龍の里へ《1》
あけましておめでとうございます。
今年もどうぞ一年、今作品と共によろしくお願いいたします!
「嫌じゃ」
「レフィさん――」
「嫌じゃ」
「あの、レフィさん、せめて最後まで言わせてくれませんかね。まだ私、『龍の里に――』までしか言ってないんですけど」
「そこまで言うたなら残りはわかるわ。龍の里に行くから付いて来い、じゃろう。嫌じゃ、儂は行かんぞ」
非常に頑ななレフィに、俺は思わず苦笑を溢す。
コイツが龍の里に拒否感を持っているのは知っていたが、すんげー拒否っぷりである。
「……さてはお主、先程上からこちらを見ておったボルダガエンに、何か吹き込まれおったな?」
「吹き込まれたっつーか、龍王が何なのかについては教えてもらったんだけど……」
「クッ……彼奴、余計なことを。後で鱗が全て剥げるまでしばき倒してやる」
「や、やめてやれよ。彼、唯一俺とも話してくれる、いいお隣さんなんだからさ……」
流石に彼のことが可哀想になってそう言うが、しかしレフィは怪訝そうな表情で答える。
「? 何を言うておる。あの男も、十分やんちゃじゃったんじゃぞ。いつかの黒龍程愚かとは言わぬが、魔境の森へとやって来た儂に、周囲の反対を押し切って『龍の意地を見せる』などと喧嘩を売ってきたのは彼奴じゃぞ」
あ、そ、そうなの。
昔はやんちゃだったの、彼。
……あれかな、龍族にも中二病的な時期があるのかな。
もしかして、レフィから逃げるのって、昔の黒歴史を思い出すのが嫌だから、という面もあるのかもしれない。
「け、けど、昔はそんなんだったのかもしれないけど、今は普通の龍なんだからさ……そ、それにほら、俺、お前の知り合いの龍に『コイツ俺の嫁さんなんだぜ!』って自慢したいし」
「む……」
ピクリとレフィの尻尾が動く。
「お前が龍の里を嫌がったのって、他の龍が鬱陶しかったからだろ? けど、今は俺が龍王で、んでその嫁がお前なら、誰もお前に龍王になれなんて言わないんじゃないか? だって、こう、権力的には実質お前も龍王みたいなもんなんだし」
「むむ……」
少し考えれば暴論だとわかるのだが、俺がさも当たり前のことを言っている風に説得するため、「あれ、そうなのかもしれない……」といった感じの顔を浮かべるレフィ。
「お前だって、見たくないか? お前のかつての知り合い連中がさ、ビックリする顔。お前に男が出来たと知ったら、きっとすげー驚くぞ」
「…………見たい」
よし。
「な、頼むぜ。一回行くだけでいいからさ。俺、龍の里の位置を知らんからお前がいないと行けないし、それに仮に『魔王が龍王とは生意気だ!』とか喧嘩を売られたら、お前に守ってほしいし。ダンジョン領域じゃない場所でどれだけ戦えるかわからないからさ。お前だけが頼りなんだって」
成熟した龍なら何もしてこないだろうが、年若い龍なら憤るかもしれないって、ボルダガエンも言っていたしな。
と、レフィは『お前だけが頼りなんだって』、のところでわかりやすく鼻を伸ばし、そして口を開いた。
「……しっかたがないのぉ! ま、いいじゃろう。お主がそこまで言うのであれば、共に向かってやろうかの。全く、お主は儂がおらぬと駄目じゃなあ!」
調子に乗り始めたレフィに若干イラっとするが、ここで機嫌を損ねてしまうとやっぱり行かないなんて言い出しかねないので、にこやかな笑顔で黙っておく。
「やれやれ、出来る女は辛いのう。ほれ、もう一回言ってみろ、お前だけが頼りじゃと」
「……レフィさんだけが頼りです」
「心が籠っておらぬなぁ! もっと儂がやる気を出せるように言うことじゃ。でないと、心変わりしてしまうかもしれんぞ?」
…………。
「……レ、レフィさんだけがマジ頼りっす! レフィさんマジパネェ! レフィさん、どうか一緒に行ってほしいっす!」
「そこまで言われると何だか気持ち悪いの」
「テメェこのっ、下手に出れば調子に乗りやがって!! 何が頼りになるだ、どうせ道案内するだけだろうがポンコツめ!!」
「なっ、ポンコツじゃと!? そ、そんなことを言って、儂が龍の里に行かなくともよいのか!?」
「うるせぇ!! だからと言って俺が好き勝手言われたままでいると思ったら大間違いだ、アホウめ!!」
「あー!! そう言うこというんじゃな!! もう行かないー!! 儂もう龍の里行かないからのー!!」
「何歳だおのれは!! ガキみてぇなこと言ってんじゃねぇぞ!!」
そうレフィと言い合っていると、ポツリとリューが呟く。
「……あの二人、言い合いのレベルが時たますごく幼いっすよね」
「似た者同士ですとそうなることが多いですねー」
「おにいちゃんとおねえちゃんが仲良くしているのを見てると、何だかにこにこしちゃうね!」
「そうっすねぇ、見てるともう、和んじゃうっすねぇ」
「そこ! 見世物じゃないんじゃぞ!」
「そうだそうだ! 勝手に和んでるんじゃないぞ!」
「うわ、こっち見たっす。二人とも、逃げるっすよ!」
リューとレイラとイルーナは、笑いながら逃げて行った。
* * *
「じゃ、行ってくるから。レイラは使い方わかってると思うけど、何かあったらすぐにソイツで連絡しろよ? すぐ飛んで帰るからさ」
「前にネルとお話したこの玉の魔道具っすね? わかったっす、何かあったら連絡するっすよ!」
「私達では対処出来ないことが生じたら、ご連絡させていただきますねー」
通信玉・改を手に持ち、コクリと頷くリューに、同じくお任せをといった感じで頷くレイラ。
改の方は魔力が相当食われ、リュー達が使うと一分で魔力が切れてしまうだろうが、救難信号を送る分にはそれだけで十分だろう。
ちなみに、上級ポーションや上級魔力ポーション、その他便利アイテムの数々も十分な量を真・玉座の間に置いてある。
俺が遠出することも増えたので、彼女らもあれらの使い方はもう、よくわかっているだろう。
「リル、ダンジョンの守りは任せたぞ。今回はレフィもいないから、魔境の森の方で異変があったら、すぐさまウチのヤツらに伝えてやってくれ」
「クゥ」
ウチのペット達の中で、リルだけはダンジョンを簡易的に操作する権限を持っている。
コイツ賢いし、使い方も普通に理解している。むしろIQ的には、俺らより賢い説あるぞ。
あと、リルに使い方を説明した際に、肉球でチョイチョイと画面を弄っている絵面は、正直すっごい和んだ。
最終的に、鼻先で突いて操作するのが一番やりやすかったようだ。
「童女どもよ、おやつは食べ過ぎてはいかんぞ。菓子は確かにとてつもなく美味いが、レイラの晩飯も美味いでな。そっちが食えなくなってしまう」
「はーい!」
「ハーい!」
揃って返事をする、イルーナとシィ。
エンは、いつものことながら俺達に付いて来てもらうので、返事をしていないのだ。
それにしても、レフィが親みたいなことを言っているのを見ると、何だか感慨深いものがある。
そんな風に全くこれっぽっちも感じないが、コイツ一応年長者だしなぁ。千年分くらい。
……それならそれで、もうちょっと年長者らしく振る舞ってほしいのだが。
「そんじゃあ、行って来る!」
大太刀状態のエンを担いだ俺は、レフィと共にダンジョンから出て行った。