ペット達の成長《1》
――草原エリアに繋がる、洞窟の前にて。
「よし、お前ら、魔物狩りに行くぞー!」
俺の言葉に、我がペット達が、それぞれ返事をする。
「さっそく向かう――前に、お前ら、全員種族進化したみたいだからな。ちょっと持ってきたもんがあるんだ」
我がペット達だが、ついこの前『ジャイアント・ブラッド・サーペント』から『クリムゾン・イービル・サーペントキング』に種族進化したオロチ以外の三匹も、すでに進化を果たしている。
ヤタが『ノワル・クロウ』から『ナハトキング・クロウ』に。
ビャクが『化け猫』から『大化け猫』に。
セイミが『水精霊』から『ウンディーネ』に。
変化としては、まずヤタが一回り大きくなり、鉤爪が以前のものより鋭く逞しくなっている。
ビャクは尾の本数が増え、一目見て毛並みの色艶が非常によくなっていることがわかる。
セイミは、外見にはあまり変化はなかったのだが、どうも『ウンディーネ』という種族に進化した影響か女性型にも変化出来るようになったらしく、時折身体の形状を変えてその姿になっている。
まあ女性型と言っても、イメージとしてはマネキンに近い形なので、シィのようにヒト種にしか見えないというよりはただ魔物がヒト種の姿を模している、という表現の方が近い感じだ。
その身体に宿す魔力量は他三匹と比べて頭一つも二つも抜け出ており、支援特化に育っている。
コイツらは、結構前から南エリアの魔物を一対多でも余裕で圧倒し、東エリアの魔物を一対一で勝てるようになり、そして西エリアの魔物も浅いところに生息するヤツなら四匹で連携すれば勝てるようになっている。
ウチの守りの戦力として、どこに出しても恥ずかしくない強さになったと言うことが出来るだろう。
……というか、割とマジで、ここが魔境の森というアホみたいに過酷な環境じゃなかったら、どこかのシマでボスでもやってそうな風格をしていやがる。
ウチに馴染みつつも、『外』のことをよくわかっているネルにも聞いたところ、コイツら四匹を討伐しようと思ったら、国が本腰を入れて動く必要があるレベルであり、ウチで完全に下っ端のペットとして扱われているのが信じられない強さはあるという。
嬉しいね、俺の目標の一つであった、踏み込んだ瞬間中ボスが束になって襲い来るダンジョンというのは、これで半ば達成であると言えるな。
ま、コイツらには、まだまだ成長してもらうつもりだけどな!
ここで満足されちゃあ困るが、ただ我がペット達が努力してここまで成長したことも確かなので、今日はその祝いのために、作ってきたものがあるのだ。
「ほら、お前らこっち来い」
そう言って俺は、ペット達用に用意したアクセサリーを、セイミ以外の三匹は首に巻き、セイミには水玉の一部に付ける。
これは、DPで交換した『伸縮自在の首輪』に、多少俺が手を加えたものだ。
コイツら、何か欲しいものあるか、と聞いたら、揃ってリルとお揃いの首輪が欲しいと言い出したので、これを用意した。
確かに、リル以外には首輪を着けていなかったが……君ら、本当にそれでいいのか?
もうちょっと他に要求してくれてもいいんだが……なんて思っていたのだが、見る限りかなり喜んでくれているらしく、互いに嬉しそうに見せ合っているので、これで良かったということにしておこう。
ちなみにオロチとセイミは、オロチはツルツルの身体なので普通のアクセサリーだとずり落ちるし、セイミはそもそも水なので着けようとするとズボッと手が貫通するため、特別製にしてある。
オロチのは装着者の魔力に反応して身体に吸い付く仕様で、セイミのはもはや、開き直ってヤツの身体の中に埋め込む形にして、意匠は同じだが首に回す鎖のような部分は外し、真ん中の飾りだけのものを渡した。
実際のところ、この二匹の首輪をどうするか思いつかなくて、後回しにしていた感は少しある。
「うむ、喜んでくれているようなら何より。これからも、ウチの守りの要として頑張ってくれよ!」
俺の言葉に、我がペット達は揃ってこちらに向かって頭を下げた。
「そんじゃあ、行こうかお前ら、張り切って狩るぞ――って、あの……リューさん? あなた何でそこにいるんです?」
「え、えへへ……」
ひょこっと洞窟の方から顔を覗かせるのは、リュー。
いつの間にそこに。
「たまには、ご主人に付いて行きたくて。いいっすか……?」
「いや、全然いいけどよ。魔物狩りに行くだけだから、危ないしあんまり面白くないと思うぞ?」
「その……レフィ様やネルと比べて、弱いウチはあんまり家の外に付いていけないっすから。こういう時に、ご主人と一緒にいたいなって思って」
照れくさそうな様子で、にはは、と笑うリュー。
家の外というのは、魔境の森というより、俺が遠出した時のことも言っているのだろう。
……コイツはホントに、不意打ちで可愛いことを言ってくるな。
「って、ど、どうしたんすか、ご主人? 急にそんなヘンなポーズして」
「気にするな、何でもない」
お前が不意打ちしてくるから、悶えてジョ〇ョみたいなポーズになってしまっているだけだ。
「わかった、それじゃあ一緒に行くか。けど、危ないのは確かだから、俺の傍から離れるなよ?」
「はいっす! お供させてくださいっす!」
そうして俺達は、魔境の森へと向かって出発した。
* * *
「あれ、ご主人、その武器は? 今日はエンちゃん使わないんすか?」
一緒に行けるのが嬉しいらしく、ニコニコ顔で俺と共にリルに乗っているリューが問い掛けてくる。
「……ん。主、今日はエンの出番、最後だって」
そう答えるのは、リューのさらに前でリルに乗り、ちょっとだけ不服そうな表情をするエン。
「あ、あぁ。ちょっと使ってみたい試作品があってな。エンも、しっかり使ってやるから、そんな顔するなって」
今回、俺が携えている武器は――大砲である。
その名も、『魔法大砲』。銘は、『華砲』。
携行可能な大砲、というコンセプトを基に作ったコイツは、通常の大砲の筒を一回り小さくしたものに、トリガーと持ち手をくっ付けたような形状をしている。
腰に抱えて魔力弾を放つ仕様で、肩に回すためのストラップも付けてある。
ぶっちゃけると、以前俺がよく使っていた魔法短銃を、ただ俺用にデカくしただけの武器だ。
以前の魔法短銃との相違点としては、やはりまず相当に大型化しているので、威力も相応であり、込めた魔力量如何によっては地形を変える一撃を放つことが可能になる。
コイツが許容可能な最大魔力を込めれば、俺が最近覚えた精霊魔法で生み出す『レヴィアタン』、あれのブレスと同程度の攻撃は、放つことが出来るようになっている。
と言っても、コイツは継戦を念頭に置いて作った武器なので、レフィの影響で基本バ火力志向の、一撃必殺、大艦巨砲主義の俺には珍しいことに、威力を制限する機構を組み込んであるため、普段は放つことが出来ないようにしたのだが。
デメリットとしては、大砲なので、連射が出来ない。
いや、一応内部に流し込んだ魔力を分割出来るようにしたため、二発までは連射出来るが、それだけだ。
かなり魔力制御が上達した今の俺でも、再度充填するのには三十秒程掛かるので、弾を撃つタイミングは少し考えなければならない。
また、燃費も悪い。
威力を制御する機構を作りはしたが、それでも十発も撃てば俺のMPが全て消え去るぐらいだ。
しかもこの十発の内訳は、二発は予め大砲に魔力を込めておくことを想定している数字なので、魔力を込めていない場合で一から使用する場合は八発が限度だ。
普段あまり使わないマナポーションが、必須になる武器と言えるだろう。
現在は、さらに継戦能力を高めんがため、外部魔力タンクでも取り付けられないか考えているところである。
何度か試して、具合を確認してから、改良型の製作に取り掛かるとしよう。
今日は俺が正面張って戦うのではなく、あくまでペット達に戦闘をさせ、俺自身は援護に回るつもりなので、エンではなくコイツを持って来た――のだが、若干エンが悲しそうにしていたので、彼女も連れて来てしまった。
だって、ねぇ……何か言いはしないし、全く気にしていない風を装ってはいるけれども、しかしその実「自分を使ってくれないのかぁ」という意思が丸わかりの顔をするエンを見てしまったら、もう連れて行くしかないですよ。
そのため、急遽彼女の本体も持ってきて、現在リルの横っ腹に括り付けてある。
リルよ。三人乗っている上にエンの本体もあってちょっと重いだろうが……我が子に拗ねられたくない俺のために、頑張ってくれ。