閑話:ガチャ回《2》
それからダンジョンに戻った俺は、ネルに一万DPを六回程回させたのだが、その結果がこれだ。
・スキルスクロール『武具創造』
・スキルスクロール『意識誘導』
・無限の斧槍
・氷獄刀
・王毒牙
・鍋のフタ
……とりあえず、まず一つツッコミどころとして、やっぱり1万DPガチャでも鍋のフタは出るのな。
一万DPと言えば、魔境の森の、最も弱い南エリアの魔物を大体50体分ぶっ殺すのと同じぐらいの価値だ。
中くらいの強さを持つ東エリアの魔物で、20体分くらい。最も魔物が強い西エリアだとピンキリ過ぎてわからん。
殺した魔物をDPに変換した値も換算すると変ってくるのだが、まあ大体こんな感じだ。我が家の者達ならば、十日とちょっとぐらいは暮らせる額である。
……随分価値の高いフタだな。高級品だ。やったぜ。いらねぇ。
ネルでも、こういうの出すんだと思って、実はちょっと安心した。
ただ、それ以外のものは――相当良い。
まず、スキルスクロール『武具創造』。
これ、何と固有スキルのスキルスクロールであるらしい。
俺の『武器錬成』と名前が似ているが、仕様はかなり違う。
物を生み出すという点は同じだが、こちらは『武具』なので、武器のみならず防具も生み出すことが出来る。
そして、このスキルで生み出すことの可能な武具は時間制限があり、一定時間が経つと消失する。
生み出すことが可能な武具は、何でも。
今まで見たことのある武具でも、新たに考え付いた武具でも、魔力が許す限り幾らでも生み出すことが出来るのだ。
俺の武器錬成と同じく、イメージが強固でないと創出に失敗することもあるそうだが、つまりこのスキルは、状況に応じて最適な武装を出すことを可能にするスキル、というものだろう。
ふむ……扱いはかなり難しそうだが、ポテンシャルは相当高いんじゃないか?
そもそもとして、固有スキルだ。並の努力では習得出来ない固有スキルで、弱いものを探す方が難しいだろう。
熟練すれば、かなり凶悪なスキルになる未来が見える。
まだカタログで確認出来てないので詳しい値段はわからないが、固有スキルは軒並み消費DPが高い。一番安いものでも三万DP以上する上に、しかも強力そうなスキルだ。
これ一つで、元が取れている可能性がある。
ただ……確かに面白そうなスキルではあるんだが、武器の扱いが下手くそな俺が、コイツを持っていても宝の持ち腐れだろうな。
よし、ネルにやろう。
そして、もう一つのスキルスクロール、『意識誘導』。
こっちは固有でも何でもない普通のスキルで、発動すると敵の意識を任意の場所に集中させることが出来るようだが……これ、いったいどうやって使えば――。
……いや、待てよ?
つまりこのスキルは、マジシャンがやるような、観客が右手に集中している間に左手でタネを仕込む、的なことが出来るってことだろ?
戦闘でも同じように、敵の意識を一か所に集めている間に、予想外の位置からの攻撃を仕掛ける、なんてことが出来るようになるかもしれない。
……使い道を思いついた。
後で、リルを連れて検証してみるか。
次に『無限の斧槍』、『氷獄刀』、『王毒牙』は名前から察せられる通り武器だ。
無限の斧槍は、『伸縮自在』『サイズ変更』の魔術回路が組まれ、槍部分の長さ、斧部分の刃の大きさを自由自在に変えることが出来る。
氷獄刀は、『氷獄』の魔術回路が発動可能で、斬ったものを凍らせ、動きを著しく阻害させることが出来る。エンに組み込まれている『紅焔』の、氷バージョンと言えるだろう。
最後の王毒牙は、ナイフだ。数多ある毒の中でも一等やべー『王毒』で斬った相手を侵し、死に至らしめる。恐らくこの三つの中で、一番価値が高い。
一応、似たようなものなら俺でも作ることが出来るレベルの武器だし、ネルの聖剣やエンの方がレア度的には高いだろうが、それでも全て品質がA+~S-だ。一万DP以上の価値はあるはず。
そして、どうも武器オタクの気質があるらしい我らが勇者様は、ここで大興奮だった。
「おお、おお! おにーさん、このガチャっていうのは、こういう武器も出るんだね!」
「お、おう、まあな。多分何でも出るぞ。……よし、ネル、スキルスクロールの『意識誘導』の方は俺が貰っていいか?」
「え? うん。というか、全部おにーさんのでしょ?」
「いや、『武具創造』のスキルスクロールと武器群の方は、お前に全部やるよ」
「えっ、いいの!? け、けど、対価を払ってくれたのはおにーさんだし、武器は自前の聖剣とおにーさんに貰った『月華』のナイフがあるし……置き場所もちょっと困っちゃうし……」
「俺も多分使わねーから、欲しいならやるよ。置き場所は……前に俺がやった武器とかはどうしてるんだ?」
「お城の方の、僕の部屋に飾ってあるけど……」
「じゃ、そこに放り込んでおけ」
「……い、いいんだね? ホントに貰っちゃうよ? 返してって言っても、返さないよ? スキルスクロールも、使っちゃうよ?」
「おわっ、あ、あぁ。いいって」
グイと顔を近付け、興奮しながら念を押して来るネルに、俺は若干気圧されながら頷く。
お前……そんな目を輝かせて言われたら、誰も断れんぞ。
「……な、なら、貰っちゃおっかな! ありがと、おにーさん! ――あ、おにーさんこれ、この反りのある片刃の剣! これエンちゃんと同じ種類の武器だよね!」
「そうだな」
ニマニマしながらそう言うネルに、俺は苦笑を溢しながら相槌を打った。
オタクめ。
時折、俺が武器錬成で作ったものをあんまり熱心に眺めてくるもんだから、すでに何個かくれてやったりしているので、知ってたけどさ。
……というか、ガチャで出したもの、結局ほとんどネルにあげちゃったな。
まあ、俺も有用そうなスキルスクロール一個ゲット出来たし、構わんだろう。
リルレベルの超大当たりは出なかったが……いや、それは高望みが過ぎるか。
初っ端に滝温泉出してくれている訳だし、これは勝利と判断するべきだろう。
「それにしても、流石勇者様だな、一個ハズレ引いた以外は全部当たりとは……」
末恐ろしい限りだ。
……今回出たものの半分が武器なのも、ネルが好んでいるから、という理由かもしれない。
ガチャの確率すら改変する、勇者の豪運……恐るべし。
「これは確かに、やっていると楽しくなっちゃうね……というか、これらと一緒に出て来た鍋のフタの存在感が物凄いね」
「あぁ、むしろレア物に見えるな」
と、ここまで出した物品の確認をちょうど終えたところで、洗濯かごを持ったリューが外に繋がる扉から現れる。
「フゥ、お洗濯終了っす。――あれ、何すかこれ? またご主人が作ったものっすか?」
ガチャで出したアイテム群を見て、不思議そうに首を傾げるリュー。
「お、リュー。間のいい時にやって来たな。よし、お前も回せ」
コイツの幸運値は一般人相当だが、せっかくだ。
「え? な、何をっすか?」
「これだ、これ。ここ押してみろ」
自分が何をさせられようとしているのかすら、よくわかっていないリューだったが、彼女は「ま、まあ、わかったっす……これっすね?」とガチャの一万DPの項目をタップし――。
「おお……? 何か出てきたっすね。これは……これは、何すか?」
「……おにーさん、これ何?」
揃ってこちらを見てくる二人。
「これは……」
高級昆布:出汁にするととても美味しい。
品質:A+
「…………昆布、だな」
ガチャによって、次に出て来たのは、紛れもない昆布だった。
しかも、ただの昆布ではなく、高級な昆布らしい。
高級昆布、高級昆布ね。うん。色艶が良くて素敵ね。
「……リュー」
「な、何すか、ご主人? 何でそんな、慈しみの顔を浮かべてウチの方を見るんすか?」
「お前はやっぱり、こっち側の存在だな……」
「何か今、とても不本意な納得のされ方をした気がするんすけど!?」
この、何とも言えない絶妙な微妙さは、こちら側の存在だよ、リュー君。
絶妙な微妙さとは、これ如何に。
「コンブって?」
「あ……そう言えばそうっす。この黒いの、そんな名前だったっす。確か、お鍋に入れて出汁を取ったりする食材っす。いつかレイラとご主人が使ってたっすね。お鍋がさらに美味しくなるんすよ」
「へぇ、そんなのがあるんだ。食べてみたいや」
「なら、今日の晩ご飯はお鍋にするのはどうっすか? レイラ、晩ご飯の献立をどうするか悩んでたから、まだ準備していないはずっすよ」
「む……それはいいな。よし、じゃあ今日は鍋にするか。本当はもうちょっと回すつもりだったんだが……時間もちょうどいいし、ここらでガチャはやめて、晩飯の準備をしようか」
「あ、僕も手伝うよ」
「ウチもやるっすよ!」
そして俺達は、三人で一緒にキッチンに向かったのだった。
――ちなみにその後、昼寝から起き出してきたレフィに、せっかくだからと一回だけ一万DPガチャをやらせてみた結果……。
・タワシ
「お前……やっぱりオチ担当はお前だな」
「オチ担当!?」
それからしばらく、レフィが拗ねた。
ガチャ回に見せかけたネル強化回。
もうちょっと回させるつもりだったんですが……ガチャの景品が中々思いつかなかったから、仕方ないね。
またその内、ネルが帰って来た時にでもガチャはやると思います。
……作者が忘れなければ。




