次代の勇者を担え!
派手鎧君こと、マニュエル君から聞くことが出来た話は、中々有意義なものだった。
彼を神輿にしようと煽てていた者達は、二人の中級貴族と、その取り巻きの数人の下級貴族達だと言う。
爵位は、中級貴族達が伯爵位で、下級貴族達がそれ以下の者達だ。
これは派手鎧君ではなく、国王から後に聞いた話だが、派手鎧君の言っていたその中級貴族の二人と、例の中継の街でネルを嵌めようとしたクソ貴族が、度々社交パーティなどで会話を交わしていた姿が目撃されているそうだ。
つまり、やはりそこで繋がりがある訳である。
国王はこのコイツらの交友関係などを洗い、三人の出会った人物から黒幕と思われる者を探っていくと言っていた。
交友関係から一人の人物を導き出すとか、刑事物ドラマみたいでちょっと面白いなと内心で思っていたが、真面目な話の途中だったのでちゃんと黙ってました。
そして、これが本題なのだが――近い内にこの王城で、大々的に社交パーティなるものが開かれるそうなのだが、これにはほとんどの貴族が参加し、漏れなくそのクソどもも参加するとのこと。
行動を起こすのは、ここだ。
社交パーティがあるということは国王からすでに聞いており、勇者は健在であるということを知らしめるために元々ネルも参加する予定だったのだが、当然俺も、国王の力でその場に参加することになっている。
この場で情報を出来得る限りで引き抜き、アンチネル派を正面から糾弾出来るだけの建前を得て、国家反逆罪として牢にぶち込むか俺がぶち殺す。
そこまで上手く行かずとも、俺とネルが注目を集めることは確実だと思われるため、そこで相手側の動きを見極め、牽制する。
とにかく、何かしらの進展があることは間違いない。
その社交パーティに向けてしばらくは動くことになるだろう。
とまあ、いつもの俺なら「人間社会なんざ知るかボケ」と、突撃かましてぐわーっはっはと魔王の高笑いをするところを、こんな回りくどいやり方でやっているのは、今回に限ってはネルが関わっているためだ。
一応勇者の従者として名乗っている俺の行動は、全て主であるネルの評価に繋がり、俺が人間社会を顧みない行動を取るとそれに応じてネルの評判も悪くなってしまう。
仮に、もう煩わしくなってしまってアルゴス=ラドリオなるクソ貴族を拷問して情報を吐き出させてからぶっ殺そうものなら、発覚した瞬間非難は轟々、発覚せずともアンチネル派であった男が突然姿を消そうものなら、疑いの目は全てネルへと向かってしまうことは容易に考えられる。
それは、よろしくない。
確かに俺は、ネルと我が家で暮らしたくはあるが、そのためにこっちの人間社会でネルの居場所を壊すなどというサイコパスな真似はしたくない。
出来る限り今回の件に関しては、人間社会の流儀でネルの勇者としての威光を回復させ、そして情勢が落ち着いた後にふざけたことをしちゃってくれたクソどもをぶち殺す、という方向性で動こうと考えている。
処理は……国王にお願いしよう。きっと何とかしてくれるだろう。
……国王と領主のおっさんには、かなりお世話になっているから、何かお返し出来るものを考えておかないとな。
「……ふむ、こんなところか。よし、マニュエル君」
「な、何だ」
今までと態度が一変し、ちらちらとネルの方を見ながら口を開く派手鎧君。
女が勇者やるな的なことを言っていたくせに、ネルの天使の微笑みにほだされたのか、今ではこの始末である。
わかりやすいというか、バカというか。
「お前、もうネルの敵にはならんな?」
「え、あ、う、うむ……そうだな、勇者とは何も、武力が全てではないのだな。まるで……そう、聖母のような優しさと慈しみを持つことも、勇者としての大切な素質なのだろう。つまり僕が浅はかだっただけで、ネル殿には勇者としての資質がしっかりとある訳だな! うむ、そういうことなら僕が言えることなどある訳がない!」
何言ってんだコイツ。
調子の良いことを言う派手鎧君に、思わずジト目を向けてから、小さくため息を溢し、言葉を続ける。
「……それはわかった。んで、お前は次代の勇者をまだ目指すのか?」
「勿論だ! ネル殿と、この国を守るため共に頑張ろうと約束してしまったからな!」
「あ、う、うん……そうですね、頑張りましょう」
困ったように苦笑を浮かべながら、そう言葉を返すネル。
おい、俺の嫁さん困らすなや。ぶっ飛ばすぞ。
「……まあいい、なら、これをくれてやる」
そう言って俺は、次代の勇者さんに対し、アイテムボックスから取り出したそれをポンと投げ渡す。
「うおっ、重いな! 何だ、これは? 訓練用の木剣か?」
怪訝そうな表情で彼が見るのは、俺の渡した――木刀。
「木剣は木剣だが、ただの木剣じゃないぞ。鉄より硬く、丈夫で、しかも内部に魔力を有してるからそれ単体で魔法も発動出来るし、杖代わりにもなる万能品だ。少なくとも、そこらの名剣よりは相当質が上だぞ。形状は刀――じゃなくて湾曲した剣だが、かなり重いし硬いから、どちらかと言うと鈍器として使用しろ」
魔王の木刀:魔王ユキが作成した、木製の刀。材質に魔硬樹が使用されており、魔王ユキが多量の魔力を流し込んで作成したため、鋼鉄以上の強度を誇る。魔力伝導効率が高く、杖としても使用可能。品質:B+。
これは、『魔硬樹』という魔境の森に生えている樹木で作った木刀だ。
木刀のくせに、鉄製の剣よりも強度があり、打ち合ったら普通に鉄の剣の方を叩き折ることが出来る。
一応、俺が全く使わない『杖』にもなる代物で、これを使うと魔法の発動がし易くなる、らしい。
らしい、というのは、杖として一度使ってみたのだが、なんかよくわからず、魔法が発動しやすくなっているのかどうか判別つかなかったためだ。
というか、エンの方が魔力を流しやすいし、魔法も上手く発動する。
それにエン、自分で判断して魔法放ってくれるから、超楽。
まあ、エンは俺が作った武器の中でも最高傑作の作品であり娘だから、これも自分で作った作品であるとは言え、こんな木刀如きに負ける訳がないのも道理だがな!
あと、すっごくどうでもいいが、洞〇湖と彫ろうかどうかでちょっと悩み、しかし俺に彫る技術はないことを思い出して諦めた。
「ほう……確かにこの木剣からは、力を感じるぞ! しかし、こんなものを貰ってしまって良いのか? 高価な品なのだろう?」
「色々教えてくれたし、礼代わりだ。それに、次代の勇者になるんだろ? だったらまあ、ちったぁ頑張ってもらわないとな」
遊び半分で作ってみたのだが、予想以上に造りが良く、アイテムボックスに死蔵しておくのが勿体なくなった、ということは黙っておこう。
この武器を使って実力をあげて、ネルが我が家で暮らせるように君が頑張ってくれたまえ。
「仮面……もしかしてやはり、僕の仲間になりた――」
「ならねぇっつってんだろ!」
* * *
「はー、全く。バカの相手は疲れる……何で朝っぱらから、アイツの相手をしてたんだろうな、俺は……」
派手鎧君と別れ、訓練場を後にした俺は、大きく伸びをしながらそう言った。
「フフ、でも、おにーさん自分の作品あげてたし、彼のこと気に入ってたんじゃないの? そんな悪い人じゃなかったしね」
「いや、全然。あの木刀、気に入ってたから死蔵するのが勿体なくてな。あと彼に頑張ってもらって、この国の安定度をあげて、ネルが我が家に来やすくしてもらわんと」
「えっ、も、もう、そんなこと考えてたの?」
「そりゃあな。お前がこっちで勇者をやることには納得したが、当然出来ることなら一緒に暮らしたいし。そのためにやれることはやっておかんとな」
ニヤリと笑みを浮かべ、肩を竦める俺を見て、ちょっとだけ嬉しそうな表情を浮かべるネル。
「そういや、ネルはわかるけど、ロニアとイリルはどうしたんだ? ネルに連れて来られたのか?」
「ネル様のところへ遊びに行ったら、まおー様が訓練場にいると聞いて、ネル様に連れて来てもらったです! ロニア様も一緒です!」
「うん、ロニアもちょっと時間があったらしいから僕のところに来て、それで二人と一緒になってね」
あぁ、なるほど、そういう感じで三人集まったのか。
と、ネルの隣を歩いていたロニアが、ふと俺に向かって口を開いた。
「貴方、そう言えば魔界で出会った時も付けていなかったし、今も付けていなかったけれど、防具は使わないの?」
「え? あぁ、まあな。色々理由があって、防具は付けないなぁ」
「確かに、おにーさんが防具付けてるのって、見たことないね」
俺は、防具を付けない。常に普段着の様相である。
それは、魔境の森において、防具を付けることには全くメリットがないためだ。
まず、DPで出した生半可な防具では、魔境の森において一番弱い南エリアの魔物の攻撃すら防ぐことがままならず、おもっくそDPを支払って出した防具でも、最も魔物が強い西エリアに行くと一撃で壊されたりする。実体験済み。
それに俺、勝てないと悟ったらしっぽを巻いてとっとと逃げるから、邪魔で動きにくい防具はいらないし、何よりこの魔王の身体はかなり強靭に出来ているので。
最強の種族である龍族の攻撃にすら耐えたからな。
俺より圧倒的に強い相手の攻撃からも、今では人体の急所が詰まった正中線を咄嗟に守ることも出来るようになったし、一撃耐えることが出来ればポーションで回復が可能だ。
ポーション飲む間はリルが守ってくれるし。
つか、実際に戦闘をする身になって思ったのだが、兵士諸君はよくあんな、視界の阻まれるヘルムを被って、クソ重い鎧を身に纏って動けるものだ。
ヒト種同士の戦いでも、この世界のヒト種って前世の人間より圧倒的に強い訳だし、あんな鉄程度の鎧で攻撃が防げるのだろうか。
そんなことを掻い摘んで説明すると、ネルが納得した、と言いたげな声を漏らす。
「へぇ、ちゃんと理由があったんだね。僕はてっきり、ただのおにーさんの趣味かと。その作業着みたいな恰好が」
「作業着言うな」
確かに基本的にTシャツGパンだけれども。
だって、楽なんだもんよ。
基本的にいつもダンジョンに籠っている以上、お洒落に気を遣う理由もないし……。
「そう。ところで貴方、魔王なの?」
「おう――おうじゃない! い、いや、その……あー……やっぱ誤魔化せなかった?」
話の流れであまりにも自然に振って来たために、思わず一度頷いてしまってから、慌てて否定し、しかしもう流石に誤魔化すのは無理だと悟って、そう聞き返す俺。
恐らくは、王女ちゃんの俺の呼び名で、気になったのだろう。
「ネルは嘘が吐けないわ。すぐわかる。――なら、貴方、魔境の森の魔王ね? この子が討伐に赴いたことのある魔王は、その魔王だけ。そう、それで出会ったと」
完全にバレている。
すごいな……やはり、宮廷魔術師というぐらいだし、相当頭が良いのだろう。
と、俺の横でネルが、アワアワしながら宮廷魔術師ちゃんに言葉を掛ける。
「あ、あの、ロニア。えっとね、これには理由があって……」
「別に、だからどうということもない。この人が何者であろうと、ネルを救ってくれたことに変わりはない」
「……うん。ありがと、ロニア」
「ロニア様、まおー様は、ゆーしゃ様なまおー様なんですから! しかも、とってもかっこいい翼を持ってるんです!」
俺達と一緒にいた王女ちゃんが、ニコニコしながらそう言う。
「確かに、一度見たことがあるけれど、あの翼は格好良かった。研究してみたいぐらい」
「お、おう、どうも?」
研究してみたいぐらいというのは、果たして褒め言葉として受け取っていいのだろうか。
「まおー様! もう一度あのかっこいい翼、見たいです! あとあと、まおー様がお住みになっているというところ、イリルも行ってみたいです!」
「こ、ここではちょっと人目があるから、後でな。それと、ウチはちょっと遠いし、危険だから、それは無理だ。ごめんな」
「えー! だって、まおー様はでっかくてかっこいいお城に住んでいるんですよね? 是非とも見てみたいです。イリル、ここから出たこと、あまりないから……」
そう、寂しそうな様子で呟く王女ちゃん。
…………。
「……わかった、じゃあ帰る時に一緒に来るか。後で、君の父ちゃんにも話しておくよ」
「! 本当ですか!?」
「あぁ。ただ、君の父ちゃんが無理だって言ったら流石に無理だからな?」
「はいです! ありがとうございます、まおー様!!」
途端に嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべるイリルの頭を、俺はワシャワシャと撫でた。
「……彼、小さい子好きの特殊性癖なの?」
「うーん、そうみたい。小っちゃい子には大分甘いし」
「もう何度言ったかわからないが、違うからな。あとネル、お前も頷いてんじゃねぇ」
もうなんか、こう言われるのも久しぶりだな。
我が家だと、どういう訳か俺がロリコンというのは周知の事実のようになってしまい、それはそれでムカつくことにイルーナ達と遊んでいても誰も何も言わなくなったからな……。




