ダンジョン攻略開始《3》
ゴースト〇ップは、とても温かくハートフルな、コメディ映画です!
この夏、暇を持て余しているそこのアナタ、是非とも一度見てみよう!(ニッコリ)
「キシャアアアア!!」
「うるせぇ死に損ないがッ! もっぺん死んでろボケナス!!」
喉なんてないくせに、威嚇のような声をあげるデカい四足歩行の骨トカゲの鼻っ面に、轟滅を叩き込む。
インパクトの瞬間、仕込んだ魔術回路二つ、『重量倍増』と『爆裂』を発動することで、俺の一撃は致命の一撃と化し、骨トカゲの頭部が成す術なく爆散する。
頭部を失った骨の図体は、そのままバラバラと音を立てて崩れ落ちた。
「おいおい……仮面のあんちゃん、スケルトンサラマンダーをワンパンでぶっ殺しやがったぞ。アイツって確か、戦災級の魔物だったよな?」
「……凄まじいわね」
呆れ混じりでそう言うレイエスとルローレに、ネルが「あはは……」と笑いながら言う。
「あー……いつもは彼も、もう少し慎重に戦うんですけどね。まあ、戦災級程度なら彼にとって警戒する相手じゃないし、多分、憂さ晴らしをしてるんだと……」
「憂さ晴らしでワンパン退場になるスケルトンサラマンダーがすっげー哀れだな……つか、多分階層主相当の相手のはずなんだが……」
「あ? これが階層主?」
魔術回路の発動を切った轟滅を肩に担ぎ上げ、俺は怪訝な表情でレイエスに問い掛ける。
階層主というのは、一言で言うと中ボスだ。
ウチのダンジョンなら、リルがこれに相当する。
けどコイツ、魔境の森でも南エリア相当の強さしかねーぞ。
これで中ボス相当、リルと同じって言われると、流石に拍子抜けだ。
「言わんとすることはわかるぜ。確かに階層主にしては若干弱めの相手じゃああるんだが、その代わり同程度の強さを持つヤツが要所要所で結構な数配置されてやがるんだよ。……つっても、あんちゃんみたいにワンパンでぶっ殺せるような相手じゃないことだけは確かだが」
ふーん……質じゃなくて、数を重視した結果っつー訳か。
……まあ、このダンジョン、相当入り組んでいて魔王に至るまでの道が複数あるようだし、それら全てを守るとなれば、そういう方針もありなのかもしれない。
と、彼らと会話を交わしている間に、放っておいたイービルアイがこの先の様子を捉え、俺のマップを埋めていく。
「チッ……ダメだ、こっちは行き止まりっぽいな。隠し扉なんかがあるんなら、流石にわかんねーが」
「……何で見てねぇ先の道の様子までわかんだって言いてぇところだが、あんちゃんがそう言うなら、そうなんだろうな……」
レイエスの言葉に、俺は特に何も言わず、ただ肩を竦める。
そりゃあ、こっそり隠密を発動可能なタイプのイービルアイを放っておいたからな。
おかげで、このダンジョンのマップもどんどん埋まってきているのだが……さっきから行き止まりに当たってばかりで、ほとんど先に進めていない。
どうも、前回冒険者諸君が攻略したルートが、全くの別物になってしまっているらしい。
恐らくは魔王のヤツが危険を感じ、DPを消費して道を変えたのだろう。
もしかしたらその可能性もあると、想定の範囲内ではあったのだが、そのせいで当初の予定を変更せざるを得なくなってしまっため、現在二手に分かれて探索を行っている。
聖騎士連中と冒険者パーティのリーダーグリファを連れたカロッタ達で一グループ。冒険者パーティの残り二人、レイエスとルローレ、そして俺とネルで一グループだ。
なので、こっちは少人数でのルート探索となってしまっているのだが、まあ俺とネルがいればむしろ戦力過剰ですらあるので、全く問題はない。
「そうすっと……可能性としちゃあ、聖騎士の方々の方がアタリか、あんちゃんの言う通りどっかに隠し通路があるか、だな。後者の場合だと、クソ面倒くせーことになりそうだ」
「だろうな」
この広さのダンジョンを、隠し通路まで気にして捜索するとなりゃあ、相当骨だぞ。
どうしたもんかと思案していると、レイエスはいつもの飄々とした表情を少し真面目なものに変え、口を開く。
「……あんちゃん、この先が行き止まりってのは、間違いなさそうなんだな?」
「あぁ。少なくともどこかに繋がる道はなかったな」
「……この先は行き止まり。が、どういう訳かこの場所を階層主相当の魔物が守っていた。となると……この辺りに、何かあるかもしんねぇな。攻略者からは隠したい、けど守りを手薄にはしたくないと魔王が思っているような、何かが」
「へぇ……?」
ニヤリと笑みを浮かべ、言葉を続けるレイエス。
「迷宮攻略ってのは、要は化かし合いだ。魔王と攻略者、どっちが上等な頭脳を持ってるのかっつーな。が、魔王側と違って俺達の方にゃあ、有利なモンが一つある。長年冒険者の仲間達が積み上げて来た、知識っつー大きな財産だ」
「……なる程な」
冒険者が積み上げて来た、ダンジョン攻略におけるノウハウってもんか。
そりゃあ……ダンジョン運営する側の俺としては、是非とも知っておきたい知識だな。
「ま、見てろよ、あんちゃん。今度は俺が、冒険者の仕事ってのを、見せてやるよ」
感心した様子の俺に、レイエスはグ、とサムズアップしてから壁に手を突き、真剣な表情で周囲を子細に調べ始め――。
――数十分後。
「特に何もなかったわ」
「何やねん」
思わず、秒でツッコミを入れる俺が、そこにいた。
「……レイエス、今アンタのせいで、冒険者の株が相当下がったわよ」
ジト目でそう言うルローレに、レイエスは若干慌てた様子で言葉を返す。
「しゃ、しゃーねーだろ! こればっかりは、毎回思い通りに進む訳がねーんだからよ!」
「あはは……ま、まあ、万事上手く行く、って訳じゃないことは、僕達もよくわかってますから……」
困ったような笑いを溢しながら、フォローに回るネル。
「ほら、年下の女の子にフォローされちゃってるじゃないの。情けないわね」
嘆息するルローレに、形勢不利と判断したのか、レイエスは誤魔化すようにゴホン、と一つ咳払いをする。
「とにかく! これで、俺達の方はハズレだってことがわかったな。聖騎士の姉さん達が戻って来るのを待つか?」
「俺達は素人だから、どうするかの判断はアンタらに任せるぞ」
「そうですね、慣れているルローレさんとレイエスさんにお任せしたいかと」
俺とネルの言葉に、二人は顔を見合わせる。
「……私は、もう少し私達だけで探索してもいいと思うけれど。戦闘には今、大分余裕があるし」
「余裕っつっても、俺ら全然仕事してねぇけど。……が、そうだな、まだ大して消耗もねぇのも確かか……。なら、お二人さん、もう少しだけ頼らせてもらってもいいか?」
「了解、任せろ。ここの魔王を俺達でもっと困らせてやろう――って」
その言葉途中で俺は、肩に担ぎ上げていた轟滅を下ろし、前に構える。
「ネル、構えろ」
「う、うん!」
彼女もまた、感じ取ったのだろう。
言われた通りに大人しく武器を構え、険しい表情を浮かべる。
「っ……敵か?」
「……その感じだと、ちょっと厄介そうね」
俺達の様子を見て、すぐに察したらしく、同じように構えを取るレイエスとルローレ。
マップに映り、索敵スキルで感じ取った、大量の敵性反応。
――ダンジョンモンスターの襲撃である。