が一から全て造っているものだそうだ。
龍族の長い長い生を活かし、二百年や三百年単位で寝かせ続けて造っているため、世界でも群を抜いて美味い酒なのだと自慢していた。
また、その酒造りのほとんどの工程で魔法を使っているがために、液体に魔力が豊富に含まれており、半ばマナポーションみたいな役割も果たせるらしい。
『どうじゃ龍王、この里で作る龍酒は。外の世界では神酒として扱われている程の高級品じゃぜ?』
そう話し掛けてくるのは、年寄衆の一人である、ランバという名の龍。
ゴツい岩のような鱗を持っており、一見すると岩山のようにすら見える。
ちなみにこの龍も、レベルは600台と俺よりも圧倒的に強い。
「あぁ、美味いな。土産に貰っていきたいくらいだ」
『良いぞ良いぞ、後で好きなだけ持っていけ』
器用に前脚で持った杯を呷り、上機嫌そうにグララと笑うランバ。
魔力が多く含まれたものは美味いというのがこの世界の常識なのだが、確かにこの酒も、非常に美味い。
仄かな甘さのあるまろやかな味で、度数が高めに感じる割にとても飲みやすく、彼が外じゃ高級品と言っているように、多分出すところに出せばとんでもない値段が付くような酒なのだろう。
だが、一つだけ言わせてほしい。
流石に龍サイズの杯を渡されても、飲み切れません。
俺、この魔王の身体のおかげで酒が強い方ではあるが、全身がすっぽり入るくらいの大きさの杯に並々注がれたら、物理的に飲み切れません。
「……レフィ、頼む。これ、一緒に飲んでくれないか」
「そうじゃな、これは儂ら二人で飲むとしようか。まあ、無理して全て飲む必要もなかろう。曲がりなりにもお主を歓迎する宴じゃからの。――ローダナス。儂らは二人で飲むから、この杯はお主が飲め」
『む? 良いのか?』
「この身体では、飲める酒の量は旦那と変わらん。こんな量はとても飲み切れんから、儂の分はお主にくれてやる」
『おぉ、そうか。お前さんがそう言うのであれば、いただこう』
すげー嬉しそうにするローダナスに、レフィはまだ口を付けていなかった杯を押し付ける。
……以前、龍族は皆大酒飲みだという話をレフィに聞いたことがあったが、その通りだったな。
と、何を思ったのか、レフィはふとニヤリと笑みを浮かべると、胡坐を掻く俺の膝の上をいそいそと昇って、その間に身体をすっぽりと収め、背中をこちらに預けてくる。
密着する彼女の肌から感じられる体温が、心地良い。
「お、おい、何だよ」
「気分じゃ、気分。嫌か?」
蠱惑的な笑みと共に、俺を見上げる我が嫁さん。
当然嫌な訳がないので、俺は苦笑を浮かべ、彼女の胴辺りに後ろから腕を回し、軽く抱き締める。
「お前は意外と、甘え上手だよな」
ネルは二人きりの時はともかく、人目のあるところだと恥ずかしがるのであまりくっ付いてこようとはしないし、リューはそれよりも冗談を言い合う方が好きだし。
対してレフィは、他者の目があろうがそんなことなど全く気にせず、自身の好きなように振る舞うことが多い。
流石、覇龍様という自由さである。
「何を言う。お主が甘えられるのが好きなのじゃろう? 儂は旦那の意を汲んで、そのように振る舞ってやっておるだけじゃ」
「ハハ、ま、そうだな。お前らに甘えられるのは、気分が良いよ」
「……? じゃあ、エンもいっぱい甘えていい?」
と、俺達の隣で、酒の代わりに甘酒のようなものを貰って可愛らしくチビチビと飲んでいたエンが、こちらに顔を向ける。
ちなみに彼女のコップは、俺がアイテムボックスから取り出したものを使っているので、普通のサイズである。
俺も、最初から自分のコップを使えば良かったぜ……『今準備するから、お前さん達は待っておれ』と言われ、気付いた時にはこのクソデカ杯を用意されていたからな……。
「おう、勿論だ。エンの好きな時に、好きなだけ甘えてくれていいぞ。な、レフィ」
「うむ、儂にも好きなだけ甘えてよいぞ、エン。此奴が甘えてきたら気持ち悪いから殴るが、お主ならばいくらでも甘えさせてやる」
「レフィさん、言っていることが大分理不尽じゃないですかね」
「……やったぁ」
そう言うなりエンは、コップを置いて身体を横たえ、俺とレフィの膝に頭を乗せる。
あまり表情を変化させない彼女だが、それでも一目でわかるくらい嬉しそうである。可愛いなぁ。
『……しかし、しばらく見ぬ間に随分と変わっておるなぁ、レフィシオス。まさかお前が、番を持つ日が来るとは。この世は面白いものよ』
また別の龍、ヴェラダナスという龍が、こちらを興味深そうに見ながら言葉を掛けてくる。
里ではそれなりに若く――と言っても、龍族の感覚でだが――、現在千六百歳辺りだという話だ。
それにしても、レフィの昔の知り合いは、会うヤツ皆「随分変わった」って言うよなぁ。
正直、コイツは初めて会った時から大分ポンコツ気味だったと思うのだが、以前はそんなに尖っていたのだろうか。
「そうじゃ、世界とは面白いぞ。お主らもいつまでも里に籠っておらんで、外に出るがよい」
『フッフッ、考えておこう』
「なぁ、一つ聞きたいんだが、昔のレフィってそんなに尖ってたのか?」
そう問い掛けると、ヴェラダナスは懐かしむようにこくりと頷く。
『うむ。生まれつき力があり、里で最も力のある古龍の爺様達から次期龍王を期待されていたのだが、お前のところの妻は束縛されるのを嫌ってな。俺の知る限りでも、よく暴れていたものよ』
「ヴェラダナス。あまり余計なことを言うたら、お主の口を耳元まで裂くぞ」
『おっと、お前の妻が怖いから、これ以上はやめておこう』
「……レフィさん、私、あなたの話が聞きたくて一泊したいって言ったんですけど」
「儂の話ならば儂がしてやる故、この阿呆どもに聞く必要はないぞ」
全く態度を変えようとしないレフィを見て、ヴェラダナスが愉快そうに笑う。
『ふははは、お前も大変だな、龍王!』
そんな彼に俺は、肯定でも否定でもない曖昧な笑みを浮かべ、杯を呷った。




