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魔王になったので、ダンジョン造って人外娘とほのぼのする  作者: 流優
王都花嫁騒動

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220/613

扇動


 

 俺はネルを肩から下ろして自身の後ろに隠すと、ズイと一歩前に出る。


「……? 誰だ、お前は……?」


 前に出て来たこちらを男は訝しげに見るが、俺はその声をシカトして口を開いた。


「随分確信を持った言い方をするな。勇者が全ての元凶だと?」


「あ、あぁ、そうだ! この女が来た途端にこの事態だ! この女がどこかで何かをやって、その報復に魔物どもが来たんだろ! タイミングから見て、マッチポンプすら考えられるな!」


「おかしなことを言いやがる。ネルが来た途端にと言うが、何で俺達が今日街に来たって知ってんだ? 俺達は一日馬車に乗ってこの街に来て、しかも今日着いたばかりだ。アンタはまるで、勇者の動向を一から十まで知っているみたいだな」


 その俺の言葉に、男はグッと押し黙ってから、再び口を開く。


「たっ、偶々今日、勇者が馬車から降りたところを見ただけだ」


「へぇ、馬車から降りたところを見たと? 俺達が降りたのはホテルの(・・・・)厩舎の中(・・・・)だったんだけどな。お前のような風貌の男はいなかったはずだが」


「……!」


 しまった、と言いたげな様子で、一瞬男の顔が歪む。


 そう、俺達が馬車を降りたのは、ホテルと繋がっている、厩舎の内部だった。


 厩舎と言っても、牧場などにある一般的な厩舎ではなく、割とマジで屋内駐車場のような立派なところだ。

 偉いヤツらが泊まるホテルだけあり、お忍びでやって来る者のことも想定してか、外からは内部の様子が全く窺えない造りになっていて、徹底しているもんだと呆れたぐらいだ。


「俺達が泊まったのは、知り合いの領主が贔屓にしているってぐらいのホテルだから、管理がしっかりしていてな。ただ見逃しただけでお前が厩舎の内部にいたのだとしたら、つまりお前は、ホテルの従業員か宿泊客か、はたまた不法侵入者ってことになる」


 管理がしっかりしているかどうかは、まあ正直知らんが。

 でまかせでも、こういうのは説得力があれば良いのである。


「お前はどれだ? 従業員か宿泊客ってんなら、後でホテルに確認に行こう。きっと答えてくれるはずだ。不法侵入者なら……まあ、どういう扱いになるのかは知らんが、後は衛兵にでも任せておくよ」


「…………」


 男は、俺の質問に答えない――いや、答えられない。

 迂闊なことを言えば、墓穴を掘ることになると理解しているからだ。


 周囲の者達の険しい視線が自身に集中するのを感じ取ったのか、チラリと辺りに視線を巡らせてから、男は怒鳴り声をあげる。


「は、話を逸らすんじゃねぇ! 俺がどうだろうと、それは今関係ねぇ話だろうが!!」


「おっと、確かにそうだな。じゃあわかった、仮に、ネルが原因だったとしよう。だがな――それが(・・・)どうした(・・・・)?」


「何……?」


 怪訝そうな表情を浮かべる男に俺は、仮面の奥でニヤリと笑みを浮かべると、大袈裟な素振りで外を指差す。


 同じように、周囲の者達の視線が、今度は男からその指の示す先へと移る。


 ――俺が魔力を渡し、ネルが技を放った痕だと思われる、特大の地割れに。


「街が危険に陥ったって? どこが? 誰か怪我したか? この男が言う危険が何なのか、是非とも教えてもらいたいもんだな!」


「た、確かに俺は見たぞ。勇者の一振りで、魔物どもが吹っ飛んで行ったのを!」


「俺もだ!」


「俺も!」 


 多くの兵士達の、俺に同意する声。


「そうだ! あの程度、勇者にとっては日常と変わりない! あの程度、我らが勇者であれば一時間と足らず殲滅出来る! 魔物なんて目じゃねぇ!!」


 うおおおお!!と上がる歓声。


 俺は、周囲が十二分にハジけているのを確認すると、若干やり過ぎな気がしなくもないが、ダメ押しとばかりに高らかに声を張り上げる。


「わかったかお前ら!!勇者ってぇのは、そんな柔な存在なんかじゃ、決してねぇ!!――我らが勇者に、万歳!!」


『勇者に万歳!!』


 グンと拳を振り上げた俺に続いて、一段とデカい熱狂の声が、街の外壁中から立ち昇った。


 ……やべ、扇動って、ちょっと楽しいわ。


 あ、ちなみにネルさんはというと、俺の隣で「あぁ、どうにでもなれ」とでも言いたげな様子で、というか実際にそう言って、引き攣り気味の苦笑いを浮かべていました。



   *   *   *



「クソッ、クソがッ! こんなの聞いてねぇぞ! 俺の仕事はちゃんとやった、失敗したのは俺のせいじゃねぇ!!」


 悪態を()きながら男――カクザは、少しだけ白んで来た空の下、馬車を走らせる。


「何が『兵士に毛が生えた程度の実力』だ、あの女、とんでもねぇ実力の化け物だったじゃねぇか!!これだから貴族ってヤツぁ、信用ならねぇんだ!!」


 自身に『仕事』を言いつけた貴族の顔を思い浮かべ、ギリィと歯を噛み締める。


 ――その時だった。


「へぇ……その話、詳しく聞きてぇな」


「ッ!?」


 突如、背後から聞こえて来た声に、カクザは傍らに置いていた剣を咄嗟に鞘から引き抜き、機敏な動作で後ろに向かって振り抜く。


 だが、その攻撃は空を斬り、お返しとばかりに頭部に何者かの鋭い回し蹴りを食らって、馬車の上から吹き飛ばされる。


「かフッ――」


 荷台での激しい動きが伝わったのか、走っていた馬が興奮して嘶きを上げ、轍で出来た道の横に生えている木に激突し、馬車が横転する。


 カクザが地面に叩き付けられた数瞬の後に鳴り響く、馬車の破砕音。


「ッ、フゥ、フゥ」


 衝突の衝撃で一瞬息が詰まるが、カクザは無理やり肺を動かして呼吸を再開し、すぐに立ち上がって周囲を警戒する。


 ――刺客は、横転する前に自分から馬車を飛び降りたらしく、カクザより少し距離を取ったところで無造作に突っ立っていた。


「……お前は、さっきの仮面野郎」


「もう町人の振りはやめたのか? 随分動きがいいじゃねぇか」


 刺客は、先程言い争いを繰り広げた仮面の男であった。


 武器は持っていない。完全な素手だ。


 ――格闘家タイプか……?


「何しやがる、さっきアンタの嫁らしい勇者を馬鹿にしたから、その報復にでも来たのか?」


「まあ、間違ってはないが。色々と聞かせてもらおうと思ってな。アンタがどういうつもりで扇動しようと思っていたのか――さっきの話だと、どこのクソ貴族に雇われていたのか」


「…………」


 チラリと確認すると、先程蹴り飛ばされた際に落とした剣は、自分より数歩離れたところに転がっている。


 ダッシュで踏み込めば、すぐに拾い上げることの出来る距離だ。


 ――()れるか。


 この仮面の男は、実力はあるだろう。

 勇者の従者と名乗っていたぐらいだし、先程の動きを見ても、それはわかる。


 全く姿形もなかったところからいきなり現れたところを見ても、魔法に長けていることも間違いない。


 しかし――恐らくこのタイプは、自惚れる。


 自身が優位に立っていることを認識して、まともに構えすら取っていないことがその証拠だ。


 そんなことをせずとも、自分のことを殺せる自信があるからなのだろうが……そこに、つけ入る隙がある。

 

 瞬時に頭の中で算段を立てたカクザは、出来るだけ愚かに見えるよう、大袈裟に狼狽しながら口を開く。


「ま、待ってくれ! 確かにアンタ達をハメようとしたのは悪かった、下心だったんだ、大金に目が眩んで! や、雇われた貴族の名前なら言う!!」


「ふぅん? じゃあ、聞こうか」


「俺を雇ったのは、王都の貴族だ、勇者をハメろって――」


 話途中に、仮面の男の身体から緊張が一瞬(ほぐ)れたのを感じ取ったその瞬間、カクザはダッシュで飛び込んで剣を蹴り上げ柄を握ると、一気に仮面の男に向かって肉薄する。


 そのままカクザは、突進の勢いままに躊躇なく剣を振り抜くが――。


「何ッ!?」


 ――そこには、誰もいなかった(・・・・・・・)


 つい今しがたまでそこにいたはずの男は、すでに影も形もなくなっており、再び剣が空を斬る。


 慌てて体勢を立て直そうとするも、カクザが動揺から回復する前に強い衝撃を背中に食らい、地面に押し倒される。


「ガッ――」


「オイオイ、どうした? 急に元気になってよ。さ、話の続きだ。お前を雇ったのは誰で、どういうつもりで俺達をハメようとしていたのか。教えてくれるんだろ?」


 頭上から聞こえる声。


 即座に逃げようとするが――瞬間、左足に激痛。


「ッッ――!!」 


 ぶわっと身体中から汗が噴き出す。


 迸る痛みに歯を食い縛りながら左足に視線を送ると――視界に映ったのは、一本のナイフ。


 そのナイフがカクザの左足に突き刺さり、そのまま貫通して地面にまで縫い付けている。

 ドクドクと血が流れ出し、瞬く間に地面を赤色に染め上げ始める。


 そして仮面の男は、柄を蹴り飛ばしてカクザから剣を手放させると、至って軽い口調で口を開いた。


「おっと悪い、お前が急に動くもんだから、思わずビックリしてナイフ落としちまった。気を付けてくれ、俺は不器用なんだ」


「て、テメェ!!俺にこんなことしでィッ――!!」


「おい、急に大声出すなよ。またビックリしてナイフ落としちまったろ」


 仮面の男は躊躇なくカクザの右足にナイフを突き刺し、左足と同じように地面に縫い付ける。


「グゥッ……クソがッ!!テメェとテメェの女のせいで、全部台無しだよ!!テメェの女はバケモンだし、テメェはとんでもねぇペテン野郎だッ!!」


「そりゃどうも、ほめ言葉だ」


 激痛に荒く呼吸を繰り返しながらカクザは喚き散らすが、しかしあくまで頭は冷静にさせ、何か突破の手段がないかと必死に周囲へ視線を巡らせる。


 ――剣は……ダメだ、届かない。掴む前に腕をへし折られる未来が見える。

 

 というより、両足を封じられた今、可能な動きは大幅に制限されてしまっている。


 ……ならば、隠しナイフをここから投げ飛ばし、ヤツの喉笛を掻っ切る。それしかない。


 ブラフは、もう必要ない。

 そんな余分な動作は全て切り捨て、ただ最速の動作で息の根を止める……!


 カクザは仮面から見えない位置で懐からナイフを引き抜くと、下半身が縫い付けられているため、ただ上半身だけを思い切り捻って後ろを向くと同時に、渾身の力でナイフを――。


「悪いが、もうお前にターンを渡すつもりはないんだ」


 ――だが、その攻撃もまた、仮面にダメージを与えることはなかった。


 仮面の男は、カクザの腕を途中でパシッと掴み、ナイフを投げるモーションを強制的に終わらせると、肘の可動域の反対(・・)に向かって力尽くで捻じ曲げる。


「――――!!」


 鳴ってはいけない、ボキッという音。

 言葉にならない悲鳴が、思わず口から漏れ出る。


「おぉ、痛そうだ。だが、安心してくれ。ここに今、上級ポーションが五本ある。ちょっと勿体ないが、お前のために全部使ってやるよ。喜べ、好きなだけ俺からの質問に口を(つぐ)めるぞ。とんだドM野郎もいたもんだ」


 そう言って仮面は、腕を折られた拍子にカクザが落としたナイフを拾い上げると、カクザの顔の前に腰を下ろす。


「ま、お前がドM野郎なのだとしても、早めにギブアップしてくれると助かる。俺、別に加虐趣味とか無いしさ。むしろグロいのは苦手でな。――な? わかるだろう?」


 ニヤァ、と仮面の隙間から覗く、男の笑み。


 その酷薄な笑みに、ゾォ、とカクザの背筋に冷たいものが走った。


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こちらもどうか、よろしくお願いいたします……! 『元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~』



書籍化してます。イラストがマジで素晴らし過ぎる……。 3rwj1gsn1yx0h0md2kerjmuxbkxz_17kt_eg_le_48te.jpg
― 新着の感想 ―
[良い点] ここら辺はしっかり魔王なんだねwいつものほほんとしてるからなんかちょっと安心?嬉しくなりました。
[一言] ユキがイキイキしているのを見てるとこっちまで楽しい気分になるから、どんどん好きなことやってほしい
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