閑話:クリスマススペシャル
「じんぐるべー、じんぐるべー! じんぐるおーるざうぇーい!」
若干調子が外れているが、しかしとても聞き心地の良い声で歌いながら、手に持った飾りを木に括り付けていくイルーナ。
その彼女の周囲では、人形に憑依したレイス三人娘のレイ、ルイ、ローが宙を漂い、同じように飾り付けを行っている。
そして、俺もまた彼女らの隣で、床においたかごの中に入っている飾りを拾い上げ、木に括り付ける。
「……シィ、すごい」
「えへへ、シィ、これ、とくいなの!」
俺を挟んでイルーナ達と反対側では、シィが身体を変化させて伸ばし、木の上の方を飾り付けており、それを見たエンが感心した表情を浮かべている。
「ねね、おにいちゃん、イルーナのところにも、ちゃんとサンタさん来てくれるかなぁ?」
「あぁ、もちろん来てくれるさ。イルーナはとってもいい子だからな」
そう言って俺は、イルーナの頭をポンポンと撫でる。
「あるじ、シィのところにもさたんさんキてくれる?」
「……エンのところにも、来る?」
「おう、勿論だ。お前ら程良い子なんて、世界中を見渡してもなかなかいないだろうさ。あとシィ、サタンさんじゃなくてサンタさんな」
それだと地獄の主が来ちゃいます。
ベタなボケをするシィに笑ってから、俺は飾り付けを続けた。
――今日は、クリスマスである。
そう、独身男性の敵、あのクリスマスである。
こちらの世界にクリスマスのようなイベントはないそうなのだが――いや、ネル曰くそれに近しいものはあるものの、日本のお祭り染みたクリスマスよりも海外のガチなクリスマスに近く、もっと堅苦しいものだそうで、一般にはあまり浸透していないらしい。
そんなの、面白くないだろう。
我が家の幼女組には、もっと楽しいことを色々と経験してほしいし、イベントごとはしっかり消費していかないとな。
故に、普段あんまり使わない天候設定も使用し、現在城の外の草原エリアに雪を降らせており、この真・玉座の間にももみの木っぽい謎の木を持って来て、クリスマスツリー代わりとして準備しているのである。
プレゼントの用意も、イルーナ達が見ていないところですでにしており、料理に関してはレイラを中心にリューとネルが今準備している。
ちなみにレフィは、さっきまでツリーの飾り付けを手伝っていたのだが、飽きたらしく俺達の作業をただ眺めている。
幼女組には、どんなものが欲しいか予め聞いておいたのだが、イルーナに「何か欲しいものってあるかー?」と聞いた時に、ノータイムで「おにいちゃんの寵愛!」って帰ってきた時は、流石にお茶を吹き出した。
我が家の住人達は、彼女らにいったい何を教えているのだろうか。
まあ、今までは俺にとってもクリスマスは敵であり、まともに祝ったことなど前世の小学生以来であったが、しかし現在の俺はすでに嫁さん持ちの、子持ち(子持ちではない)の身。
今の俺であれば、心安らかに聖夜を過ごすことが出来るのだ。フハハハ、ざまあみろ。
「それにしても、お主の世界には奇特な奴がいるのじゃな。わざわざ身銭を切って、童子どもの望む品々を配って回るとは」
「いや、身銭を切っているかどうかは知らんが……」
あぁ、でも、その表現も間違いじゃないのか?
プレゼントを贈っているのは親だし、確かに身銭を切っているとは言えるだろう。
「中々に高潔な方もいるんすねぇ」
「ね。色んな神様とか聖人のお話は僕も聞いたことあるけれど、そんな子供に夢を与えるような人のお話は、初めて聞いたよ」
リューの言葉に、テーブルに皿を並べていたネルが言葉を続ける。
まあ、こっちの世界の聖人と、前世において俺が知っている聖人は、大分毛色が違っているからな。
こっちの世界の聖人は、なんか、大体皆強い。
魔物の侵攻から人々を守るため、三日三晩戦い続け殉職しただとか、単身で魔族の軍勢に突撃をかまし、その攻勢を遅らせて殉職しただとか、圧政を敷く大貴族に立ち向かい、民のために最後まで抵抗を続け、最後は貴族の罠に掛かって殉職しただとか。
殉職が基本なのは、やはり自身の死を厭わない程の自己犠牲がないと聖人に認定されないのだろう。嫌な世界だ
とにかく、こっちの世界における聖人は、何故か皆武闘派なのだ。
「其奴はきっと、ユキをさらに拗らせたような、とんでもない小児性愛者なんじゃろうな」
「サンタをとんでもないド変態みたいに言うなよ……」
聖ニコラウスさんも、まさかド級のロリコン扱いされるとは思わなかっただろう。
あと、何度でも言いますが、俺はロリコンじゃありませんので、引き合いに俺を出すのはやめてください。
そうして全員でクリスマスの準備をしていると、キッチンからひょっこり顔を出したレイラが俺達全員に声を掛ける。
「皆さーん、ご飯そろそろ出来ますよー」
「うーい。じゃ、こっちも後は星を飾って終わりにしようか。――お前ら、これを天辺に飾ってくれるか?」
俺の渡した星をレイス娘達は嬉々として受け取ると、デカいツリーをくるくる回りながら登って行き、木の天辺に三人で一緒に星を飾り付けた。
「よし、完成だ!」
「わーい、やったぁ! キラキラしててきれぇだね、おにいちゃん!」
「フフフ、まあ見てろ。これには仕掛けがしてあるんだ。ちょっと暗くするからな」
そう言って俺は、玉座の間の明かりを消してから、ツリーの根に手を触れ、そこから魔力を流し込む。
――途端、ツリーの飾りが淡い光を放ち始め、色とりどりに部屋を染め上げる。
「うわぁ……!」
「……ほう」
感嘆の声を漏らすイルーナとレフィ。
シィとエンは、無言でぽけーっとツリーに見入っており、レイス娘達は俺の肩や頭の上でツリーを見上げている。
今も人形に憑依したままなので、その表情はわからないのだが、じっと動かないところを見るに、彼女らもこのツリーに心を奪われているのだろう。
「……綺麗っす」
「……うん。すごい綺麗」
「あらあら、本当ですねー」
「へっへっへ、すごいだろ? 結構頑張って作ったんだぜ」
魔力を流し込むと発光する鉱石を、大量にDPカタログで交換し、ツリーに予め散りばめておいたのだ。
発光ダイオード代わりだな。
魔力が切れてしまうと光は消えてしまうのだが、そうならないように魔力の蓄電器のようなものをツリーの根本に備え付けたので、一度大量に流し込んでおけば三時間ぐらいならば優に稼働可能となっている。
実はこれだけで、かなりのDPを消費していることは内緒である。
彼女らの様子に満足した俺は、玉座の間の明かりを再度点け、彼女らに向かって言った。
「――それじゃ、飯にしようか!」
* * *
「……よし、幼女組は寝たな。これより、コードネーム『SANTA』を開始する」
俺は、サンタ衣装に身を包んだレフィと、トナカイの衣装に身を包んだリューに向かって、小さく語り掛ける。
ここは真・玉座の間ではなく城の外にあるいつもの旅館で、ここにいるのも俺達だけなので声を小さくして話す必要は全くないのだが、まあそれは気分というものだ。
「何じゃ、そのこーどねーむとやらは」
「それはスルーでよろしい」
ちなみにこの場にいないネルとレイラは、旅館のここの隣の部屋で二次会の用意をしている。
コードネーム『SANTA』を終わらせた後に、大人のクリスマスを開催する予定なのだ。お酒いっぱい飲むぜ。
「いいか、今回の我々の目標は、対象に正体をバレることなく、対象を起こすことなく、秘密裏にプレゼントを枕元に置くこと。すなわち、スニークミッションだ。蛇のおっさん顔負けの隠密を期待するぜ」
「のう、此奴の言っておることがよくわからんのは儂だけか?」
「……いえ、ウチもよくわからないっす。あとご主人、何でご主人とレフィ様はその赤い衣装なのに、ウチのだけ動物なんすか? つか、何の動物っすか、これ?」
「その角と色はホーン・ディアじゃないかの?」
「その衣装はトナカイという動物だ。サンタにはトナカイが必要なんだ。安心しろ、十分似合っていて可愛いぞ。やはり俺の見立ては間違ってなかった」
「そ、そうっすか?」
「あぁ、最高だ。お前以上にトナカイ役が似合うヤツはこのダンジョンにはいないだろう」
「え、えへへ、なら、いいっす。ウチ、トナカイ役頑張るっす!」
「……リュー、お主、単純じゃのぉ」
付き合いの長いレフィは俺が笑いを堪えていることに気が付いているようだが、リューはわかっていないようで途端にニコニコとした笑みを浮かべる。
可愛いヤツだ。
「話を戻すぞ。まず今作戦の注意事項を伝える。イルーナとシィは恐らくぐっすり眠っているから大丈夫だろうが、問題はエンとレイ、ルイ、ローのレイス娘達だ」
「ふむ……確かに、彼奴らに気付かれず事を成すとすると、少々難しいものがあるの」
「エンちゃん、気配に敏感ですし、そもそもレイスの子達は眠らないですもんね」
そう、エンは気配に敏い。
眠っているように見えても、近くに寄ると自然と目を覚ますし、起きている時なんか壁越しにいてもそれが誰だか当てたりする。
スキルとかではなく、単純に感覚が鋭いのだろう。刀なだけに。刀なだけに。大事なことなので二回ry
そして、レイス娘達に関しては、もはや眠らない。
肉体がないため睡眠を必要としないようで、休息状態として休んでいることはあっても、それはヒト種の眠りとは違って意識はしっかりとあるようなのだ。
「よって、難易度の低いイルーナ、シィ両名のプレゼントは、リューに担当してもらう。エンは、一番隠密が長けていると思われるレフィだ。レイス娘達は、俺が対応するから、その間に仕事を完遂してもらう」
「わ、わかったっす。結構しっかりとした計画なんすね」
「いや、ただ単に此奴がふざけて楽しんでいるだけじゃと思うぞ」
「何を言っているのかわからんな。――さ、行くぞ。迅速に動け!」
「はいはい、じゃ、やるぞ、リュー。後で此奴にうるさく言われないよう、しっかりやるとしよう」
「はいっす! トナカイとして、ウチ頑張るっす!」
そして俺達は、完璧な作戦の下、行動を開始した――!!
* * *
「うわぁ!!すごいすごい、おにいちゃん、見て見て!!ホントにサンタさんからプレゼント貰っちゃった!!」
「あぁ……本当だ。良かったな、イルーナ」
疲れた笑顔を浮かべながら、俺は彼女にそう答える。
まさか、レイス娘達とあそこまで死闘を繰り広げることになるとは……やはりイタズラっ子、ということか。
あんな妨害をしてくるとは、流石に予想外だったぜ……。
何とか気付かれず、プレゼントを配り終えることには成功したから良かったものの、危うく失敗するところだった。
エンの方も、レフィが究極の隠密を発動していたはずなのに、あんなことになるとは……ギリギリ気付かれていないだろうが、大分危なかったな。
「ね、おにいちゃん」
「ん? 何だ?」
「ありがとう! おにいちゃん、大好き!」
「……大好きと言ってくれるのは超嬉しいが、何を言っているのかわからんな。そのプレゼントを配ったのはサンタさんだぜ? 俺に礼を言うのは筋違いだろ」
「うん、そうだね! でも、おにいちゃんにもお礼が言いたくなっちゃったの!」
「…………」
ニコニコしながらそう言うイルーナに、俺は何も言えず、ただ彼女の頭をクシャリと撫でた。




