ネルとメイド隊
異世界の生態系?
大丈夫大丈夫、異世界の掃除屋にはスライムがいるんでね! Gなんて滅びた方がいい生物はいらないんだよ!
「――もはやお主の横暴には我慢ならん!! ユキ、勝負じゃああああ!!」
「フーハハハ、いいだろう、受けて立つ!! 魔王とは挑まれた勝負には全て応じ、そして返り討ちにするのよッ!!」
ユキとレフィが、いつもの感じでギャーギャーと騒ぎ始めたのを見て、洗濯物を畳んでいたネルが苦笑を浮かべる。
「二人とも、いつもいつも、ホントに飽きないねぇ……」
「あの二人、ネルがいない時も大体毎日あんな感じでやってたっすよ」
彼女にそう答えるのは、隣で同じように洗濯物を畳んでいるリュー。
「うーん、簡単に想像が付くね。勝率はどんな感じなの? 相変わらずおにーさんが圧勝?」
「いや、最近、ちょっとレフィ様が勝つようになってきて、大体七対三ぐらいっすね。ご主人が七っす」
リューの言葉に、少し意外そうな顔を浮かべるネル。
「へぇ! そうなんだ。それなら、今僕がやったら、負けちゃうかな?」
「いやぁ、流石にそれはないんじゃないっすか? ウチ、ボードゲーム類は弱いし、ネルにも全然勝てないっすけど、それでもレフィ様にはそこそこ勝てますし」
「うるさいぞ、リュー! そう言うのであれば、お主ら二人は此奴をこてんぱんに叩きのめした後で、相手をしてやろうではないか!」
「ほう、吠えるではないか、威勢だけは良いレフィよ! そういうことは、俺に勝ってから言うことだ!」
「フン、言われなくともそうしてやるわ! 今の儂を舐めたら、痛い目に遭うぞ、ユキ!」
そう言い合ってから、再び自分達の世界に没入し始めた二人に、ネルとリューは顔を見合わせ、処置なしと互いに肩を竦め、そして笑い合う。
「あの二人は、もう放っとこうか。イルーナちゃん達が外から帰ってくるか、ごはんの時間になったら流石に切り上げるだろうし――って、レイラ、相変わらずビックリするぐらい仕事が早いね……」
ネルがふと隣を見ると、レイラの前にずらりと並ぶ、すでに彼女らの二倍程度の量が畳まれた洗濯物。
非常に綺麗にピッチリと整えられており、もはや何かのスキルでも発動しているのではないかと思わんばかりの速さと正確さである。
「うふふ、メイドですから、これぐらいはー」
「ネル、レイラがさらりとメイドの基準を上げて、ウチを虐めてくるっす」
「いえいえ、虐めてなどいませんよー? ただ、リューがもう少しでいいから、丁寧にお仕事が出来たらいいのになぁ、と思っているだけでー」
「ネル、同僚が笑顔で圧力を掛けてきて怖いっす。助けてほしいっす」
「あ、あはは……」
ネルは何も言えず、ただ曖昧に笑って誤魔化す。
「ま、まあ、僕だってレイラ程綺麗には畳めないし、リューだって以前よりはとっても上手になったじゃない。それにほら、人には得意不得意っていうのがあるから、得意なものを頑張ればいいんじゃないかな。リューも、何か一つぐらいは得意な家事があったりするでしょ?」
「え、得意な家事っすか? うーん……あ、洗濯物を洗濯機に突っ込むのは得意っす!」
「…………」
「…………」
「な、何すか、二人揃ってその顔は!?」
家事、の一環ではあるのだろうが、非常に微妙なところをあげるリューに、「え、それを得意な家事と言っちゃうの?」という顔を、ネルとレイラが揃って浮かべる。
「……りゅ、リュー、ほ、他にもうちょっとないの? ほら、こう、お皿洗いとかお掃除とか、そういうの」
「お皿洗いなら、得意になってきたっすよ! レフィ様と違って、最近は一枚も割ってないっすからね!」
「いや、あなた、確かにお皿は割ってないけれど、見ていてヒヤッとする手つきなのは相変わらずでしょうー……」
胸を張るリューに、ちょっと困った様子でボソリとそう言うレイラ。
何だか普段のレイラの苦労が垣間見えるようで、思わずネルは、ポンとレイラの肩に手を置いた。
「……レイラ、僕がいる間はしっかり家事を手伝うからね。何でも言って」
「……えぇ、ありがとうございますー」
「ね、ネルがウチのフォローを諦めた!? うぅ、ご主人ぃん!」
「おわっ、な、何だ、リューか。ビックリした」
同僚と友人が結託したのを見て、レフィと将棋をやっていたユキに後ろからもたれかかり、泣きつくリュー。
「酷いんす。同僚と友人が揃ってウチのこと虐めるんす」
「おぉ、そうかそうか、それは可哀そうに。おーよしよし、たんとお泣きぃ」
そう言ってユキは、慰めるようにリューを両手で撫で始める。
「わひゃっ、ご主人、くすぐったいよぉ、うひ、うひひ、ごしゅ、ご主人――いつまで撫でてるんすか!」
わしゃわしゃと頭をなで、犬耳を弄り、顎の下をくすぐるように撫でるユキに、流石に恥ずかしくなってきたリューが、パシンと彼の手を払う。
「おっと、悪い。落ち込んでいる嫁さんを慰めてやろうと思ったら、思わず手触りに夢中になってしまった。しかし、うむ、触り心地の良さが以前より増しているではないか。これならばリルのモフモフと同レベルであると認めるのも吝かではないな。だがまあ、ここで満足してはいけないぞ。これからも精進するように」
「この人何様のつもりなんすかね!?」
若干、ユキに褒められたことに内心で嬉しく思いながらも、彼は決して味方ではないと判断したリューは、最後にボードを挟んでユキの対面に座るレフィに泣きつき――。
「う、うぅぅ……レフィ様ぁ!」
「リュー、対局の邪魔じゃ。後にせい」
「ウチに味方は誰もいなかった!?」
レフィに一蹴され、愕然とした様子でそう言うリューに、その場にいた全員が声をあげて笑った。




