信用は日々の積み重ねで勝ち取るもの
緊急重版、決定しました!!
やったぜ……。
買っていただいた皆々様、読んでくださっている皆々様、大変スーパーウルトラメガマックスハート感謝です(小並感)。
WEBの方も、随時更新を続けていきますので、どうぞよろしく!
「全く……勇者殿が詰め所にいると聞いて慌てて駆けつけてみれば、何をしておるのだ、貴殿らは」
呆れた表情を浮かべ、脱力した様子でそう呟く領主のおっさん。
「す、すみません、領主様……」
「い、いやぁ、すんません、ホント」
恐縮した様子で謝るネルに、同じくその隣で謝る俺。
「……まあ、貴殿らが仲が良いことは知っておるがな。しかし勇者殿は、立場のある身。公の場での行動には、もう少し気を遣われた方が良い」
「はい、仰る通りです。つい、いつもの調子で……ご迷惑をお掛けして、本当にごめんなさい」
ネルの反省した様子に、領主のおっさんはコクリと頷くと、今度は俺の方を向く。
「……そして、ユキ殿はもう少し周りを見ることだ。人間社会では、自由に振る舞えるのは時と場合による。ネル殿を娶るつもりなら、貴殿は人間のことをもっと学ぶべきだ。……魔王を相手にこんなことを言うのは、何だかおかしな気分だな……」
「へ、へい。精進します」
俺も、元人間だから人間社会はわかっているはずなんだがなぁ……。
――あの後、しばし魔王と勇者の鬼ごっこを続けていたのだが、突如として何故か衛兵達が俺達の――というより、俺の前に立ちはだかったのだ。
物々しい様子で立ちはだかる彼らに、何だろうかと疑問符を頭に浮かべていた俺は、ガシャリと手枷を嵌められ、「え? え?」と俺だけでなくネルと共に混乱している内にそのまま衛兵の詰め所まで連れて行かれ。
後に話を聞いたところどうも、俺達のことを見ていた周囲の町民達が、「勇者が聖剣を抜いて見知らぬ男を追っている!」なんて勘違いをして、通報したらしい。
鬼ごっこが、変質者とそれを追う勇者、という構図として見られていたのだそうだ。
まさかキレた勇者が感情に任せて聖剣を振り回しているとは誰も思わず、この街の救世主たる勇者が追っているなら、それはもう確かな変質者なのだろうと、勇者の手助けをするため即座に衛兵達が出動して来た訳だ。
一つだけ言っておきたいのだが、誰が変質者だ、全く。
皆して俺のことを変質者呼ばわりしやがって、失礼しちゃうぜ。
とまあ、ようやく事態を呑み込めたネルが、慌てて弁解することでどうにか誤解は解けたものの、一応規則だから身元確認の出来る者を、と前世の交番のようなことを言われ、衛兵に呼んでもらったのが、この領主のおっさんだったのである。
割とマジで、くだらないことで迷惑掛けて申し訳ない限りである。
俺達の様子を見て、領主のおっさんは小さく息を吐き出すと、話はこれで終わり、ということか、別の話題を口にする。
「それと、今回のことで仮面の正体が貴殿だと気付かれてしまったようだが、それは良いのか? 仮面の姿は、魔王の正体を隠すためのものだったのだろう?」
「え? あぁ、いや、大丈夫だ。ちょっと考えがあって、顔だけは見せることにしたんだ。けど、魔王とはバレないようにはしているから、そこは問題ない」
ネルを嫁にする以上、ずっと正体を隠したままとは行かないし――ステータスと偽名はすでに、人間に偽装している時のものに変更してあるが――それに、今はもう仮面の正体が俺であるとバレてもらった方がいい。
ネルとのおふざけで意図しないタイミングで顔が割れてしまうことにはなったが、元々、どこかのタイミングで仮面=俺、というのはバラすつもりだったのだ。
自分で言うのはアレだが、一応俺は謎の従者『ワイ』として、以前王都の危機を解決した身だ。
ソイツが今度は、勇者と結婚すると言って、王都にやって来るのだ。
まず目立つだろうし、ネルを潰そうとしている勢力は、確実に俺に興味を持つだろう。
そうなれば、ネルに掛かる負担や工作も少しは減らせるかもしれないし、敵の割り出しにも期待出来る。
その時、全く誰だかわからない謎の仮面よりは、正体が俺とバレている方が、向こうもこっちに接触し易くなるはず。
要するに、自分自身を使った囮作戦だな。
魔王の囮だ、これ以上ない程高価な餌だぜ。是非とも食いついてくれ。
「ふむ……考えがあってのことであるならば、構わないが……しかし大丈夫なのか? 仮に貴殿が魔王であるとバレてしまえば、婚約どころの話ではないぞ。確実に勇者殿は裏切った勇者として人間界自体を追放になる」
と、その領主のおっさんの言葉に、俺ではなくネルが先に答える。
「その時はその時で、もう開き直って彼のところに行きますので、大丈夫です、領主様。ご心配ありがとうございます」
「……この国に仕える身としては、出来ればそのような結果にはなってほしくないのだがな。そうか、すでに勇者殿は心を決めたのか」
「はい! やらせていただけるのであれば出来る限りで勇者を続けるつもりですが、しかしどんな結果になっても僕は、いじわるで人が悪くて、おバカで子供みたいないたずら好きで、基本的に勢い任せで失敗ばかりのこの人の隣で生きると、もう決めちゃいましたから」
「……あの、ネルさん、さっきのことまだ怒っているのでしょうか。良いことを言ってもらっているはずなのに、素直に喜べないんですが」
「ううん、全然怒ってないよ! 僕は、おにーさんみたいに子供じゃないからね。過去は水に流せる器量を持っているのさ」
「しかし、ネルさん、さっきからアナタにビシビシと肘で脇腹を突かれているのですが、これは怒っている訳ではないのでしょうか。少々、言動が一致していない気がするんですが」
「気のせいじゃない?」
そ、そうか。気のせいか。
うん、この、抉るような角度で入って来る鈍痛は、きっと錯覚だ。
ピンポイント攻撃なためか、魔王の身体なのにもかかわらず割と痛いのもきっと、俺の感覚器官が狂っているだけなんだ。
脇腹に感じる痛みに、何とも言えない苦笑いを浮かべながら俺は、領主のおっさんに向かって言葉を続ける。
「ま、まあ、とりあえず俺の正体がバレることはほぼないから、安心してくれ。そんなヘマを打つつもりはないし、魔王の不思議パワーで『お! 人間だ』『あぁ、人間か』ってなるぐらいの完璧な人間になり切ってやるからよ」
「……よくわからない上に、そこはかとなく安心出来ないように感じてしまうのは、私だけだろうか」
「領主様、おにーさんのことをよくわかって来ましたね」
……俺ってこういう時、毎回信用されないよな。
日頃の行いか。日頃の行いのせいか。
心当たりはありまくりだが……俺、魔王だから、ある程度は仕方ないよネ!




