閑話:身の回りに女性が多いと、バレンタインは少し困る
レフィは、張り切っていた。
「フッ、今年こそ、彼奴に一杯食わせてやるわ!」
「おねえちゃん、気合いっぱいだね!」
グ、と拳を握り、意気軒昂な様子のレフィを見て、イルーナがニコニコしながらそう言う。
「おうとも! 去年は彼奴に、余裕な顔であやされてしもうたからな。今年こそは、儂の方が年上なのじゃということを、とくとわからせてやる」
「あれ、去年の聖愛の日に何かあったんすか? 結局、レフィ様は何にも作らなかったと記憶してるんすが……」
「あ、う、うむ、まあちょっとな」
不思議そうに首を傾げるリューに、一瞬だけしまった、という顔を浮かべてから、曖昧な言葉を返すレフィ。
「へぇ、ちょっと聞きたいかも。去年はまだ皆と一緒にいなかったからよく知らないし。二人だけで何があったのかな?」
「そっすね、気になるっす。ウチらの知らないところで、何があったんすか? その様子だと、結構面白いことがあったみたいっすねぇ」
ニヤニヤしながら聞いて来るネルとリューの二人に、レフィは若干顔を赤くしてから、誤魔化すように捲し立てる。
「とっ、特に何もないわ! それより、早く準備を始めるぞ! ユキを留めておくために、わざわざレイラが時間を稼いでくれておるのじゃ。あまり時間を掛けるのも悪い」
現在ユキは、『聖愛の日』である今日、彼に知られない内に菓子作りを終えるという女性陣の総意を受けたレイラによって、城の方で質問攻めにされているはずだ。
過分にレイラの知的好奇心を満たすという目的は含まれているだろうが、きっと彼女であればこちらが準備を終えるまで、きっちりと時間を稼いでくれることだろう。
そのレイラ自身は、今日を見越して前日すでに菓子作りを終えているため、問題ない。
恐らく、引き攣ったような困り顔を浮かべながら、瞳を爛々と輝かせたレイラの質問に四苦八苦答えているだろうユキの姿を想像し、レフィは少しだけフッと笑った。
「ま、そうだね。二人に何があったのかは、後で詳しく聞かせてもらうとして、今は皆でおにーさんを驚かせてあげよっか! いつも、僕達が驚かせられてばっかりだもんね!」
「そっすね! 確かにいっつも、ご主人にはしてやられてばかりっすから。たまにはウチらが驚かせてやるっす!」
「うん! おにいちゃん驚かせる!」
「おどろかせテ、よろこんでモらう!」
「……ん。主、喜ばせる」
気合の入った様子の彼女らの後ろで、レイス娘達が両手で力コブを作り、態度で気合いっぱいの様子を示す。
「うむうむ、その意気じゃ。儂らもまた、日々精進しておるのじゃということ、彼奴にわからせてやるぞ!」
そして彼女らは、『おー!』とそれぞれ張り切った声を上げ、菓子作りの作業に取り掛かった。
「……なぁ、君達」
「フッフッフ、どうじゃ、ユキ。美味そうじゃろう!」
「おにーさん、驚いてくれた? いっつも驚かされてばっかりだから、今度は僕達が驚かせてあげようと思ってね」
「ウチら、頑張ったんすよ!」
「すごい美味そうだし、すごい嬉しいし、確かに驚いたが……その、量にもちょっと、驚いたかなぁって……」
ユキの言葉に、テーブルいっぱいに乗る山盛りの菓子を見て同じ感想を抱いたレフィ、ネル、リューの三人が、サッと彼から視線を逸らした。
――その後、苦笑を浮かべながらも全ての菓子を食べ終え、しかし酷い胸焼けを覚えたユキが、トイレで一人延々と唸っていたことを、彼女らは知らない。




