ダンジョン攻略フィナーレ《1》
「盾、受け!! その後一撃!!」
俺が土龍を操る隣で、カロッタの指揮の下、聖騎士の内頑強そうな盾を構えている者達が暴れるワームの尻尾を数人掛かりでガードし、盾の裏にいた残りの聖騎士達が一気に飛び出し、受け止められ一瞬動きが止まったワームに一撃を加えている。
堅実な攻撃だな。
ただ、この調子じゃ大したダメージは与えられ無さそう――って言っても、俺が土龍を暴れさせている以上、こういう攻撃の仕方をするしかないのか。
冒険者の三人は、さっきまでギャーギャー騒いではいたが、今はグリファが先頭に立って盾役を熟し、レイエスが弓で近付いて来るスケルトンなどの排除を行い、そしてルローレがメイン火力として威力が高めの魔法をワームに放っている。
なるほど、レイエスとルローレの二人の時はルローレが援護に回っていたが、こういうデカい敵が相手だと彼女がアタッカーになるのか。
――このワームの厄介なところは、ただのワームではなく、『アンデッド』のワームであるということだ。
アンデッドの最大の特徴として、すでにHPが全損しているのに、活動しているということが挙げられる。
じゃあそのまま死んどけよ、って話ではあるのだが、魔力で操られたり、生前に抱いた強烈な怨恨の念が魔力と混ざり合って蘇ったり、もしくは完全な偶然から、などで生まれてくるのがアンデッドであるらしい。
ダンジョン産の魔物はどうなのか知らんがな。ウチのレイス娘達だって、強い恨みの念から生まれるのがレイスであるはずなのに、これっぽっちも邪悪さなんてないし。
このダンジョンのレイスは、普通に生者に対し敵意満々なのにな。
とにかく、そう言う訳なので、アンデッドは魔物に分類される存在ではあるが、HPが全損している以上普通の魔物とは違い、生物とは言えない異色な存在である訳だ。
生物じゃないから、頭とか心臓辺りとか吹っ飛ばしても普通に活動するし、ヤツらが体内に保有する魔力が無くなるまでは、永遠に動き続けることが出来る。
故に、無力化するには、自身の魔力で上書きして支配下に置くか――バラバラにするか。
この巨体を魔力で縛るのは流石に骨が折れるだろうから、狙うは後者。
「ネルッ、土龍で腐れ虫の動きを一瞬止める! そん時に、一発どでかいのをぶち込むぞ!!」
俺は、土龍を操作しながら、鳴り響く轟音に負けじとネルに向かって大声をあげる。
「了解!!」
聖騎士で唯一隊列に組み込まれていない彼女は、勇者らしい機敏さを見せ、一人だけ立体〇動装置でも装着しているかのような三次元戦闘でワームに聖剣の斬撃を食らわせている。
飛び散る瓦礫や、土龍とワームの身体を足場にしての、三次元戦闘だ。
聖剣にはすでに何か魔法を付与しているらしく、少し前にレイスを攻撃していた時のように淡く光を放っており、斬撃を放つ度光が周囲に飛び散って、超絶カッコいい。
ウチの嫁さん、可愛い上にカッコいいとか、敵無しじゃねーか。
「カロッタ、グリファ、そう言う訳だ、攻撃するならそこで一気にやるぞッ!!」
「了解した、合図は任せる!!」
「オーケーだが、おじさん達、なるべく早く合図出してくれると嬉しいかなって!!」
打てば響く返事をするカロッタに対し、必死な様子で言葉を返してくるグリファ。
「おぉ、そうか、まだまだ余裕か! じゃあ、もうちょっとグリファ達には正面張って頑張ってもらおうかな!」
「おいレイエス!! お前の師匠、とんでもねぇドSなんだが、どうにかなんねぇのか!!」
「残念だがリーダー、師匠に物を言って聞かせるのは、嫁さんである勇者の嬢ちゃんじゃないと無理だと思うぞ!!」
全く以て、その通りである。
――ま、冗談はこれぐらいにしておいて、俺もヤツを仕留める算段に入ろう。
『――――ッッ!!』
言葉で表せないような咆哮をあげるワームは、怒り狂ったように暴れまわりながら、牙が何本も生えた気色悪い口で、土龍の首筋の辺りに噛み付く。
普通の生物ならば、首筋は弱点になり得るだろうが……残念ながら、お前と一緒で、俺の土龍も生物じゃあねーんだ。
「抜けろッ!!」
俺の指示と同時、噛み付かれた首から先がボロボロと崩れ落ちて頭部がただの土くれに戻り、そして土龍の胴体がワームから逃れる。
突然、土龍の頭部が無くなったため、ワームの無数の牙が空を切り、一瞬土龍の存在を見失う。
その隙は、大きい。
頭部を失い、胴体のみになった俺の土龍だが――コイツは、土だ。幾らでも元に戻る。
数瞬もせずに破損部に新たな頭部が形成され、隙を見せたワームの頭上から牙を突き立て、そのまま地面に叩き付ける。
押さえつけられたワームは、今までと同じように思い切り暴れ出そうとするが……そう簡単に、自由にさせる訳ないだろう?
「行けッ!!」
更に二体、一体目よりは小型だが、新たに土龍を生み出した俺は、ワームの身体の真ん中付近、そして尾の先へと走らせ、食らい付かせると同時龍の姿を枷に変化させ、ヤツの動きを阻害する。
ワームが、固定されて動けなくなる。
「さ、皆々様、お待ちかねの解体の時間だ!! あの腐れ虫を、もっかい死体に戻してやれッ!!」
『オォ!!』
俺の合図と同時、待機していた者達が一斉に攻撃に動き出す。
まず飛び込んできたのは、ネル。
「ハァッ!!」
上段に聖剣を構え、一足飛びでワームの懐まで飛び込み、魔力を大量に流し込んだのか一際強烈な光を放つ刃で斬撃を放つ。
まるで爆発するかのように肉片が飛び散りながら、ワームの身体に刻まれる特大の斬り傷。
「オラッ!!」
次に続くのは、俺。
轟滅の魔術回路二つを発動して、ワームをタコ殴りにする。
ネルの場合は、『爆発するかのような』だが、俺の場合はそのまま『爆発』し、ワームを爆散させ焦げ肉を量産していく。
「シッ――」
さらにそこにカロッタが突っ込み、一撃の威力は俺とネルに遠く及ばないが、しかし一秒の間に無数の斬撃を放って、俺達二人によって抉られていくワームの傷を拡大していく。
聖騎士連中と冒険者三人組は、それぞれ一丸となって同じ個所を攻撃し、個々ではそこまでの威力を出せずとも、集中することで確実なダメージを与えている。
各々から繰り出される、攻撃の嵐。
そうして俺達は、しばらくの間、身動きの出来ないワームに群がり続けた――。
* * *
「フゥ……何とかなったな……全く、おっさんの身には、これはちと辛いぜ」
両手を膝に突き、疲れたように「ハァァー……」と大きく息を吐き出すグリファ。
――俺達の横に転がるのは、無数の肉片にバラされ、動かなくなったワーム。
今は完全に沈黙しているが、コイツ、この状態でもしばらくは動いていたからな。 気持ちが悪いことこの上ない。
全く、これだからアンデッドは。死体ならそのまま死んどいてくれ。
「さて、ワームを倒せたのはいいが、肝心のこの墓地の出口は……」
「……多分、あれだな」
俺が指差す先にあるのは――扉。
多少、意匠に違いはあるが……我が家の、真・玉座の間に繋がる扉と、同じようなサイズと形をしている。
恐らくは、この先に、このダンジョンにおける玉座の間があることだろう。
「……間違いない、あの扉、前回魔王のいる場所に繋がっていた扉だ」
グリファが、コクリと頷いて俺の予想を肯定する。
「ふむ……ようやくここまで来たか。では、一度ここで小休止としよう」
「……この墓場の中でか?」
「風情があって良いだろう?」
ニヤリと笑って、そう言うカロッタ。
「風情ね……リアルな肉片がそこらにゴロゴロ転がってなければ、多少はその言葉に同意しても良かったんだが」
「そうか、見解の違いだな」
内心じゃあちっとも風情があるなんて思ってないくせに、しれっとそんなことを言う女騎士に、苦笑を溢す。
頼りになる隊長さんだことで。
「――と、そうだ、カロッタ。魔王討伐に関してなんだが、一つ頼みがある」
「ほう? 聞こう」
怪訝そうに片眉を上げる彼女に、俺は言葉を続けた。
「――魔王討伐、俺とネルだけでやらせてほしい」




