偽勇者《4》
いつも感想を書いてくれている方、超ありがてぇ……。
うーん、弱い。
「ハッ、フッ!!ふぬっ!!」
派手鎧君の打ち込みを、木剣の剣先で適当にいなす。
「クッ、この……何故攻撃しない!?ハッ、もしかして僕の剣技を恐れて――」
「ちげーよだアホ」
「いッ……!!」
胴への突きを弾き、隙だらけになった派手鎧君の脳天に、ガゴンと木剣を叩き込む。
「すごい……マニュエル様の攻撃を、ああも簡単にいなすなんて」
「マニュエル様は、実力は確かにあるお方だ。模擬戦闘で戦っていらした様子を何度も見たことがある。そのマニュエル様を、あんな無造作に構えているのにもかかわらず圧倒出来るとは、それ以上の隔絶された剣技を持っているということ。流石、救国の英雄ということか……」
「きゃーっ、まおー様ー!」
完全にこちらの観戦モードに入っている兵士諸君と、王女様のそんな声が聞こえて来るが……正直、兵士諸君の言っていることは的外れに近いだろう。
単純に、攻撃が止まって見えるのだ。
突きも払いもフェイントも、俺より洗練された剣技はしているが、見えているので普通に避けられる。
実力云々以前の差だ。
やっぱ人間、弱いなぁ。
多分、この木剣でも俺が本気でぶっ叩いたら、コイツ、死んじゃうだろう。
「ハァ、ハァ……ぬぅっ……!」
と、本気の打ち込みを続けていたためか、流石に疲労が溜まって来たようで、激しく肩を上下させる派手鎧君。
「そら、ちゃんと握ってろ」
「んぎっ……!」
その隙に俺が小手を殴ったことにより、彼の手の中から木剣がすっぽ抜ける。
「はい、俺の勝ちだな」
「むっ……まだ負けていない! 次代の勇者たる僕に、負けは存在しないのだ!!」
そう言って、吹っ飛んだ木剣を再び拾い上げ、構えを取る派手鎧君。
その彼の様子に、ふと思うところがあった俺は、木剣をブランと下に垂らしたまま問い掛けた。
「……お前、どういうつもりでネルを侮辱したんだ?」
「……フン、どういうつもりも何も、そのままの意味だ! 勇者とはこの国の力の象徴。ならば勇者は負けてはならないし、苦境に陥ってもならない! だが、現勇者は苦境にあったことを知られてしまっただろう!! 知られなければ負けは負けではないが、すでにそのことが民に知れ渡ってしまっているのだ!!」
「…………」
「それに、現勇者は女だ! 女が殺し合いの場に立つ理由などない! 女は家で、編み物でも何でもして平和に暮らしていればよい!」
あぁ……なるほど。わかったぞ。
コイツ、ただ単純に口が悪いヤツなのか。
ちょっと、勘違いしていた。
その口の悪さから、コイツも今王都にいるらしいアンチネル派野郎かと思っていたのだが――いや、アンチネルではあっても、それはコイツなりの信念があって、あんなことを言っていた訳だ。
何となく、今まで出会ったことのあるクソ野郎どもみたいに暗い悪意を感じなかったので、怪訝には思っていたのだが……全く以てわかりづらいヤツだ。
男のツンデレなんて需要無いぞ。
「……ふむ、わかった」
「続きをするぞ、仮面! まだ勝負は終わってッ――」
俺は、一足で懐まで潜り込むと、バギ、と派手鎧君の木剣を中程で蹴り折り、一気に体勢を下げ足に払いを食らわせる。
「ふガっ!?」
そして、顔面から訓練場の床に倒れた派手鎧君の頭のすぐ横に、俺の木剣をガツンと突き刺した。
「これで、俺の勝ちだな? 安心しろ、これは訓練だ。訓練で負けたぐらい、誰も何も言わねぇだろ」
「…………クッ」
これ以上ない程明確な力量さに、流石に負けを認めたのだろう。
悔しそうな表情を浮かべ、身体から力を抜いた派手鎧君を見て俺は、彼に向かって言った。
「よし、お前、ネルに謝れ」
「はっ、な、何故だ!?」
「当然だろ? 勇者の従者である俺よりお前が弱いってことは、お前は現勇者よりも弱いんだ。次代の勇者だなんだ言うのはどうでもいいが、ネルより弱いお前が何だかんだアイツに言うのは、筋違いなんじゃねぇのか?」
まあ、実際はネルより俺の方が強いんだが、それを言うと話がややこしくなるので黙っておく。
「ぬ、ぬぅ……確かに……」
「じゃ、今呼ぶからな。ちゃんと謝れよ。――おーい、ネルー!」
俺の呼び掛けに、観覧席からこちらを見ていたネルが、不思議そうに小首を傾げながら自分のことを指差す。
頷き、ちょいちょいと手首を曲げて呼ぶと、ネルは隣の二人に「なんか呼ばれてるから、行ってくるね」と言って訓練場のステージに入り、俺のところまでやって来る。
「何、おにーさん?」
「コイツがお前に言うことがあるんだとよ。な? マニュエル君」
そう俺が促すと、派手鎧君は渋々といった様子ながらも、床に寝っ転がったままぼそぼそと口を開いた。
「……も、申し訳なかった、勇者殿。貴殿の従者にも勝てない僕が、生意気を言った。許して欲しい」
その派手鎧君の様子に、ちょっとだけ面食らった様子を見せた後に、苦笑気味の表情を浮かべるネル。
「あー……ま、まあ、おにーさんに勝てないのは仕方のないことだと思うけれどね。それに、君の言う通り、僕がまだまだ勇者として弱いのは確かです。えっと……だから、お互いにこれからいっぱい努力して、国を守る者として頑張りましょう?」
ニコッと微笑みを浮かべ、派手鎧君に手を差し伸べるネル。
派手鎧君は、しばしぽけっと口を開いたまま、呆けた様子でネルのことを見詰めると、やがてゆっくりと彼女の手を取り――。
「……け、結婚してくだ――」
「ぶち殺すぞクソボケ」
「何でもないです! えぇ、お互い頑張りましょう!」
頬を引き攣らせ、冷や汗をダラダラと流しながら、派手鎧君はネルの手を取って立ち上がった。