龍の里《2》
フ〇ムは素晴らしいよ……あそこのゲーム程、創作が捗るものも中々ないんじゃないかと。
「それで結局、ここで何があったんじゃ? 古龍の老骨どもの姿も幾らか見えなくなっているな? 儂の知っておる若い龍も、数が減っておる」
ローダナスに付いてその後ろを飛んでいると、レフィがそう老龍に問い掛ける。
『うむ。今は、以前の七割程の龍しかおらぬ。少し前に、一人の赤毛の魔族が里へ現れてな。曰く、「我らと共に世界の在り方を変えないか」と。龍の力をアテにしておることが丸わかりであったので、先々代龍王と、我らはその誘いを一蹴し、鼻で笑ったものだが……』
赤毛の魔族……覚えが、ある。
何度か争った、悪魔族の頭領ゴジム。
ヤツが、赤毛頭だった。
「……なるほど。それで阿呆が唆された、ということか」
レフィの言葉に、しかしローダナスは、首を左右に振る。
『いや、唆す、とは違うかもしれぬな。少なくとも儂には、この世に対し本気で変革を起こそうとする意思を感じられた。愚かな誘いであったことは確かだが、何かしら信念があっての言葉ではあったのだろう』
変革、か。
結局のところ、俺はヤツらが何を望んで動き出し、何を望んで魔界で戦いを始めたのか、ということを知らない。
……まあ、いずれ、それを知る日は来るだろう。
悪魔族どもの暗躍は、終わっていない。ネルからの情報で、未だ魔界では対立が続いており、人間達に対するちょっかいも増えているという。
ならばその内、ヤツらと再度対峙する日は来るだろう。
その時を、待つとしよう。
『それで、この里の在り方に不満のある若い衆が、その魔族の言葉に感化されよってな。特に、若い衆の中で最も力のあったギュオーガが強く影響を受けたようで、「偉大な力を持つ龍が世界を統べるべき」「外の世界の者達に龍の力を見せつけるべき」などと言い出すようになってのう』
ギュオーガは、以前に俺がぶっ殺したクソ龍の名だ。
アイツ、あれでも若い龍の中じゃ強い部類だったのか。
この龍の里の龍達も、分析スキルで見る限り、俺より弱いヤツや同等、少し強いくらいのヤツも確かにいることにはいるが……それでも半数以上が、俺より格上である。
多分、まだそんなに強くない龍が、歳若い龍なのだろう。
『まあ、若き者は突然そんなことを言い出す。もう数十年もすれば、落ち着くだろうと儂らは放っておいたのだが……あの愚か者は、儂らが考えていたよりも随分と野心が強かったらしい。ある夜、ギュオーガは龍王と里の上役以外の立ち入りを禁止している禁域へと、足を踏み入れた』
その時のことを思い出しているのか、ローダナスは悔恨の感じさせる表情で、言葉を続ける。
『その時何があったのかはわからぬ。気が付いた時には、龍王の下へと向かったギュオーガが新たな龍王となっており、中では血まみれの先代龍王が倒れておった。……恐らく、不意を突いて殺したのだろう。仮にも龍王を殺すのに、あの愚か者の実力では無理があったからの』
「何故、そこまでわかっておきながら、彼奴を放置したんじゃ」
『儂らが事態を把握した時、もうあの愚か者は里からいなくなっておった。追い掛けることも考えたが……ここで更にギュオーガを殺してしまえば、里を二分しての争いが起こる可能性があった。若い衆と、それ以外の者達での』
……龍族同士の争いか。
それは、恐ろしいな。
『無論、若い衆が束になって掛かっても儂らには敵わぬが、しかし同族同士で殺し合いをする愚を犯してはならぬ。それは、種族の滅亡に繋がる大問題だ。こう言っては言葉が悪いが、極端な話、そうなるくらいならば外の者に滅んでもらった方がまだマシだ。そのせいでお前さん達に迷惑を掛けたのは申し訳ない思いだがの』
ローダナスの言葉に、レフィは何事かを考えるようなそぶりを見せてから、口を開く。
「……里の者が少なくなっておるのは、古龍の老骨どもは面倒ごとを嫌って、若い衆はお主らを嫌って、か」
『うむ。龍の一生は長い。若い衆も年寄衆も、好きにやり、好きに過ごせばいい。それが生きるということ。お前さんのように外に順応し、良き変化をする者もいれば、外に馴染めず里に戻って来る者もおるだろう。しかし、その時にこの場所が滅んでいるようでは、我らはどこを故郷として生きれば良いのか』
「……故郷か」
チラリと、そう言ってレフィは俺のことを見る。
コイツが何を思って今俺を見たのかは……わかるかもしれない。
今、俺も、レフィも、恐らくは同じことを思っているだろう。
『……少し、感傷的な話になってしまったな。さ、着いたぞ』
話し込んでいる内に、いつの間にか目的地に辿り着いていたらしい。
いつの間にか、俺達の目の前には、大きな口を開けた洞窟があった。
見ると、俺達は飛んで進んでいたため使わなかったが、谷の間にあった階段はこの洞窟へと繋がっていたようだ。
「禁域か……懐かしいの。ユキ、中は少し滑りやすい。気を付けよ」
「お、おう、わかった」
慣れた様子で入っていく二人に続き、俺も中へと進み……すぐに、内部の様子が露わになる。
――そこは、巨大な祠だった。
洞窟の岩で自然と形成されたらしい武骨な幾本もの柱に、張り巡らされた何本もの注連縄のような太い縄。
中央奥が一段高くなっており、そこに存在している、本殿のような建造物。
陽の光は全く届いていないが、中はそこまで暗くない。
何かの魔法なのか、ボワリと淡い光の玉のようなものが幾つか内部に浮かび、朧げに周囲を照らしている。
神聖な、神の住処という言葉がピッタリ来るような場所だが……しかし、中央奥の本殿の中には、何もない。
龍の身体の大きさに合わせられた、ただ巨大で空虚な床があるだけである。
『新龍王よ。ここが禁域じゃ。遥か昔から龍王のための住処として使われておる。今日からここは、お前さんだけのものだ。ま、ほとんど何もないがのう!』
「うむ、こんなのは見栄を張りたいだけの阿呆が好む場所じゃ。ユキよ、気に入るでないぞ」
変わらず辛辣なレフィに俺は苦笑を溢し、それから老龍へと問い掛ける。
「それで、龍歴ってのは?」
『この更に奥にある。これだ』
ローダナスが首を向けたのは、本殿内部の一番奥。
何もない空虚な空間だと思っていたが、中に入ってみると、ローダナスが示した場所に古ぼけた大きな石があることに気が付く。
――石碑である。
俺の背丈の倍程の大きさがあり、そこに上からズラリと文字、名前らしきものが並んでいる。
「これが……」
『うむ。歴代の龍王の名が刻まれた、龍歴である』
――これが、歴代龍王達の名前か。
全部で、百数十くらいだろうか。
龍族の文字なのか、表意文字らしきもので名前が書かれている。
「……これ、初代の龍王とか、どれだけ前の龍なんだ?」
『お前さんが倒した先代と、先々代は早くに代替わりしてしまったが、龍王は大体四千年から五千年で代替わりする。故に、恐らく一番古い龍王――始祖の龍王で、六十万年程前であろうかのう』
……凄まじいな。
多分その頃なんて、ヒト種は農耕もまだやっていないのではないだろうか。
……というか、今更だが、龍族からするとまだ生きた年月が千年過ぎたくらいのレフィは、若い方なのだろうか。
スケールがデカ過ぎて、その辺りの感覚が何にもわからんな……。
「レフィ、お前、龍の中じゃ若い方なのか?」
「む? まあ比較的若い方ではあるかのう。古龍――古代龍というのは、古代から生きている龍というより、古代に生きた力の強い龍と同程度の力を持つ龍という意味じゃからの。儂は、生まれた時から古代龍じゃぞ」
そうか……そう言えばレフィは、里のじーさんばーさん達を表す時に、『古龍』ではなく『古龍の老骨』と言う。
ちょっと意味合いを勘違いしていたが、古代龍というのは力の強さを表す言葉だったのか。
『さ、新龍王よ。歴代龍王の名はここに刻み込むことになっておる。お前さんの名も刻むぞ』
「そりゃあ、どうやるんだ? 普通に彫るのか?」
それだと俺、上手くやれる気がしないんだけど。
『フフ、いや、流石に彫りはせんでよい。その石碑は記録のための魔具だ。龍王だけに扱うことが可能で、お前さんが魔力をこれに流し込めば、ステータスを読み取り、勝手に名が刻み込まれる』
魔具とは魔道具のことか。
なるほど、そんな簡単でいいんだな。
俺は、並んだ名前の一番下、余白の部分に手を触れる。
……ここに、俺の名前を刻むのか。
石碑から感じられる長い長い年月に、柄にもなく少し緊張しながら、俺は魔力を練り上げ――と、すぐに石碑は反応を示し、まるで蠢くように俺の名前が刻み込まれる。
『ユキ=マオウ』
……あれ、なんか、魔王が家名みたいになっちゃったんだけど……。
そう言えば、書籍三巻に黒龍ギュオーガが襲来する前日譚が書かれているようですね……(露骨なステマ)




