閑話:???
一年に一度だけ進む物語……斬新!(全く斬新ではない)
書きたくなっちゃったからね、仕方ないね。
よくわからない方は、141話を読み返していただければ……!
「のう、優希」
何をするともなく、ただぐでーっと畳の上に寝転がっていたレフィが、唐突に口を開いた。
「何だ、レフィ」
同じくぐでーっとベッドの上に寝転がり、何度も読んだことのある漫画をパラパラ読んでいた俺は、テキトーに返事をする。
「暇じゃから、何か面白いことをやれ」
「おう、お前、そういう無茶ぶりが一番困るって知ってるか? 暇なら、お前がやれよ」
「何を言う。お主は儂の契約者、つまり主と言うべき存在じゃろう? ならば、何か面白いことをやって、使い魔を楽しませるぐらいの甲斐性を見せるがよい」
「逆だろ。むしろお前こそ俺の使い魔なんだから、主人を喜ばせるような、何か面白いことをしてみせろよ」
「ほう、高位存在たる儂を小間使い扱いするか。いい度胸ではないか、優希。三千世界を見渡しても、儂にそんな舐めた態度を取るのはお主ぐらいじゃて」
「いや、お前が先に自分のこと使い魔だっつったんだろうが……」
全く感情の籠ってない様子でそんなことを言うレフィに、俺は呆れた声を漏らす。
……この、脳みそを介していないようなテキトーな会話から察するに、本当に暇なのだろう。
まあ、実際暇してるんだがな。
ウチにあるゲームは二人でやり尽くしたため、正直もう飽きてやりたくないし、どっか遊びに行くような金も大して持っていない。
いや、全くないということもないのだが、特に行きたいところもないし――あ、待てよ、そういえば……。
ゴロンと身体を転がし、床に置かれていたスクールバッグの中に手を突っ込んだ俺は、しばらくゴソゴソとやってから、お目当てのものを見つけ出す。
「ふむ……よし、レフィ」
「何じゃ」
「期間限定のタダ券があった。温水プールに行こう」
「……ぷーる?」
怪訝そうに、レフィは首を傾げた。
* * *
「ほう……ここがぷーるとやらか。初めて来たが、なるほど、水浴びが出来る施設なんじゃな」
「あぁ、しかもここ、水が温かいんだ。だから、年中入れるって訳」
「じゃがお主、わざわざこんな無駄に広くてデカいところに来ずとも、家に湯浴みが出来る小部屋があるじゃろう。何故わざわざこんな変なものを着て、こんなところまで来たんじゃ。広い風呂に入りたいなら、いつもの銭湯でもいいじゃろうに」
「いや、湯浴みに来たんじゃないからな」
「む? お主と時折行く、銭湯とは違うのか?」
「違う。銭湯は身体を洗う施設。こっちは水の中で身体を動かして遊ぶ施設だ」
どうも、風呂と勘違いしているらしいレフィに苦笑を溢しながら、俺は違いを説明する。
――俺達がやって来たのは、我が家から二つ程隣の駅にある室内プールである。
つい最近出来たばかりで、南国風に飾り付けされた内部は結構広く、ウォータースライダーや大きめの流れるプールなどもあって中々に楽しそうなのだが……ぶっちゃけ、あんまり人がいない。
ここ、『都会で楽しめる総合レジャー施設』などというコンセプトで建てられたらしいのだが、総合とあるようにプールの他にも幾つか遊べる施設が揃っているため、客が分散しているのだろう。
そこそこお値段するので、俺もタダ券が無かったら、来ようとは考えないような場所だ。
ネズミの国、程ではないが、まあそのような場所だと思ってくれればいい。
ちなみに、俺は自分の水着を持って来たが、レフィの分は、そんなに高くないビキニをここに着いてから買ってやった。
……レフィはスタイルが良いし、顔立ちも神秘的という言葉がピッタリ来てしまうぐらい整っているし、煌びやかで栄える銀髪をしているためビキニはとてもよく似合っているのだが……。
「む、何じゃ優希、こっちをジロジロ見おって。フッ、儂の肢体に欲情でもしおったか?」
「お前、スタイル良いのは認めるけど、貧乳だからむしろなんか可哀想に見えるな」
「率直に言いおったなお主!?」
愕然とした様子で、レフィはツッコんだ。
いやぁ、だってねぇ……スタイル良いのに、ごく一部だけ凹んでるんだもん。
そのせいで、殊更胸の凹みが強調されてて、少し哀れな感じだ。
「凹んではおらんわ!!」
あ、やべ、声に出てた。
「くっ……此奴、大分舐めた奴じゃとは知っておったが……! おのれユキ、覚悟せいよ!」
「ほう、覚悟とな。いったいどんな――っておわぁ!?」
突如、グオンと不自然にプールの水が盛り上がったかと思うと、俺の足を攫い、そのままプールの中へと引き摺り込まれる。
ドボォンと激しい音と共に水に叩き付けられ、視界が一瞬訳わからなくなる。
「――ぷはぁっ!! ばっ、おま、危ねぇだろ!? 思っくそ水飲んだじゃねぇか!!」
「フン、儂を舐めとるからそういう目に遭うんじゃ! 力の差を思い知ったか!」
ニタァ、と笑みを浮かべ、腕を組んだ仁王立ちでそう言うレフィ。
「この、ぐぼっ、相変わらずどうでもいいところでばがはっ、神力使いやがって……!!」
今もレフィが操作しているのだろう、俺の周囲の水が不自然に盛り上がったり、不自然に引いたりして波が起こり、俺をもみくちゃにする。
コイツ、調子に乗りやがって……!
多くの水を飲みながら、しかしレフィへの復讐を固く胸に誓った俺は、どうにかプール際まで近付いていくと――。
「くかかか、いい気味じゃ! やめて欲しくば、今日から儂のぼっ――!?」
――レフィの足をがっしと掴み、プールの中へと思い切り引っ張り込んだ。
ロクな抵抗も出来ず、驚愕の表情を浮かべたレフィは、そのままプールに顔面ダイブ。
激しい水柱があがる。
今のは非常に危険なので、良い子も悪い子も絶対にマネしちゃダメだゾ!
「――ぷはぁ!? お、お、お主、何するんじゃ!? 死ぬかと思うたわ!!」
「フハハハ! あーばよぉっ、とっつぁん!」
「あっ、待て優希、逃げるな!」
「バカめ、待てと言われて誰が待つか! プールの覇王、とは別に言われたことはないが、仲間内では一番泳ぐのが上手かった俺に追いつけると――って、はやっ!?」
まるでプールの水が彼女に味方しているかのように、レフィ自体はバタ足も何もしていないのにもかかわらず、魚雷染みた物凄い勢いでこちらに近付いて来る。
「泳げば逃げられるとでも思うたか、阿呆が!! こういう時、この国では飛んで火にいる夏の虫と言うのじゃったか!!」
「いや、ちょっと違うと思うけど!?」
必死に泳いで逃げる俺を、レフィは余裕の笑みを浮かべながら追いかけ回し――。
* * *
「――キ――ユキ。ほれ、起きろ。お主が言うた、一時間が経ったぞ」
覚醒していく意識。
数度瞬きをしてから、目を覚ました俺は、周囲の光景を認識する。
肩を揺すり、間近から俺の顔を覗き込むレフィ。
おままごとで遊んでいる幼女達に、困ったように苦笑しながら一緒に遊ぶネルと、ノリノリで遊ぶリュー。
何かしらの研究をしているらしく、真面目な顔で俺のあげたノートに書き込みをしているレイラ。
いつもと変わらない、いつもなら見ているだけで気分が良くなる光景だが……しかし今日ばかりは、俺は悔しい思いを抱いていた。
「くっ……おいレフィ、プール作るぞ、プール!」
「は? 起き抜けに何じゃ、急に」
向こうの彼女と全く同じようなしぐさで、怪訝そうに首を傾げるレフィに、俺は捲し立てる。
「クソッ、すげー楽しそうだった! 俺も皆とプールで遊びてぇ! だからこっちでも作るぞ!」
「い、いや、だから待て、どうしたんじゃ、急に」
「まずは、外に流れている川を塞き止めるか。自然環境……なんて考慮する意味はねぇな。川自体俺が作った人工物だし。ウォータースライダーは氷……じゃ冷たいから土魔法で作って、南国風の木は……実際にDPで生やすか。よし、よし! 全然行けるぞ!」
「あ、こりゃ何を言っても駄目じゃな。全く……わかったわかった。何でも手伝ってやるから。それで、プールとは何じゃ?」
「あぁ、プールってのはな――」
呆れ気味に溜め息を吐き出すレフィに、俺はグッと拳に力を込めて、プールの説明を始めた。