ダンジョンへ《2》
「――この街もすっかり馴染みになっちまったな」
俺の眼前に広がるのは、例の辺境の街、アルフィーロ。
今回も、ネルから伝えられた待ち合わせ場所が、この街だった。
ここから馬車に乗り、目的のダンジョンがある地域まで向かうとのこと。
まさか、こんな何回もこの街に来るようになるとは。
ここに繋がる扉も設置したことだし、これからも幾度か来ることもあるだろう。
そうして、街の外から関所に向かっていると、見覚えのある鎧を身に纏ったヤツらが視界に映る。
「あ、おにーさん!」
その中の一人、軽鎧を身に纏った少女――ネルがこちらに気が付き、手を振る。
「よ、ネル、元気そうだな。ちょっと前に声は聞いたが、こうしてお前の顔を直接見られると、やっぱり嬉しいもんだな!」
「ぼ、僕も嬉しいけど……あの、おにーさん、皆もいるから、そういうのは後で……」
彼女の頭をクシャクシャ撫でていると、恥ずかしそうにチラチラと周囲に視線を送るネル。
きっと、他の聖騎士達の視線が気になるのだろう。
相変わらず照れ屋で可愛いヤツだ。
「よし、わかった。じゃあ、後でもう一回やろう。お前が苦笑いを浮かべるぐらい」
「いや、苦笑いを浮かべるぐらいはやめてほしんだけど……」
ネルは、呆れたような、しかしどことなく楽しそうな表情で、そう言った。
「この青年が、仮面の英雄……?」
と、横から聞こえて来たその言葉にハッとした俺は、後ろを向いてアイテムボックスから仮面を取り出すと、それを顔に当てがい、再び前を向く。
「青年? ハハ、何を言っているのかわからんな。俺は年齢不詳、怪しい仮面の男だぜ? 決め付けで話すのは良くないな」
「……おにーさん、今更誤魔化しても意味ないでしょ……というか、むしろもう、仮面付けてる方が目立っちゃうと思うよ?」
あ、そう。
普通に仮面のことを忘れていたが……まあ確かに、もはや仮面を付けている時の方が目立つか。
「……仮面、お前は相変わらずだな」
呆れたような苦笑を浮かべるカロッタに、俺はいつものピエロ面を外しながら肩を竦めた。
「それより、そっちの人達を紹介してもらっても?」
「いいだろう。左から紹介しよう――」
俺は、聖騎士達と軽く自己紹介を交わす。
聖騎士達は、ネルとカロッタを抜いて、他五人。二人女で、三人男だ。
ステータス的には、ネルとは比べるべくもなく、またカロッタにも及ばないが、普通の戦士よりは二回り強い感じだな。
「ダンジョン攻略するって割には、結構少ないんだな?」
「別で仕事が入っていてな。そちらにも人員を割いているという理由が一つと、ネルと私、そして仮面がいれば、人数が少なくともどうにかなるだろうという判断だ。だから、正直なところ来てくれて助かったぞ」
「ま、ダンジョン攻略は俺も興味があってな。……あー、その魔王は、そんなに強いのか?」
「強いのは、恐らく強い。魔王討伐のため、特別に組まれた冒険者のパーティが、一度失敗して帰ってきている。油断出来るような相手ではないことは確かだろう」
ほう、それは、中々楽しみだ。
「あれ……おにーさん、エンちゃんは連れて来てないの?」
「あぁ。今回は留守番してもらった」
そう、今回は珍しいことに、エンを連れて来ていない。
ネルから事前に、ダンジョンにそこまでの広さがないということを聞いていたからだ。
エンは超強くて超可愛い、最高の武器ではあるが、如何せん非常に長い。どうしてもその場の環境に左右されてしまう。
故に、場が狭く、そして他に聖騎士達がいる今回は、思う存分に振り回すのは確実に無理だろうと、断腸の思いで置いてきたのだ。
「エンというのは?」
カロッタの質問に、ネルが答える。
「おにーさんの剣の名前です。ほら、王都危機の際にもおにーさんが持ってた、刃のとっても長い剣ですよ」
「あ、あぁ、あれか。そう言えば持っていたな、そのような剣を」
そう言えば、カロッタはちょっと前に俺達が王都へ行った時、エンとは会ってなかったっけか。
「一応言っておくと、エンは愛称で正しくは『罪焔』だ。超絶可愛い大天使だから、機会があったらアンタにも会わせてやろう」
「……天使?」
「違う。大天使だ」
「……剣が?」
「剣が」
「…………そ、そうか。まあ、世の中には色んな趣味の者がいるからな」
おう、カロッタさんよ。そんな顔でこっちを見ないでくれるか。俺が言っていることは全て真実だからな。
そんな、無機物に名前を付けて、可愛がっている変態、みたいな目をするのはやめてもらおう。
アンタもきっと、一目見ればその堅物の顔が緩まること間違いなしやぞ。
「コホン……とりあえず、人も揃ったことだ。さっそく目的地に向かいたいのだが……仮面、構わないな?」
「いいぞ。こっちの準備は全部整ってる」
ダンジョン攻略と聞いて、必要になりそうなものは粗方用意してある。
それはもう、大量のアイテムを、だ。
クックック、見知らぬ魔王よ。俺がやって来るまで、震えて待つが良いわ。
「了解した。――お前達、馬車の準備を」
『ハッ!』
カロッタの言葉に、聖騎士達が一斉に動き出し、関所の向こう側から馬車を二台持って来る。
側面に彼らの鎧に彫られているものと同じ紋章が彫られ、中々立派な造りをしている馬車だ。
「仮面、お前は前に乗ってくれ。――では、行くぞ!」
* * *
「そういや、一つ聞きたいんだが、何で俺を呼ぶことにしたんだ?」
揺れる車内で、俺は顰め面で自身の手札を見ているカロッタに、そう問い掛ける。
確かに、ネルは今では俺の身内だし、以前一緒に色々と動いてはいるが、それでも俺は、聖騎士の彼らにとって『部外者』だ。
助っ人が欲しかったのだとしても、そんな部外者に仕事を頼むものだろうか?
「あぁ、そのことか。こう言っては何だが、元々は我々も、外部の者に助っ人を頼むつもりは無かったのだが……どういう訳か、上層部から仮面を頼るといいという達しが来てな。お前に実力があることはわかっていたから、その通りにしたのだが……」
カロッタもまた、不可解そうな様子でそう答える。
……今の言葉で、大体わかった。
アイツだ。元軍務大臣のクソジジィだ。
アイツが裏で手を回して、打診させやがったんだ。
「……俺が守るって言った以上、こういうところでも仕事をしろってか」
そりゃ、ネルのためなら何でもしてやるけどよ。
……やっぱりあのジジィ、殺しておけばよかったかな。
「どうかした、おにーさん?」
「……何でもねぇ、気にすんな。――カロッタ、アンタの番だぞ」
「む、う、うむ……では、これを――ぬっ!?」
「あー、カロッタさんよ。そんな顔をすると何を引いたかバレバレだぞ」
「アハハ……カロッタさんのそんな顔を見るのは、初めてですね……」
カロッタの様子に、苦笑を浮かべるネル。
ちなみに、今やっているのはババ抜きだ。
ダンジョンの他の面々なら、数字も絵柄も全て覚えているためトランプのどのゲームでも遊べるが、カロッタはそうじゃないからな。
そして、結局その後、数回ターンが回り、負けたのはカロッタだった。
「簡単なようで、中々奥が深いゲームだな……よし、どの模様がどの数字かは、覚えたぞ」
「え、マジで?」
まだババ抜き一戦しただけなんだけど……?
「今の勝負はいいようにやられてしまったのでな。ここらで、挽回せねば」
「……これは?」
「11だ」
俺が持っている、「J」のカードを見てそう答えるカロッタ。
うわ、すげぇ……どんな脳味噌してやがるんだ、この女騎士。
一つの騎士団を率いる身となれば、これぐらいは当たり前なのだろうか。
「……よし、わかった。カロッタ、アンタにカードの世界がそんなに甘くはないと言うことを、しっかりと教育してやろう!」
俺達は、我が家でよくゲームをするが……それは、ただのゲームじゃない。
異世界の住人は、前世の人間よりも、ハイスペックなのだ。
相手の機微を読み、心拍を感じ、その顔色の変化を見て相手の手札を予想することが可能なのである。
俺とレフィとかがゲームをする時なんかも、大体いつも、その読み合いで勝負していたりする。
まあ、アイツはすぐに顔に出るから、弱いんだけど。
そんな簡単に、攻略が出来るものでもないと、思い知ってもらうとしよう!
「ほう、楽しみだな! 是非ともその真髄、見せてもらうとしよう!」
ニヤリと笑みを浮かべるカロッタ。
そして俺達は、次の勝負を開始した――!




